第330話  第28回 トール様の婚約者会議  ①

 今夜は、メリルの寝室に置いてある応接セットに、婚約者~ずの面々が勢ぞろいしていた。

 普段ならば、すでに全員が就寝している時間である。

 つまり、全員が夕食を終え、お風呂で身を清めた後、就寝時に着用する服…すなわちパジャマ姿での集合である。


『それでは、第28回 トール様の婚約者会議 を開催したいと思います』

 わ~ぱちぱちぱち!


 楽しそうに拍手をしてはいるが、単なるパジャマパーティーの様相である。

 ってか、第28回って、そんなにしてるんかい!


『今回の司会は、私、マチルダが務めさせて頂きます。では、早速ですが今回の議題です…』

『『『『ごくりっ!』』』』 


 ここに到って、この5人に共通の話題など、誰が考えても答えは一つであるが、雰囲気は大事である。


『我々の【私達5人の夢の結婚式】プランが、トール様により大幅な修正を加えられた件に関してです』

『『『『ぶーぶー!!』』』』 


 いや、あれは普通のメンタルの持ち主であれば、却下するでしょう。


『それでは、皆さまの忌憚なきご意見を…はい、イネスさん』

『はい! トール様は、もっと硬派なのをご希望だったのだと思います!』

『『『『ほっほー!?』』』』

『きっと、我々と観衆の前で、タイマンをはってトール様の漢を見せつけるような演出が欲しかったのではないでしょうか?』

『『『『ないない(笑)』』』』

『きっと、あの見事な格闘術をお披露目したかったのだと…』


 やはりイネスは脳筋である。


『はい。イネスさん、有難うございました。他にご意見のある方は…ミレーラさん、どうぞ』


 さくっと流す塩対応は、さすがマチルダと言っておこう。

 そして、脳筋発言の後に続く空気の読めな…んん! 勇気のある最年少婚約者に拍手を。


『はい…あの…トールさまは、きっと恥ずかしがり屋さんなのだと思います…だから、もう少し演出は抑えめで…』

『『『『恥ずかしがり屋??』』』』


 んなわけはない。ヘタレなだけである。


『多分、もっとシックでアダルティーな結婚式がしたいのではないでしょうか…』

 

 最もアダルティーさからかけ離れているちみっこの意見とも思えない、実に素晴らしい発言である…が、


『却下ですわ! あの銀ピカの鎧と光る剣付きの神具を、嬉しそうに装着しているトール様が、恥ずかしがり屋? それは無いと思いますわ! それにあの豚男爵邸と街門での啖呵は、ミレーラも見ていたでしょう? 恥ずかしがり屋では無いと思います』

『私も同意見です。トールさまは、子供の時から…そのう…むっつりではありましたけど…』

『『『『むっつり!?』』』』

 

 メリル、身も蓋もないご意見である。そしてミルシェの嬉し恥ずかしトール君の赤面暴露話がここで炸裂!


『あれは、私が9歳の時でした。真夏の暑い時期に、畑仕事のお手伝いを終えて汗を流そうと、井戸まで行くと…』

『『『『井戸まで行くと?』』』』

『木陰から視線を感じたんです…目だけでそちらを確認しましたが、姿は見えず…』

『『『『覗きか!?』』』』

『私が水を浴びようと、服を脱いだ瞬間…また強い視線を感じて…目だけでそちらを見ると、木陰からトール様の頭が…』

『『『『やりおったか!』』』』

『でも、トールさまならば見られてもいいので、そのまま水浴びしましたけど』

『『『『おいおいおいおい!』』』』

『ですから、トールさまはむっつりです!』

『『『『それは間違いないですね!』』』』


 酷い言われ様である。


『え~っと…何の話でしたっけ? ああ、ミレーラの恥ずかしがり屋さん説でしたね。一理あるかとは思いますが、別段恥ずかしがりだとも思えませんので、ここでは意見保留としておきましょう』


 一体、何の意見を保留するというのだろう?


『では、私からも良いでしょうか?』

『はい、ではメリルさん、お願いします』


 お~っと、ここで満を持して、大本命メリルの登場です!


『では、私が思いますに、私達の提出した【私達5人の夢の結婚式】プランは、もしかすると技術的に不可能だったのかもしれません』

『『『『おおーー!』』』』

『ユズカの革新的なアイディアを余すとこなく盛り込んではみましたが、いくら万能なトール様であっても、実現できないパートが多かったのではないでしょうか。それであれば、トール様の仰ったことも理解できるのです』

『『『『と、言うと?』』』』

『例えば、荘厳な音楽です。ユズカの話によると、遠い異国では、神を讃える歌や曲という物があると聞きましたので、あのプランのあちこちに散りばめてみましたが、その様な歌も曲もネス様にはありませんわよね?』

『『『『確かに!』』』』

『もうこの段階で、私達のプランは破綻していると言っても過言ではありません』

『『『『なるほど!』』』』

『そして、スモークとかいう物ですが、霧に見立てた煙というのは、確かに幻想的で素敵ですが…煙いですわよね? 特に煙の匂いがドレスに付いたりしたら…』

『『『『いやーーーーー!!』』』』

『ですわよね…これもユズカの話の様な、火も使わずに匂いも無い煙…技術的に難しいと思います』

『『『『そうですね…』』』』


 ここまで考えられるのであれば、もう少し練って現実的なプランを出せば良いのでは無いかとも思いますが、そこは女の子の夢のプランと言う事で、目の前の良案に飛びついてしまったと見るべきでしょうか。


『メリルさんのご意見は、いちいちごもっともです。まあ、実際には結婚できれば私などは良いのですが…』

 

 もう行き遅れと揶揄されるギリギリの年齢であるマチルダにとって、確かに夢の様な結婚式も魅力的ではあるが、それはあくまでも結婚に付随する物なので、そこまで重要視していない。


『それよりも、私としては結婚式の後の事について、もう少し皆様と詰めたいと思うのです』

『『『『結婚式の後?』』』』


 話は、段々と危険な方へと流れだして行くのであった…

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