第384話  誓いのキスは順番に

「では、新郎トールヴァルド。あなたはここにいるメリル・ラ・グーダイド、ミルシェ、ミレーラ=マレス、マチルダ・スロスト、イネス・マリオンの5人を、やめる時も、すこやかなる時も、とめる時も、まずしき時も、妻として愛し、うやまい、いつくしむ事を誓いますか?」

 アンチョコ見ながらとはいえ、よく噛めずに言えたね、コルネちゃん。立派に成長してて、お兄ちゃんは嬉しいよ…

「…お兄ちゃん…おへんじは?」

 1人コルネちゃんの成長に感動していると、当のご本人様から小声で注意されました…ごめんなさい。

「んん…はい、誓います」

「よろしい。では、新婦メリル・ラ・グーダイド、ミルシェ、ミレーラ=マレス、マチルダ・スロスト、イネス・マリオン。あなた達はここにいるトールヴァルド・デ・アルテアンを、やめる時も、すこやかなる時も、とめる時も、まずしき時も、妻として愛し、うやまい、いつくしむ事を誓いますか?」

「「「「「はい、誓います!」」」」」

 めっちゃ力強く、声を揃えて誓った5人。

「よろしい。聖なる女神ネスさま、そしてここにれっせきする全ての者により、誓いの言葉を聞きとどけた。では、聖なる女神ネスさまの眷属であるナディアさま、おねがいいたします」

 そう言って、コルネちゃんが一歩下がる。この演出は、どうやらナディア発案の様だ。


「では、結婚し共にパートナーがいる証しとしての、指輪の交換を行う」

 ナディアの涼やかな声に従い、天鬼族3人娘が、指輪の乗った美しい木製のお盆っぽい物を持って祭壇の中央にやってくる。

「新郎より、誓いの指輪を新婦に。そして誓いの言葉を互いに封ずるため、口づけを」

 ナディアの言葉を合図に、天鬼族の持つお盆から指輪を一つ手に取ると、メリルの前に。

 これは序列順にとお願いされていたので、いつものあの順番だ。

 メリルがそっと俺に差し出した左手の薬指に、手に取った指輪を嵌める。

 そして小さく微笑むメリルに近づき、口づけをした。

 途端に湧き上がる参列者の歓声。「きゃー!」「おお!」「おめでと~!」様々な言葉が乱れ飛ぶ。

 次はミルシェ。指輪を手に近づくと、スッと左手を俺の前に。

 指輪を嵌めると、少しだけ涙で潤んだ目を閉じたので、やさしく口づけする。

 ミレーラは、緊張しているのか、左手をぎゅっと握たままだった。

「ミレーラ…リラックスリラックス」

 そう小さく声を掛けると、恥じらいながらも左手をゆっくり開くので、そっと指輪を薬指に通す。緊張からか、目と一緒に口も固く閉じちゃったので、軽くチュッと口づける。

 マチルダは、優雅に左手を俺の前に差し出した。指輪はその薬指にまるで吸い寄せられるように、ぴったりと嵌った。

 自ら俺に一歩近づき、目を閉じて顎を少しだけ上げたマチルダに、俺は口づけた。

 最後のイネスは、さあ嵌めろと言わんばかりに、俺の目の前に堂々と左手を差し出した。

 普段通りの漢前なその仕草がちょっとおかしくなって、少しだけ俺も微笑みつつ、指輪を嵌める。

 感極まったのか、あろう事かイネスは自ら俺の首に手を回して、おもいきり熱いキスをしてきた。

 ちょっとまて、舌は入れるな! 儀式って事を忘れるな! 首にまわした力強い手をなんとか振りほどき、物足りなさそうなイネスから離れる。

 この日一番の盛り上がりを見せたのがどの場面だったのか、言わずともわかるだろうが…イネスとのキスの瞬間だった。


「では新婦より、誓いの指輪を新郎に」

 ナディアの言葉に続いて、5人が俺の周りに集まって来て、イネスが指輪を手にする。

「私の愛を、全て捧げます」

 そう言ってマチルダに指輪を手渡す。

「私の愛をこの指輪に込めます」

 マチルダはミレーラへ。

「私の愛は貴方だけに」

 ミレーラからミルシェに。

「永遠の愛をこの指輪に」

 最後にメリルへと指輪は渡り、

「生涯の変わらぬ愛をこの指輪に。そして5人の愛の誓いをトールヴァルド様に」

 そう言って、俺が差し出した左手の薬指に、その指輪を嵌めた。


「ここに、女神ネスの元、永遠の愛を誓った夫婦が新たに誕生した。女神ネス様も祝福してくれる事でしょう。新たなる夫婦に永き祝福のあらん事を!」

 その言葉と共に、最奥のガラス製の壁から見えるネス湖に、真っ白い女神ネスが浮上する。

 そして、ネスの周囲をキラキラと光りながら妖精達が舞い踊り、精霊たちがネスを中心とした虹をかけた。

 式に参加した人達は、姿を現した聖なる女神ネスと、その神秘的な光景に感動し、息をするのも忘れてただただ見入っていた。

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