第8章 結婚式は大騒動

第359話  全員一緒に結婚

 色々とドタバタした日常だが、それなりに楽しい毎日を過ごしていると、季節の移り変わりなどあっという間だ。

 今年もあと1日という、年の瀬迫るこの日、アルテアン伯爵家ご一行と、アルテアン子爵家ご一行は、グーダイド王国の王城の食堂に勢ぞろいしていた。

 そうです、結婚式の為にやって来たのですよ、王都に。

 今夜は、王家が俺達を晩餐にご招待してくださったのだ。

 特に高価な食材を使ったりした食事ではないが、実に手の込んだ品々であり、全員がとても満足した晩餐だった。


 余談だが、実はこの国での国王とは、政治形態的にイギリスの王家と日本の天皇家の中間的な立場と言えるということは、随分前に話したと思う。

 王家は基本的に納税の義務は無いし、収入は貴族による議会の承認を受けた予算で賄われているし、その金額は王城で働く上級官僚達よりも安い。

 これは大々的に毎年公表されているので、国民すべてが知っている。

 まあ、家賃も食費もタダだし、その他の費用の一切…例えば使用人などの費用なども王国が負担しているので、自分達でお金を使うとしたら、せいぜい個人の衣装や装飾品、あとは嗜好品などだろうか。

 王家の権限で政治政策に直接携わる事も多少はあるが、それとて議会の決定内容がよほど間違ってなければ無い。

 王家の仕事は公的行事でのお飾りがメインなのである。

 また、王家に生まれた者(王位継承権を持つ者)は幼少期より自らの立ち位置をわきまえた言動や行動をするように厳しく教育されている。

 生活も同様で、普段の食事一つとっても、誰に見られたとて上げ足を取られる様な贅沢な食事などはしていない。

 この王家の普段の生活を知っているからこそ、国民は王家を愛している。

 公務国民の前にで顔を出せば、誰もが笑顔になるというぐらいには好かれている。


 そんな王家の第四王女を嫁にもらうんだから、まあ注目が集まるのは仕方ない。

 王城で結婚式を執り行うともなれば、官僚も準備に余念がないとか。

 もう、まな板の上の鯉状態の俺達だが、先にも述べた様にメリルには不満がある。

 平民・貴族・商人の娘に、他国の姫巫女…あと4人の婚約者と平等で公平に式を挙げたいとメリルが願っているのは重々承知している。

 だが、もうこれは王家の行事の一環として割り切ってもらうしかない。

 本日の餐会は、陛下以下全員で説得するための場を兼ねていると言っても過言では無いのだ。他の4人は納得しているが、結構頑固な所のあるメリルはなかなか納得しなかったが、最後には渋々頷いてくれた。

 まあ、領地で“みんなで一緒に結婚式”を改めて約束させられたが、それは元よりやると決めてた事なので、何の問題も無い。

 他の4人も並んだ俺とメリルの後ろに控えるので、一応は王城での結婚式を挙げたと言えなくもないけど…やっぱ、それは違うよなって俺も思うし。

 皆、花嫁として主役になりたいはずだもんね。一生に一度の晴れ舞台だもんね。


 なので、この土壇場で必死の説得となったのである。

 一時は、「王城での式なんて止めて、アルテアンに帰りましょう!」とかメリルが言いだすもんだから、本当に大変だった。

 俺の「これが王家の第四王女としての最後の公務と思って、我慢してくれ」という言葉で、何とか納得してはくれたが…陛下が、ちょっと可哀そうになったよ。

 あんまり陛下を虐めると、領地での結婚式にも参加するとか言いかねんぞ?

「分りました、トール様。皆さん、王城での式はノーカンとしましょう! 公務だからノーカンです! 帰ってからが本番です!」 

 でも、メリル…それは言っちゃだめだと思う。

 国王陛下夫妻が、頭を抱えて落ち込んじゃったから…


 さて、ではおさらいです。

 何で晩餐会で陛下達が頭を抱える事になったかと言うと、この王国での一般的な結婚の時の手続きというか式というか、それらが抱えている問題のせいなのだ。

 一般的には、目上の方や2人の仲を取り持ってくれた方などの前で、結婚を宣言して、お役所へ提出する書類にサインするだけの簡素なものがこの国の結婚式。

 実際には両家でご飯を食べたり、貴族ともなれば大勢のお客様を招いたり、領地持ちの貴族であれば領地で大々的にお披露目をする…まあ、領地をあげてのお祭り騒ぎ的な披露宴をしたりもする。

 もちろん、結婚する2人共が領地持ちの貴族であった時などは事前に話し合って、どちら側の領地で式を挙げるか決めるのだ。

 どっちでするかも、これまた重要なんだが、割愛する。


 俺たちの結婚式の場合は、俺が領地持ちの貴族なので普通は領地で行う。

 なにせ、嫁となる婚約者の中に、領地持ちの貴族が居ないのだから。

 ただ、厳密には領地持ちとは言えないが、この王国最大の領地持ちとも言えなくもない方を親に持つ婚約者が居るから、さあ大変。

 そうです、このグーダイド王国第四王女のメリルです。

 王様が父親なんだから、まあ王城で式を挙げるのは仕方無い…のかな。 

 これは、メリル以外の婚約者~ずは納得していた事なのだが、当のお姫様本人が頑なに反対してたのだ…件の理由で。


 披露宴と言えば、ひな壇に主役である新夫婦が並んで見世物になるのは、これもまた世の習わしであり、ひらすら挨拶に来る来客に笑顔で応えるのも、まあ仕方がない事。

 しかし、ここでもメリルの怒りが爆発した! それがひな壇での並び。

 主役は俺とメリルであって、残る4人の花嫁は添え物扱いとなる事が判明したからだ。

 こう言っちゃなんだが、俺の婚約者~ずは非常に仲が良い。

 一応、婚約者としての序列はあるそうだが、それはあくまでも建前であって、序列を笠に着て何かを言ったり押し付けたりは、絶対にしない。

 そもそもミルシェなんて完璧な平民出身なのに、俺の幼馴染だって理由で序列2位だ。ま、実際に2番目の婚約者だけどね。

 後から婚約した3人の方が身分的には上であるのに、そのことに一切文句を言わないぐらい、婚約者~ずは互いを尊重している。

 俺の幼馴染だし、婚約した順番も元々2番目だったのだから、むしろそれが当然だと、皆が口をそろえて言う。

 身分がどうとか関係なく仲良くしてくれている皆を、本当に誇らしいと思う。

 だからこそ、メリルが自分だけが俺の隣に並んで、他の4人は添え物扱いされるのが我慢できなかったんだろう。

 事あるごとに『全員一緒に結婚』を強調していたし、ミレーラが成人する今年まで結婚を待ったのも、全員一緒に式を挙げたい、仲間外れには絶対にしないという強い気持ちがあったのだから。

 結局、俺と残り4人の婚約者~ずが、『公務だから、我慢して』と必死の説得で、何とか今回は我慢してもらえた。


 この辺の考え方は、王女としての教育というよりも、むしろ俺の母さんの影響が大きいのかもしれない。

 ちょくちょく父さんの屋敷に遊びに行っている婚約者~ずは、母さんとも仲が良い。多分、母さんが色々と吹き込んでいるのは間違いない。

『嫁の序列争いは、将来必ずお家騒動になる。絶対にしてはならない』と言うのは、母さんの持論。流石は我が家のラスボスだ。言葉の重みが違うぜ。

 いや、マイ ダディーには、嫁は母ちゃんしか居ないけど(笑)

 ただ、そのせいで、この土壇場まで揉めたんだけどな…さすがはラスボスか…


「トールちゃん、何か不穏な事を考えてませんか?」

 なぜか離れた席から、母さんの声がした…何故わかった!?

「え? 特になにも?」

「そう? おかしいわねえ…トールちゃんを急に殴りたくなったのだけど…」

 …こえーよ、母さん…

 

 つらつらと式の事を考えていたが、それより先にイベントがあったんだった。

 父さんが侯爵へ、俺が伯爵へと、昇爵するのは、昨年の貴族議会で決まっているが、陛下へ謁見して任命してもらわにゃならんのだった。

 議会は1月2日、3日には納税関連のお仕事をして、任命式が4日…それが終わって、そして5日は王城で結婚式。

 ハードスケジュールだよなあ…


『大河さん、大河さん』

 どうした、サラ?

『結婚式はネス湖の畔でもするんですよね?』

 ああ、皆の希望だからな。

『だとすると、ハードスケジュールはまだまだ続きそうですね』

 え、何で? 帰ってすぐにするから、そんなに時間は…

『何言ってるんですか! 式の後は初夜ですよ、初夜! 王城で少なくとも5夜連続 + 1夜のハーレムナイト。帰ってからは、それを2セットですからね!』

 忘れとったった…てか、そんなに泊まる予定ないぞ!?

『王女が降嫁したうえに王城で式を挙げるんですから、そりゃ確実にヤル事をきちんと出来るかは重要な案件でしょうよ。出来ないなら子供も出来ませんし』

 う…そうかもしれんけど…

『少なくともメリルとは、王城で一発決めなきゃだめでしょうね』

 王城でするのか? もっとムードとか雰囲気とかを大切にしたいんだよ、俺は…

『無理ですね~。きっちりと種付けして下さい(笑)』

 お前、面白がってるだろ! 

『どんま~い!』

 ………ヤルしかないのか? ここの王城で? マジっすか…

『メリルは常々言っておりました』

 ん?

『皆で一緒に公平に』

 …つまり?

『公平に王城でヤルしかねーですぜ、旦那~!』

 ……確かに、メリルなら言いそうだ…

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