第429話  自慢のお風呂

 いい湯だ~な~はははん♪

 やっぱ足を伸ばしてゆっくりと湯船につかれるって、最高!

 我が家の自慢のこのお風呂は、俺の屋敷の裏庭の一部に建て増しした物。

 なんと、ネス湖を一望できる、半露天風呂である。

 温泉じゃないのが残念なのだが、それでも和風な湯殿は、湖に面する部分が大きく開いていて、星明かりを反射してキラキラと美しく光る湖面が良く見えるほどに開放的なのだ。

 もちろん湯船は木製(ヒノキじゃないよ?)で、この世界で一般的な石造りや陶製と違い、何というか…当たりが柔らかい、自慢のお風呂。

 前世では、ワンルームの小さなプラスチック製の湯船だったから、足なんて伸ばせなかった反動か。この湯船は10人一緒に入っても足を伸ばせるほど、贅沢に広く作ってある。


 この夜空を見てると、この世界ってやっぱり不思議だと実感する。

 夜空を彩る星々は、俺の知らない星座だし、地球の様な月は無い…と思ってたんだが、正確には月と呼ばれる物は複数あるんだとか。

 ただし、見た目にとっても小さいし、形は球体じゃなくもの凄く歪。

 地球の月と比較したら、見た感じでは夜空の星々とほとんど変わらない大きさ。

 この星の衛星って、ちょっと大きな岩石なのかな?

 他の星々と違って変な軌道で夜空を移動している。 

 この月と呼ばれる複数の扁平な回転楕円体の公転周期は地球と違って3~10日程らしい。詳しく調べたわけじゃないけど、この世界の過去の偉い学者っぽい人が書物に残してくれてるそうだ(サラ情報)。

 そんな巨岩がこの星の周りに幾つか浮かんでるんだけど、やっぱ月って言うのには違和感バリバリなんだよなあ…いや、そんな変わった衛星だからこそ信仰対象なのかな? 夜空に浮かぶ星々は丸く光ってるのに、たまに見える横長とか楕円形とか歪な形の光る物体…宇宙を知らなければ、神秘的だとか幻想的だとか奇妙奇天烈摩訶不思議な物体に見えたんだろうな。

 そう言えば、確か大きく見えるけど地球で見える月って、実際は手を伸ばして持った5円玉の穴ぐらいの大きさだとか聞いた事あるなあ。

 確か月とか星とかが大きく見えるのは、天体錯視とかいう目の錯覚の一種だとか何とか…どうでもいけどね。


 年末の王都行きから始まった、怒涛の連チャン結婚式と、ハネムーン代わりのバカンス。

 バカンス中から始まった、嫁~ずの夜の激しい攻撃の日々。

 そして大量の転生者を受け入れる為の新大陸創造と、数々の悪だくみの準備。

 とどめに帰って来てからの本来の領主としてのお仕事の山…。

 いや、まだ転移者も来てないし、人魚さん達への約束の報酬も手配しなきゃならんのだが。

 それでも、一時の安らぎとして、このバスタイムぐらいは大目に見てもらいたいものだ。

 ほら、目を瞑れば…湖面を渡り庭の樹々の間を通り抜ける風の音が、まるで甘く優しいささやきの様に俺を包み、このゆったりとした時を待ち望んでいた俺を歓迎してくれているかの様だ。


「そうですねえ~ここのところ忙しかったですからねえ」

「本当ですねえ。やっと帰って来たって感じがします」

「はあ…溶けちゃいそうです…」

「今日は書類仕事で肩がこってますから、沁みますねえ」

「いや~やっぱ広い風呂はいいねえ!」

 

 まさか嫁~ずが乱入してきたり…


「ご主人様は、私とリリア用に地下室に無理やりお風呂まで造って閉じ込めて、自分だけこんなお風呂に入ってるんですよ?」

「それこそ、主人の特権でしょう。私とサラは暗い地下がお似合いなのですよ。それとも明るい場所でされるのが好みですか?」

「はあ~!? そんな性癖ある訳ないでしょ~が! 私は可愛い少年が好きなんですー!」

「やはり、その腐った性癖は叩き直す必要がありますね」

「にゃにおー!?」「なんですか?」


 サラとリリアさんまでも乱入してきてたり…


「いんや~いい湯だっぺぇ!」

「んだなぁ~。村のみんなにもへぇらせてやりてぇなぁ」

「んだなぁ! わっちのとと様ぁ、連れてくっかのぉ」

「うちのぉばあさんなんか、村からでねぇんだわ。そとはこえぇ~こえぇ~ってよぉ! わぁっはっはっはっは!」


 リラックスしすぎて地が出てるドワーフメイド衆が乱入してきたり…


 そんな幻聴も聞こえてしまう程に、ゆったりと時間は流れて…


「うるせーーーーーーー!! 何で入ってんだよ!! この時間は俺専用のはずだろ!! 入り口に札かけてたよな!?」

『えっ?』

 何で全員で、『何言ってんのあんた』的な同じリアクションなんだよ!

「えっ? じゃねーよ! まだメリル、ミルシェ、ミレーラ、マチルダ、イネスは目を瞑ったとして、何でサラとリリアさんとドワーフメイドさん4人も入ってんだよ! おかしいだろ? 俺、男だよ? お前達は未婚だろ? 倫理的に駄目だろ!」

『えっ?』

 だから、何で全員揃って同じリアクションなんだよ!

「トール様、何がいけないんでしょうか?」

「いや、ミルシェよ…駄目だろ? 俺は男! 既婚者! サラ、リリアさん、ドワーフメイドさん達は、女で未婚! 駄目だろ!」

 嫁~ずよ、新婚早々に旦那が他の女と一緒に裸で風呂に入ってるって、何も感じないのか?

「何を仰ってるんですか、トール様? 約束は守って頂けたじゃないですか」

「へっ、メリル…約束って?」

 一体、何の話? 

「いえ、私達にまずは手を出してください。その後にお相手する女性は相談してくださいと。その時、こうも言いましたわよね」

「こう?」

「この屋敷の中の女性は、全員いつでもOKですと。もちろん、ユズカはダメですよ? 人妻なんですから、倫理的に」

 いや、そんな話…してたような。もちろん、ユズカには手を出さんけど…そんな話だったっけ?

「旦那様、誰でも好きな順で構わないぞ! もちろん私からでも、どーーんとこいだ!」

「ちょ、イネスさん、ずるいですぅ…私も一番が…」

「私としては、3番目ぐらいが好みかも…最近、ちょっとコツが分かってきた気がしますので」

「マチルダさん、コツって?」

「あ、メリルずるい! 私もコツ聞きたい!」

「いいですか、ミルシェさんメリルさま…トール様は実は裏側のゴニョゴニョが弱いので、ゴニョゴニョしてあげると…」

「ほうほう! それは興味深い…でも実は…」

「え、イネスさんってば、そんな大胆な事を!?」

「ミルシェだって、あんな事を…」

「お2人共…大胆です…」

「そういうミレーラさんも、実は…」


「ヤメローーーー! ヤメテクレー――!」

 嫁~ずによる、俺の性癖&夜の夫婦生活暴露大会が始まってしまった! 

 マジで止めて! ドワーフメイドさんが、興味深々で耳がダンボなってるから!

「…大河さん、あんた大概変態やな…」

「貴方様もなかなかやりますね。これならまだまだ倦怠期には程遠そうです。SMテクニックの伝授はまだ先になりそうですね」

 お前ら、何をボソっと言ってんだよ!

『あ、お望みなら、伽もしますから』

 お前らは間違っても、望まねーよ!

 ドワーフメイド衆も、望んでねーからな! 期待で目を輝かせるんじゃありません! 

  

 俺の一時の安らぎは、本当に一瞬だった…。

 湯あたりする前に、この場から脱出せねば!

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