第329話 希代の詐欺師?
女性にとって一生に一度、女性の晴れ舞台である結婚式…まあ、何回もする人もいるけど…
しかして、この結婚式は決して女性の為だけのものでも無いのだ。
男性にとっての晴れ舞台でもある! 普通であれば…だけど。
だって今回は、一度に5人も嫁を貰う男の結婚式であるからして、その主役たる俺は、どう考えてもただの晒しものとなる事、間違い無しである。
つまり、俺にとっては多くの男の妬みや僻みを一身に、粛々と受ける日でもある。
望んでなった結果ではないが、別に5人と結婚するのは嫌じゃないから…諦めるしかない。
しかし、だからこそ、だからこそである! この結婚式は女性陣がこれ以上ない程に輝き、そして幸福である事をアピールしなければならないのだ。決して、下衆い男に引っかかった、不幸な女性と思われてはいけない。
アルテアンの領民や、我が家と取引がある貴族家や商家などは、およそ好意的な目で見てくれてはいるのだが、貴族家の他の派閥や、そこに関わる商家などにとっては、良い気分なわけがない。
むしろ俺を攻撃するネタにされる可能性が高いからだ。
この結婚式で、花嫁達が幸福である事を大々的にアピールする事により、俺やアルテアン、ひいては女神ネスに対して良いイメージを洗脳…もとい、植え付ける必要があるのだ。
そもそも根本的な話だが、女神ネスを信じない貴族も多いのだ。
国王陛下が盲目的に信じているので、あまり大っぴらに声にはしないのだが、内心苦々しく思っている事など、誰の目にも明らかだ。もちろんそれは陛下もよく知っていて、事ある毎に我が家やネス様にフォローを入れてくれてはいる。
しかし、またそれが反アルテアン派、もしくは反ネス教派にとっては面白くない。
とどめに、父さんが侯爵に俺が伯爵となる事がすでに決定しているだけでなく、第四王女が俺に嫁ぐのだ。
そりゃ、俺がその立場だったら暴れてるね、間違いなく。
しかもアーテリオス神国の首長の遠い血縁にあたるミレーラも、嫁の中にいる。そして本人がネスの使徒である。
誰がどう見ても、俺へと色々な‶力“が集中しているのは明白であり、それを面白く思わない奴が少なからず居る事も、これまた明白である。
まあ、そんな奴は全員を力技でどうにかする事も、もちろん出来るんだが…それをしたら、きっと王国の内紛にまで発展しそうではある。
あのクソ男爵家をぶっ潰した時、意外にも広範囲に影響が出た事で、俺もちょっとは勉強したのだ。
悪徳貴族やその利権にぶら下がる商家がどうなろうと知った事ではないが、無辜の民にまで多大な影響が出る事だけは避けなくてはいけない。
うん、俺ってすっごい真面目じゃん。めっちゃ民の事を考える、良い貴族で良い領主だよな?
『自画自賛…』
だって、本当の事だろ?
『一見すると本当の事のようですが…嘘ばっかりの自己中で、神の名を騙る、この世界を欺く希代の詐欺師ですよね』
うっ…ち、ちがわい! 皆の事を考えてついた嘘だい! 嘘も方便って言うだろ!
『まあ、自分の目的達成のために、嘘に嘘を重ねて重ねてガッチガチにしたって感じではありますけど…』
ぐうの音も出ん…
『そもそもネスにしたって、単なる湖の浄化機能用の、言ってみれば熱帯魚の水槽のブクブクみたいな物だったはず』
また、チープな例えを出して来たな…言ってる内容が間違ってないだけに悔しいが…
『変身セットだって、自分の趣味を誤魔化すために、魔法でどうちゃらと言ってたらしいじゃないですか』
その通りでございます…
『神国との戦争も、完全に嘘とはったりと神罰と言う名を騙った精霊さん任せの力技だったそうじゃないですか』
面目次第もございません…
『そもそも、転生者だって事を告げずにここまで来てるんですから、もう取り返しつきませんけど。あ、ユズキとユズカは知ってるんでしたよね』
ああ、うん。2人は転移者だし…
『でも、その2人の正体も内緒にしてますし』
まあ、今さら言えないし…
『ネス様と波長が合うとか指名されたとか、大嘘まみれですね!』
ええ、仰る通りです…
『その希代の詐欺師の結婚式ですから、もう思いっきりはったりかませば良いんじゃないでしょうか?』
ほ…ほっ?
『色々とやらかしましょう! 主に王城での式で!』
そんな事して、大丈夫だろうか?
『大丈夫です! 困った時のネスと精霊さん頼みで、何でも行けます!』
ああ、うん。それはそうかもしれない…
そうだな。面倒な貴族連中を黙らせるには、王城での式でガツンとやるべきか。
あっちで派手派手に暴れ回れば、ネス湖の畔の式場では、慎ましやかに領民にお披露目程度で済むかな。
うん、方向性は見えてきた!
一丁、やりますか!
『くっくっくっく…果たしてそれで、あの5人が納得するでしょうかねえ~。楽しみです♪』
ん? 何か言ったか、サラ?
『い~え~! 一丁やったりましょう~!』
おー! 俺はやるぞー!
『コントみたいな式をきぼんぬ(笑)』
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