第392話  感謝の言葉

 お色直しの終わった嫁~ずを、ボキャブラリーの乏しい俺なりに一生懸命褒めまくった。

 その後、父さんが何故か張り切って剣舞を披露したり、 俺たち6人の母親連合による有り難い説教を聞いたり、またまた嫁~ずのお色直しがあって、今度こそ褒める言葉が出ずに、嫁~ずに詰め寄られる俺が笑い物になったりした。

 途中、ユズキによるギター演奏やブレンダーとクイーン&兵隊蜂による曲芸(?)があったりと、面白おかしな披露宴も残念ながら終わりへと近づいていった。


「では、ここでネス様と太陽神様と月神様が、祝辞を述べて頂けるそうです。皆様、どうかご静粛にお願いいたします」

 ん? こんな演出あったっけ? あ…ナディアが考えたんだな?

 ホールの照明が一斉に消え、辺りが薄暗くなった瞬間、ホールの天井いっぱいに、3女神の姿が浮かび上がった。 

『我は水と生命の神、ネス。我が使徒トールヴァルド、及びトールヴァルドと生涯を共にする者達に、我ネスより祝福を』

 ネスの言葉と共に、キラキラのエフェクトと共に、花びらが…って、また造花かよ(笑)

『我は太陽神』『我は月神』

 ネスの両横に控える、ウサ耳とキツネ耳のロリ巫女が、見た目とは裏腹に厳かに名乗りをあげる。

『『我々からも6人に祝福を』』

 声を揃えるロリ巫女さん。やっぱりエフェクトと共に舞い落ちる色彩豊かな花びら。

 あの造花って、どんだけ作ったんだよ…ものすごい数だな…と感心してたが、俺の髪の毛に付いた花びらと思ってた物を手に取って良く見たら、単なる色の付いた紙をてきとうにハサミか何かで切っただけの物だった。

 小学校の学芸会の花さか爺さんで、たしかこんなの樹の上から降らせたなあ…俺が…。

 まあ、大事なのは雰囲気だから、紙吹雪でも花びらでも気にしない。

 嫁~ずも列席している皆様も喜んでるから、おーるおっけー!

 『『『使徒の婚儀を祝福するために集まった者達にも、我らから祝福を!』』』

 最後にゲストの皆様にも祝福を授けた3女神は、虚空にとけて消えて行った。

 いや、祝福なんて何も無いんだけど、気持ちが大事だよね…と、言っておく。

「ありがとうございました! ネス様、太陽神様、月神様より、新郎新婦へ祝福のお言葉を頂戴いたしました。私、とても感動しております! 涙で前が見えません! まさか神々より我々にまで祝福を頂けるなんて…きっと列席に皆様も同じ思いでしょう! 有難うございます、女神様! 私は生涯この時を忘れないでしょう!」

 ユズカ、ノリノリだな…どっかの芸能人の祝辞もらったみたいになってるよ…

 まあ、ゲストの方々も、感極まって滂沱の涙を流してるけど。


「女神様降臨の感動に打ち震えている所を、誠に申し訳ありませんが、新郎新婦のご両親は打ち合わせをした場所へとご移動ください」

 ああ、さっき嫁~ずのお色直しの間に、ユズカが何やら耳打ちしてまわってたヤツだな。

 俺と嫁~ずのご両親…合計10名が、俺達の座る高砂席の右前にずらっと並ぶ。

 メリルのご両親は、国王陛下と王妃様なので、今さらだが今回は参加してないので、ここには居ないのだ。

 この事をメリルにどう思ってるか聞いたのだが、「王城でやったので、もう別に顔を見たいとは思いません」だとさ。

 それはさておき、いやあ~こんだけ並ぶと壮観だよなあ。

「新郎新婦は、どうぞ席をお立ちになってこちらの方へどうぞ」

 披露宴に列席した人達は、何が始まるのかと興味津々。

 俺達は席を周り込んで、居並ぶ両親達と正対するように前へ並ぶ。

「さて、こうして御列席に皆様とご一緒に過ごしてまいりましたこの結婚披露宴も、名残惜しくありますが、どうやらおひらきの時が近づいてきたようでございます」

 ユズカは急にしんみりしっとりした口調で、ホールを見回しながらゆっくりと語る。

「思えば新郎新婦達のご両親は、まだ6人がミジンコの様に小さかった時から、手塩にかけて大事に大事に育ててきました」

 内容は間違ってないと思うけど…ミジンコって何だよ? そんな小さな時って、腹の中だろ?

「そして今日、新郎新婦は共に手を取り合い、新たなる人生の一歩を踏み出します」

 うむうむ。

「大いなる愛を惜しみなく注いでくれたご両親に、新婦達がお礼の言葉を述べたいと思います。どうか皆様、涙をふくためのハンカチをご用意くださいませ」

 ……泣かす気満々だな、おい。

「あ、先程の女神降臨ですでにハンカチがびちょびちょになってしまった方には、ハンカチの販売も行っていますので、お近くのメイドまでお声がけください」

 おい! 商売すんな! あ、めっちゃメイドさん呼ぶ声が…売れてるなあ…


 俺達は、ミルシェを中心にして、ミレーラ、マチルダ、イネス、そしてその横にこの場に両親の居ないメリルが立つ。

 俺は完璧な添え物で、その横にポツンと立ってます、はい。


 そして、新婦がお礼の言葉を綴った手紙を読む、地球ではお馴染のお涙ちょうだい行事が厳かに始まった。

「本日は、たくさんの方にお集まりいただき、私達をお祝いしてくださいましたことに心より感謝申し上げます。ここで私達から両親へ、感謝の言葉を申し上げることをお許しください」

 代表して、この導入パートはミルシェが読み上げた。

「お父さん、お母さん…今日まで育てて頂き、本当にありがとうございました。こうして沢山の方々に見守られて結婚式を挙げることができたのも、お父さんとお母さんのおかげです」

 ここはミレーラが、しっかりと。

「私がまだ小さかった頃、なかなか夜寝つけなかった私に、色んなお話を何度何度もしてくれたお母さん。わがままばかり言って困らせてばかりだったお父さん。本当にごめんなさい。でも2人を心から愛してます」

 マチルダが。

「お転婆で裁縫や料理などの家事などよりも、女ながらに剣の稽古ばかりして困らせてしまったけど、今日こうしてお嫁に行く事が出来ました。まだ裁縫も料理も苦手だけど、愛する旦那様のために、一生懸命に勉強してます。いつか私の手料理を食べに来てください」

 イネスが…って、料理とか裁縫とかしてるの見た事ないけど?

「トールヴァルド様のお父様お母様。今日から新しい家族となれることを心より嬉しく思います。お2人のようにいつまでも仲のいい夫婦を目指していきますので、どうかこれからもよろしくお願いいたします」

 メリルが…って、あの両親を目指すのかよ! そうか…父さんみたいに、俺も金〇を握られるのか…そうか…

『そして、私たちの新しい出発を、こんなにも多くの方々に祝福していただき、本当に心より感謝しています。この気持ちをいつまでも忘れず、私達6人で助け合って生きていこうと思います。これからもご指導のほど、よろしくお願いいたします』 

 最後は嫁~ず全員で声を揃えて、居並ぶ両親達と列席されたゲストさん達へ感謝の言葉を述べた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る