第391話  主役は花嫁

「では、リリアさんの妙技を披露して頂きましょう~!」

 軽妙なトークなのは良いんだが、ユズカ…あのリリアさんが、ただ技を披露するだけで終わると思ってるのか?

 俺は、かなり嫌な予感がするのだが…


「はい。皆様、あちらのテーブルの上に並ぶワインの瓶を見ていてください」

 そういうと、取り出した鞭をヒュンヒュンと振り回し、何度か空中でビシッ! バシッ! と音をさせたかと思うと、ヒュンッ! と瓶に向かって手首のスナップをきかせて振った。

 皆の視線が集中する中、ワインの瓶は割れもせず、コルクだけが吹っ飛んでいた。んな、アホな…コルクってコルク抜きでもなかなか抜けないってのに、一体どんなマジックなんだよ…

 だが、見ていた人達は、やいのやいの大歓声。

「お粗末な技をお見せしました」

 リリアさんは、一瞬で鞭を綺麗に丸く纏めて片手でキャッチすると、優雅にお辞儀をした。

 サラが栓の抜けたワインの瓶を片付けようと机に近づいた時、ニヤリとドス黒く笑うリリアさんを、俺は見た。いや見てしまった。

 すっと鞭を床に垂らすと、次の瞬間、鞭を握る手が消えたかのような高速で手首を返すと、鞭先がビュンッ! と音を立てて獲物へと向かっていった。獲物? もちろんサラですが…何か?

 鞭はサラの身体に当たる事なく、薄皮…じゃなく、メイド服だけを切り裂く。

 同時にサラの「ぎゃーーーーー!」という、ちょっと下品な悲鳴もあたりを切り裂く。

 達人の振るう鞭の先は、瞬間的に音速を超えるとか聞いた事がある。バシッとかいう音は、音速を超えた証拠なんだとか。

 あのサラのメイド服を切り裂く技も、もしかしたらソニック・ブームでやっているのかもしれない…違うかもしれないけど。

 ビシッ! バシッ! と音がする度に、サラのメイド服は切り裂かれ、暴漢に襲われたかのような憐れな姿となったサラは、「なにすんじゃーーーー!!!」と叫びながら、走り去っていった。

「お粗末な物をお見せしてしまい、申し訳ありません」

 巻き戻したかのように、また優雅にお辞儀をするリリアさん。

「誰の何がお粗末なんじゃーーーー! 覚えとけよーーーーーーーー!」

 扉の陰から、サラの怒りに震えた声が聞こえたが…まあ、お粗末と言えばお粗末かも…サラ、ドンマイ。

 だが、妙に場が盛り上がったので、余興としては大成功なのではないだろうか。


 リリアさんの次は、ナディと天鬼族3人娘によるアカペラ。

 これは事前に俺が前世のヲタク知識の中から、飛び切りの一曲を提供したので、内容は知ってる。

「では、次はネス様の眷属としてご存知の方も多いとは思いますが、ナディア様とアーデ様、アーム様、アーフェン様の合唱です。じっくりとお聞きください」

 この歌はユズカもユズキも知ってて、細かく指導したらしい。完成度はかなり高いと教えてもらっていたので楽しみだ。

『『『『交わした約束忘れな〇よ、目を閉じ確か〇る。押し寄せ〇闇、振り払っ〇進むよ~~~~~』』』』

 うん、これ大好きだったんだよなあ~。あのダークなストーリーは、大人が観賞するに堪える魔法少女の物語だった。

『『『『空はきれい〇青さでいつも待って〇くれる、だから怖く〇い。もう何が〇っても~挫け~な〇~~~』』』』

 最高! ブラボー! 俺は全力で拍手しちゃうぞ!

「眷属の皆様、素敵な歌声有難うございました。皆様、盛大な拍手をお願いいたします」

 監修したユズカも満足できる完成度だったようだ。もちろん俺だって大満足だ。

 ホールを揺るがすほどの拍手で、皆さまの満足度も高かった事が良く分かる。

 4人は、ぺこりと頭を下げた後、静かに退場していった。

 

 場が落ち着いたのを見計らって、またまた嫁~ずのお色直し。

 もはやただのファッションショーの様相を呈している気がしないでも無いが、それは言わない約束。

 花嫁衣装なんて、そうそう着る事もないのだから、ここは男は忍の一文字なのだよ。

 何たって結婚式と披露宴の主役は花嫁。花婿は単なる添え物なんだからさ。 

 ただ黙って帰って来た花嫁を褒めてあげてれば良いのだ。

 今後の結婚生活が上手くいくかどうかの、花婿の最初の試練なのだよ。

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