第303話  処遇を発表します

 その日の食堂での晩飯は、とても静かだった。

 母さんの機嫌がまだ微妙だったのと、それに脅えた婚約者~ずが俯いたまま顔を上げず、黙々と料理を口に運ぶだけの時間となった。ちなみに父さんは、まだ顔が青いままだった。

 コルネちゃんは空気を読める良い子なので、黙ってはむはむと食事をし、ユズキとユズカは、割り当てられた船室で食事をとるそうだ。当然、サラもナディアも天鬼族3人娘は、一言も声を発さず、食卓の置物になっていた。

 うちのゴッド母ちゃんを、ここまで怒らせる事が出来るあの娘は、ある意味凄いな。

 

 し~ずか~な~し~ずかな~♪ 食事を終え、そそくさと逃げる様に食堂を出ようとする皆を、俺は呼び止めた。

「あ~皆、ちょっと聞いてくれるかな」

 何故か、そろ~っと席を立った皆が、ビクッ! とした後立ち止まり、恐る恐るといった感じで俺を振りかえる。

 そんなに怖がらなくても、もう大丈夫だと思うんだけど。それに、俺のお話だから怖くなんて無いぞ?

「いつもの如く、連絡事項です。まあ、座って座って」

 まだちょっと皆、びくびくしながらって感じで席に着いた。

「え~皆さんが今最も気になっている、例のポリン嬢の件です。母さん達と彼女のお話しで分った事ですが、あの地の纏め役の頂点にいる、カパス氏の孫娘(11歳)だという事は、もうすでに知っていると思います」

 晩御飯前に、マチルダやイネスからそういった情報はすでに皆に周知されてると聞いたので、これはささっと流します。

「そで、母さんからの言われました彼女の処遇に関してですが、皆さんも知っての通り、先ほど月神様へとお願いをしてきました」

 しんと静まり返った食堂の中で、俺の声だけがやたらと響いていた。

「この場では、その結果をお話したいと思います」

 誰かが、ごくりと唾を飲み込む音がした…気がする。

「月神様は、こう仰いました。彼女を月神様の巫女見習いとすると」

 なぜか、婚約者~ずは、ほっとした顔をしていた。母さんは、ややドヤ顔。

「月神様の教会が完成するまでの当面の間、太陽神の教会で巫女見習いとして修業をしてもらいます。これは、当人の意思も希望も一切受け付けません。神々の決定事項ですので、本人が拒否しようとも粛々と進められる事となります」


「はいっ!」

 ミレーラが元気よく挙手した。

「はい、ミレーラ君。発言を許可します」

「あの…太陽神の教会の巫女制度と言えば…あのぉ…そのぉ…アレなのでは無かったでしょうか?」

 うんうん、大問題のあった太陽神教会の巫女制度の事は忘れてないよ。

 なんせ腐った教会の高位の似非聖職者の性欲の捌け口として少女を効率よく集めて、遊び飽きたら少女達は口封じされてたという、恐ろしく悍ましい制度だったもんな。

 毒牙にかかる前に助かったミレーラだからこそ、いくら母さんを始め我が家の女性陣の反感を買ったからといって、そこにあの少女を送り込むのに抵抗を感じてるんだろ? すごくわかるよ…でもね。

「ミレーラの危惧している事は良く理解しているつもりです。でも安心して。知っている様に、もう教会の制度は一新されてます。あの戦争によって制裁を受けた、腐った聖職者達とは考え方を異にする、とても真面目な信仰心が篤く、信者から尊敬され、清貧生活を重んじ、完徳へと日々修行を絶やさぬ、とても尊敬できる方々です」

 全員が、静かに俺の言葉を聞きながら頷く。

「現在の巫女制度は、未婚の女性が女神様に仕える崇高な神職となるべく教会で修行を行う制度です。ミレーラが心配する様な下品で下劣で下衆な制度ではありませんので、ご安心ください」

 微妙に張りつめていた空気が、やんわりと緩んだ気がした。

「さて、そこで彼女には、太陽神の教会で修業をして貰おうと思います。具体的には2年程」

 2年間、がっつりと矯正…もとい、修業を受ければ、あの不思議ちゃんも治ると思うんだけど、治って欲しいなあ。

「べダム首長との話し合いの結果、神国に到着次第、教会関係者が彼女を迎えに来る事となっております。皆さまには、教会関係者に彼女を引き渡すまで、しっかりと見守って頂きたいと思います」

『はいっ!』

 俺の締めの言葉に、全員が、揃った声で、返事をするのだった。

 軟禁している不思議ちゃんの監視とは言い難いからね…せめて見守りで…

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