第451話  みんな忘れてないよね?

 そのモニターは、この巨大なダンジョン大陸の周囲をぐるりと監視するための物。

 何者かが間違ってこの大陸に近づかない様にするための、周囲の海域を監視するモニターである。もちろん、大陸から出ようとする者もチェックされる。

 この大陸のあらゆる場所に配置された、イノセント型の魔物達に因る包囲網だ。


 さて、そこに映っていたのは、光学迷彩で姿形ははっきりとは見えないが、逆巻く波しぶきを被ったせいで、周囲の風景とは微妙に違う濡れた様な滲んだ様な姿をしている高速で移動する物体だ。

 この大陸への進攻速度が半端じゃないぐらいに速い!

『どうします、アレ?』

 サラが頭の中に話しかけて来る、この大陸へと近づくアレ…はっきりと見えるわけではないが、明らかにあの半透明のシルエットは、俺の良く知る人物に間違いない。

 ってか、ナディアだよな? 絶対にそうだ、見間違うはずない!

「モフリーナ! 急げ急げ! 早急に捕獲…じゃなかった、確保…でもない、えっと…そう! ここに誘導しろ! あいつ、まさかこんなとこまで来てるとは!」

 俺は少し離れた所で、呆けた顔でぽかーんと口を開けてモニターを見ていたモフリーナに急ぎ指示を出した。

「あれはナディアだ! 誰かに見られる前に、ここに呼べ! 急げ!」

 俺の血相を変えた顔を見てその事態の重さを知ったのか、バタバタと彼女に似つかわしくない慌て様で駆けだした。

「あいつ、何してんだよ…まさかこんな海の真ん中まで調査にくるとは…」

 そう言いながら、俺がナディア、アーデ、アーム、アーフェンに、重要な任務を与えた日の事を思い出していた。


 それは、俺達がアルテアン領のネス湖の畔で盛大に結婚式と披露宴を行った直後の事。

 ナディアとアーデ、アーム、アーフェン、そしてクイーン配下の蜂達、神樹から産まれ出る妖精40名を前にし、俺は一つの指示を出したのだ。

 それは、【全員で手分けして、出来るだけ早くこの世界の地図を作ってくれ】と、いう物だった。

 これを受けて、各人が蜂20匹、妖精10名を配下に、俺の領地から四方へとこっそりと散って行った。

 もちろんコルネちゃんには、クイーンとブレンダーを護衛に付け、くろちゃんと仲の良い(基本的に同一だから当たり前だが)ノワールをペットとして貸し出す事で、ナディアを数か月の間借りる事に関して了承してもらっている。

 どうやって地図を作るかというと、まずは出発する前に、俺のエネルギーを各人と蜂と妖精に目いっぱい与える。

 エネルギーを使って、各人が疾風の如く走り回り、妖精達は交互に光学迷彩をかける。蜂が周囲に散らばり、地形を把握する。

 最終的に、俺の屋敷に戻った時に、紙に地図を描き起こすという、至極簡単で明瞭な指示だった。

 しかし、まさかこんな大海原のど真ん中までやって来るとは思いもよらなかった。

 マジかあ…ここまで来れる奴が居るって事は、反対にここから俺達の国にまで来る事が出来る奴が居るって事だよなあ…

 あれから2ヶ月…ほとんど連絡は取ってなかったが、こんな事になるとはなあ。


 しばらくすると、モフリーナがナディアを伴い俺の元へとやって来た。

「マスター、お久しぶりで~す。ここにマスターが居られるという事は…もうこの星を1周しちゃったんでしょうか?」

 俺の前にやって来たナディアは、いつものお淑やかな口調とは少し違った。どうやら、これが素の状態らしい…? 

 いつもはコルネちゃんや俺の両親の前だから、お淑やかキャラを演じてたのか?

 いや、創り出した時はお淑やかだったはずなんだが、この2ヶ月でお前に何があったんだ? まあ、それはいいや。

「いやいや、ここはちょうど反対側。俺達の住んでた大陸の真裏にあたる…って、それはそれとして、どうやってこんな所まで来たんだ? お前に海の上を走るようなスキルを与えた覚えはないぞ?」

 マジであの怒涛の走りは、意味が分からん。

「あ、それは簡単ですよ。妖精達が私が足を出したところに、結界を敷いてたんです。ちょうど海面すれすれですね。それを踏み抜きながら走ってきました~! えへへへへ」

 驚愕の妖精達との合体技だった。 

「そ、そうなのか…すげえな…。うん? それなら、空気抵抗を軽減するために前面にも結界というか障壁というか、とにかくシールド張れば、もっと楽になったんじゃね?」

 空気の障壁って、かなり辛いからな。

 昔、バイクで200km/hで走ってた時(警察の人、ごめんなさい)、フロントカウルから頭を上げたら、風圧で首がもげるかというぐらい後ろに持ってかれてビビった事がある。

 競輪や自転車レース、車にバイクと、あらゆるレースで先頭を走るというのは、多大な空気抵抗をまともに受ける事になる。

 エネルギーの消耗を抑えるため、空気抵抗の比較的小さい2番目、3番目を走って先頭を抜き去るテクニックにスリップストリームという特別な名が与えられている様に、かくも空気抵抗とは辛い物なのだ。

「いえ、妖精達にも数に限りがありますので、効率よく回すために空気抵抗は無視しました」

 無視って、お前なあ…

「それでマスターここはどこですか? 奥様達の姿が見えない様ですけど??」

 ああ、そうか。ナディア達には話してなかったか。

 んじゃ定番の、

「ようこそ、ナディア。ここが俺の創造した、ダンジョン大陸だ!」

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