第414話  領域?

 モフリーナの一挙一動を誰もがじっと見ていた。

 ぽいっと放り投げられた光り輝く水晶玉は、地面(塔の屋上)に当たって割れる物だと思った。

 思っていたのだが結果は全く違う物だった。放り投げられた水晶の末路は、全員の予想出来ない結果となった。

 なんと、水晶は地面に吸い込まれてしまった。それしか表現のしようがなかった。

『えっ?』

 間抜けにも、事の成り行きを見守っていた全員が同じリアクションだった。もちろん、俺も同じだった。

 そして、誰もがただただ水晶の吸い込まれた一点を見つめていた。

「ふう…これでこの下の20階までは、ダンジョン領域に変換できました。次は、もっと大規模に変更できるはずです…あれ? 皆様、どうかしましたか?」

 じっと目を瞑って作業に集中していた(のかな?)モフリーナが、俺達を振りかえって首を傾げた。

 まあ、全員が黙りこくって地面を凝視してたら、一体何じゃらほいっと思うだろう。

「あ、いや。あの水晶みたいなのは、どこいったんだ?」

 全員が疑問に思っているであろう事を、一応この場の代表者である俺が訊いた方が良いだろうと、口を開いた。

「ああ、あれはこの下の階に転送したんです。この階層の天井は、一応私の管理下にありますので、その向こう側へと送ったのです。そして直下の階層から下に向かってダンジョン化しました」

 な、なるほど…

「取りあえずは、今日中にこの塔だけでも完全に掌握したいところですね。最低でもダンジョン化した部分を、地面まで届かせたい所です」

 ほうほう…?

「それは、何故ですの?」

 あ、メリルも同じ疑問を感じたんだ。

「別に大した意味はありませんが、ダンジョン領域が大陸に接していなければ、この大陸をダンジョン化出来ないからです。あと付け加えて言うなれば、この大陸は4層の地下大空洞がありますが、それら全てをダンジョン化するためにも、この塔の最下層まで何としてでもダンジョン化する必要があるのです」

 あ、言われてもれば当たり前か。第9番ダンジョンと繋がってるとはいっても、まだダンジョン化出来たのは、この塔の30階から上だけ。地上まではまだ30階もある。おまけに最下層の海底までプラス50階もあるんだもんな。

 そうとなれば、世界平和のためにも、キリキリ働きますか!


「よし! んじゃ、さっさとこの塔をダンジョン化しよう! その後の作業も詰まってる事だしな」

「トール様、ダンジョンが出来たら終わりじゃないんですか?」

 マチルダが不思議そうに訊ねたが、そう言えば深く教えて無かったな。

「あ~モフリーナがまた折りをみて詳しく説明してくれると思うが、ダンジョン化というのは、あくまでも領域なんだよ」

『領域?』

 これまた全員が首を傾げる。

「うん、領域。え~つまりダンジョン化っていうのは、この未開発の場所をあなたの領地に出来ましたよ~っていうだけの事。でもそれだと領地になっても、開拓しなきゃダメでしょ? 村や街とかの施設だって作らなきゃ駄目だし、領民だって居ない」

『うんうん』

「ダンジョンで言う村とか街とか畑って言うのは、魔物が居る場所っていうか部屋っていうか、そういった物とか、迷路みたいな造りのブロックの事なんだよ。んで、そこで活躍する領民って言うのは、もちろん…」

『魔物ですね!』

 うん、みんな理解が早くて助かるよ。

「その通り! その為にいっぱいカーゴルームに連れて来てるでしょ?」

「でも、この大陸の大きさから考えて…少なくありませんか、魔物の数が。あと、あの子達は可愛いので戦えないと思います」

 ミルシェよ、可愛いと強い弱いはあまり関係ないと思うんだが?

「あの子達はね、言ってみれば種なんだよ。あの子達をベースに、どんどん成長させたり複製したり改良したりして、増やしていくんだ。それが出来るのはダンジョンマスターだけであり、その為にモフリーナが必要だったんだ」

『へ~!』

 ひのふのみの…俺とモフリーナともふりん以外だから、【7へ~!】頂きました!

「とは言っても、増やす前にどんどんこの大陸をダンジョンにしちゃうのが先。んじゃモフリーナ、次はどうしたらいい?」

 ニコニコと俺の解説を聞いていたモフリーナが、

「では、全員で塔の中へと参りましょう。そこに仮の管理室と疑似コアを作成してありますので」

 そう言うと、ニッコリ笑って指パッチンした。すると次の瞬間、俺達はジェットコースターの落下時にくる無重力状態っていうかふわっとした浮遊感を感じたと思ったら、周囲の景色が閉鎖的な塔の内部に切り替わっていた。

「まだ仮のダンジョンですが」

 そうモフリーナが前置きし、

『ようこそ皆様。第9番ダンジョン、新大陸支部へ』

 芝居がかった仕草で両手を広げたモフリーナともふりんが、俺達にえらく格好良い口上を声を揃えて述べた。

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