第358話  現実逃避したかった

 管理局による恐ろしい地球への干渉の事実が明らかとなり、サラのドタバタ喜劇の様なボディー換装も無事に終わり、やっとこさ俺は地上へと戻って来た。

 いや、単に地下室から出ただけなんだけどね。


 外はもう日も沈み暗くなっていたが、屋敷の窓から漏れる光で、裏庭はほんのりと明るかった。

 ふと空を見上げると、沢山の星が輝いていた。


 異世界物のラノベなんかでは、よく月が2個あったりしてたけど、それってどうなの?

 俺がこの星に転生してから、夜空を見上げるたびについつい考えてしまう。

 だって、地球と月の関係なんて、ものすごい微妙な確率で成立してんだぜ?

 それが2個もあるって変じゃね? 

 そもそも地球から見える月の大きさと同じぐらいの大きさに見えるって事が、すでにおかしい。

 だって地球に対して月って、一般的な惑星に対する衛星の直径比で考えると、異状にでかいんだぞ?

 もう二重惑星と言っても過言でないぐらいの比率だ。

 これって地球から観測できる惑星でも、ものすごく珍しいのに、なんで異世界物のラノベでは普通に出てくるんだ? むしろ月なんて無い方が一般的だと思う。

 ファンタジーだからで片付けていいんだろうか?

 そもそも作者がそういった考証を一切しないで、何となくいい感じだからって風に、いい加減な考えで書いてるんだろうなあ…どうでもいいけど。


 まあ、ラノベでどうしても許せない事って、実はいっぱいあった。

 某小説や漫画では、出てくるモンスターの名前が〇〇ダルマだった。

 ダルマって達磨大師って地球上の人物の名前だぞ? 達磨大師の逸話から、ダルマは生まれたんだ。

 何で異世界にダルマって名前が付くんだよ? おかしいだろ?

 どっかの異世界人は、主人公に向かって『シャカに説法だったか…』とか言ってみたり、『さすが〇〇は筆を選ばずの格言通りだな』とか言ってたりもしたけど、おかしすぎるだろ!

 シャカってお釈迦様だぞ? 異世界に居たのか?

 諸説あるが、シャカ=ゴータマ・シッダールタ(ブッダ)は地球上での実在の人物だ。

 異世界人の誰がお釈迦様に説法したんだっつーの!

 筆を選ばずの格言って、弘法は筆を選ばずって、思いっきり日本人だぞ!?

 異世界に弘法様が転移したんか? んで有名な書でも書いたんか? 異世界で書道やってたんか?

 子供の事を坊主とか普通に使ってるけど、語源は房主だからな? 僧房の主の事だからな? 昔の日本では、子供がお坊さんみたいに髪の毛を短くしたり剃り上げたりしてたから、子供の事を坊主と呼んでたんだからな? 子供=坊主ってのは、日本固有だぞ?

 そんな地球にだけある言葉を平気で使う異世界人…違和感だらけだろうが。

 よくそんな異世界物ラノベを読んでられると、不思議に思ってしまう。

 いや、よく作者と出版社は平気な顔でそんな物を書籍化したな? 

 それをありがたがって読む読者共々、頭悪いんじゃねーのか? 

 

 まあ、俺がどうのこうの言った所で、あんま意味は無いんだけどさ。

 確かに、俺が住んでいるリアルなこの異世界でも、ちょくちょく違和感のある変な言葉とかに出合う事もある。

 サラ曰く、この星では俺が転生者第一号らしいのだが、俺の後に転生した人達が、時間軸を越えて過去に生れてたりしたらしく、正確な人数は不明だがそこそこの数になってるらしい。

 どっかの主人公みたいなすごいチートを貰って転生した分けじゃ無いから、歴史にも残って無いんだけど、多少は影響を残してる可能性はある…と思う。

 転生物でよく見る様な、他言語を自動翻訳してくれる様なスキルが、全ての人に生まれながらに備わってるんだから、固有名詞以外で変な単語は無いはずなんだ。

 だけど本当にちょくちょく耳にするんだよなあ…自動翻訳のせいなのか、それとも本当にその単語がこの世界に根付いてるのか分からないけど、過去に行っちゃった転生者の仕業だと思われる。

 

 んで、何故に俺がこんなにネチネチと愚痴ってるのかと言うとだな…現実逃避したかったからなんだ。

 リリアさんとサラを地下に運んでから、すでに8時間ほどが過ぎているらしい。

 それで婚約者~ずが、この地下室の出口を取り囲んで…違うな、出てきた俺を取り囲んでいるのだ。


「トール様、わかってますわよね?」

 メリルの豊かな金髪が、静電気を蓄えた下敷きでブワッ! ってしたみたいに、逆立ってるのだよ。

 怒髪天を衝くって、リアルで見たの初めてだ…スーパー〇イヤ人みたい…何て言って笑ったら、間違いなく俺の命は無いな。

「…はい」

 涙を堪える為に見上げた夜空には、やっぱり月はなかった…

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