第362話  初夢?

 本日は、1月1日。

 ちなみに、この星にはお月様が無い。

 なので月日という表記は変なのだが、そこはこの星の人が生まれながらに持つ言語自動変換の能力によって、俺にはそう聞こえてるだけ。

 メリルが1月1日を発音してるのを、自動翻訳なしに聞くと『ワゼナリ ワゼウー』となるらしい。ワゼが1でナリが月でウーが日って事かな。ちなみに年はベキラなんだとか。

 長くて面倒臭い…やっぱ年月日表記が簡単でいいやね。

 余談だが、干支は無い。当たり前っちゃ当たり前なんだが…中国の故事が元らしいしからね、干支って。


 さて、正月である今夜見る夢は初夢…日本だけなのかどうかは知らないけど、とにかく今夜見る夢は初夢っていうのが一般的。

 是非とも一富士二鷹三茄子でお願いしたい!

 初夢の夢見が悪かったって、最悪じゃんね。

 んで…見た初夢の内容は…ずばり、最悪でした。

 なんと、登場人物が…登場人物が、管理局長がだったんだよ! 


 夢の中で、俺は気が付くと何も無い空間に立っていた…いや、浮かんでいた。

 ぼんやりと周囲が照らされていたんだが、上を見ても天井は無い。

 周りを見渡しても壁も無い。ふと下を見ると、床も無い。

 どこにも照明らしきものも無く、上下左右の間隔さえも曖昧な不思議な空間。

 姿勢は立ってる形になってはいるが、足の下に地面を感じない…踏みしめてる感じが無い。

 そう、感覚が何も無いのだ。

 ああ、これは夢だなと、何故か理解出来てしまったのは、そのせいだろう。

 五感が何も感じていないのは、夢だからなんだと、妙なんだが何故かそう頭が理解した。

 どれぐらいその不思議な空間に居たんだろうか…5分? 10分? それとも何時間もいたんだろうか?

 そういった感覚さえも麻痺している様な、失っている様な、奇妙な感覚だった。

 ふと『誰か居ませんか?』と声をだそうと口を開けたんだが、声が出ない。

 いや、よくよく考えたら、呼吸すらしていない事に今更ながら気が付いてしまったのだ。

 もしかして、俺は死んでしまったのだろうかと、少々不安になった頃、

『やあやあ、待たせてしまって申し訳ない』

 何とも軽い感じで、目の前に浮かび上がってきたのは、光の巨人。

 改めて見ると、大きいな…あんた。

『本当に、相変わらずだね…君は』

 もうその姿にびっくりしたりせんぞ、エネルギー体だから、そんな光の巨人の姿なんだろ?

『光の国から来たからとか思わないわけ?』

 赤と銀の巨人じゃないんだから、そんな事は思わん!

『そっかあ、ちょっと残念だ…そう、君の言葉の通りだよ』

 やっぱりな。

 んで、何の用? 俺、今から一富士二鷹三茄子の夢を見なきゃならないんだから、用事なら早よ済ませてくれ。

『つれないねえ…まあ、君がツンデレなのは知ってるからいいや』

 だ~れが、ツンデレか! 間違ってもあんたにだけはデレんわ!

『そうなの? それじゃ単に恥ずかしがってるだけなの?』

 あんた、何言ってんの? んなわけあるか! さっさよ用事プリーズ! 俺は寝たいんだよ!

『はあ…せっかちだなあ。せっかくの再会なんだから、もっとこの時間と会話を楽しもうよ』

 いいから、さっさとしろ! 俺は寝たいんだよ! 

『仕方ないねえ、では用件だけ伝えようかな』

 最初からそうしろっての。

『では、さっさと大陸を創造してください。具体的には、たった今、この瞬間から2ヶ月以内に』

 何だ、急に?

『そうしないと、この星を爆破します』

 え?

『嘘です』

 は?

『そうしないと、君に災いが起こります』

 マジか! ちなみにどんな災い?

『ナニかが小さくなります』

 ちょっと待て! いま、何じゃなくナニって言ったよな? そんなニュアンス感じたぞ!?

『気にしないでください』

 気になるわ!

『それも嘘ですから』

 あのな…いい加減にしろよ?

『この星の生態系に大きな影響が出るからです』

 そう言えば、生命の生存圏とか何とか言ってたな…

『いえ、そうではありません。想定外でしたが、この星に大量の転移者がやって来るのです』

 え~っと…どゆこと?

『管理局のシステムにバグがあった事は知っているでしょう?』

 ああ…そのせいで俺がこの星に転生したんだったっけ? 

 そういや、ユズキとユズカもバグのせいで転移してきたんだよな…まさか?

『ああ、あの2人ですか。確かにそうですね』

 また誰か転移してくるのか?

『そうです。普通は保有エネルギー量が非常に大きい地球人の転生時が、最もバグを引き起こしやすかったのですが…今回はイレギュラーで転生では無く、転移が大量に起きそうなのです』

 えっと…どゆこと?

『色々な星の色々な人や生物が、転移で大量にこの星に流れ込んで来るって事です』

 はあ…何で?

『実は、システムのバージョンアップ時に、デバッグをしていないパッチを当てた馬鹿者がいるのです』

 おーい! 

『それが分かったのは四日前なのですが…あ、四日前と言うのは、この星の時間軸での事です』

 いらん解説はどうでもいい! それでバグはどうなったんだよ!

『いや~単体テストも結合テストもしないで、いきなりぶっ込んだら、そりゃバグるわなあ~! はっはっは!』

 意味はわからんが、何となく理解した。他人事じゃねーだろ! 何笑ってんだよ!

『いや、電算課全員四完徹で終わらせたから、もう大丈夫!』

 お、終わったんだな? 大丈夫なんだな? 四完徹…やっぱ管理局はブラックか…

『でも、修正パッチ当てるまでの間に、大量のシステムバグで元の次元から飛んじゃったのが出たんだよね。てへっ!』

 てへっ! じゃねー!

『だから転移先も時間軸もばらばらのそいつらを、この星に何とかまとめてみました』

 おい!

『んで、その転移先の場所を確保して欲しいんで、大陸を創っちゃってね。そこに送り込むから。さすがにこの大陸には飛ばせないし、いきなり海の中は、ちょっと…』

 まてまてまて!

 転移者の受け入れ先が、俺の創造する大陸になるのか?

『そうそう。さすがに理解が早いね、君』

 そいつら…2ヶ月後にまとめてくるのか?

『修正パッチ当てる時に、それも組み込んだから、間違いないよ』

 元の輪廻転生の輪に戻せないのか? いや、元の次元に。

『無理だね。だって転生じゃ無いから。死んでくれたら輪に戻せるけど…君がヤルの?』

 いや…それはちょっと…

『もうね、君の新しく創る大陸で、勝手に生きてもらうつもりなんで、そこんとこヨロシク』

 …俺の住む大陸に、そいつらが来りは?

『あ、それは大丈夫。ちょっとしか来ないから』

 ちょっとは、来るのかよ!

『ん~君の言うチートに近い能力を持ったのも居るから、たどり着くのもいるんじゃないかな?』

 ま、マジか!?

『来たら遠慮なく叩き潰してOKだから』

 ……やらねばならんのか…

『やらなきゃ、やられるだけだよ~。かなり好戦的な種族も居るからね。あ、そろそろ時間だね…それじゃよろしくね』

 ……2ヶ月後だな?

『そう、2か月後。何とかその時間に集束できるように、色々と操作したから』

 わかった…やってやるとも。

『転移者の座標はバラバラにするけど、徒党を組む可能性もあるから注意してね』

 それで、この大陸に来た奴は?

『ヤッてよし! だってあっちは戦う気満々で来るはずだからね。その他の情報は、サラとリリアの脳にでも焼き付けておくよ』

 って事は、どこかの部屋で、若干2名が頭を押さえてのたうち回るんだろう。

 よし、まだ時間はある! 初夢を見るんだ! 一富士二鷹三茄子!

『んじゃね~』

 その管理局長の言葉が合図であったかのように、俺の身体というか意識は、急激に足元に出来た真っ黒な闇に飲み込まれた…… は、初夢…

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