第285話 のの字…
当然ですが、説教タイムは足が痺れて歩けなくなるまで続けられました。
結局、最後には…
『新しい大陸へと一緒に行けないんだから、せめて普段は一緒にいて欲しいです』
『内緒で遊びに行くのはずるい!』
『せめて一声かけて欲しかったです…』
『私達に声をかけないのは、やましい事をしようとしているからでは?』
『新装備とやらに、興味があります! テストには是非とも私と!』
『お兄ちゃん、コルネも連れてって!』
と言われたが、どれが誰の言葉かは、名前を書かずとも多分わかるだろう? 最後のは、簡単だけど…
ってわけで、結局、我が家のフルメンバーを引き連れてお外に出ました。
サラはまだ体調が戻らないので、寝ていて不参加。
この装備は、こっそり試すつもりだったのになあ…
「それでトール様、その新しい神具というのはどの様な物なんですか?」
さっきまで、鬼の形相で…いえ、とても良い顔で俺に説教をしていたメリルさんが、興味津々で訊いて来た。
「ああ…うん。武器じゃないんだよなあ…実は…」
それを聞いた一同、頭の上に ? が浮かびまくってる。
俺はズボンのポケットから取り出した、小さな指輪を右手の中指に嵌めて、念じた。
すると、指輪が光輝くとまではいかず、写ル〇ですのフラッシュぐらい瞬間光って、俺の手の中である物へと変わった。
そう、昭和のヒーローと言えば、ギター! それもフォークギター(アコースティックギターでも可)! トランペットでもギリギリ可! 異論は認めない! 俺の中では、必須アイテムなんだよ!
「それは…もしかして楽器ですか?」
マチルダが、恐る恐るといった感じで聞いてきた。
「う、うん…武器にもなるかもしれないけど…楽器…」
さらにこの場に居合わせた我が家の面々は混乱してしまった。
いや、一部というか、何かを察したユズカだけは、爆笑してるけど…
「ぶわっはっはっは! ベタ! すんごくベタ!」「ちょっとユズカ、笑っちゃ子爵様に悪いよ~…ぷっ」
あ、ユズキも笑いやがった! ベタで悪かったな!
ユズキ、お前もベタだって思ったんだろう? いいよいいよ、笑いたきゃ笑え!
「え~っと…トール様、それが新しい神具なのは分かりましたけど…何を練習するのですか?」
…………。
「メ、メリル。多分だけど、トールさま…あの楽器を弾く練習を、こっそりとするつもりだったのでは?」
ミルシェよ、俺は勘の良い娘は嫌いだぞ…
「あ、上手くなったら私達に…披露するつもりだった…とかです…か?」
ミレーラよ、その憐れみ100%の目は止めてくれ!
「あ、え? でも、トール様、武器にもなるんですよね?」
俺の下手な演奏で、精神攻撃が出来ますなんて、言えない。恥ずかしすぎて言えない。
「お兄ちゃん、何か弾いてみて~!」
コルネちゃん…君は、どこでお兄ちゃんの精神をグリグリと抉る様な攻撃を覚えたんだい?
あ、なんだか風景がぼやけてきたなあ…目にごみでも入ったかな? 涙が滲んできたかも…
「皆さん、マスターを虐めないであげてください! ネス様を讃える聖なる曲を上手く弾けるようになってから、マスターは皆様に披露しようと考えておられたのです」
ナディア、有難う…でも、虐められてはいないと思うんだ、うん。
「トールちゃん、こっそり練習するつもりだったのね」
母さんまでナイーブな少年の心を抉ってきた…
気が付くと俺は、ギターを背負って、膝を抱えて地面に座り込み、『の』の字を地面に描いてた。
俺の後方で、アルテアン家で『トール君を励ますための緊急家族会議』が開かれていた様だが、今の俺には振り向く勇気が持てなかった。
いいよいいよ。どうせ弾けもしないのに格好だけで創った俺が悪いんですよ。
ナディアにギターテクニックを不思議パワーで覚えてもらって、講師になってもらおうとか思ってたけど、計画がすべて水の泡だよ。ただ恥かいただけだよ…
「子爵様、ちょっと貸してください」
ん? ユズキもギター触りたいの? どうぞどうぞ。どうせ俺にはただのアクセサリーですから。
ギターをユズキに手渡すと…『ぽろろ~ん♪』と、軽く弦を弾いたかと思うと、『じゃんじゃかじゃじゃじゃじゃ…♪』何か良い感じに曲を弾き始めた。
「柚希はギター弾けるんですよ~!」
横に来たユズカが、俺にめっちゃ自慢げに告げた。
「柚希~、まちゃまちゃ弾いて~!」
あの二枚目シンガーソングライター、福〇 雅治の『HE〇LO』を軽快に弾いて見せたユズキ。マジっすか!? めっちゃ上手いやん!
「きゃ~! 格好いい~! あなた~大好き~!」
くそ! 俺もそれぐらい弾きたかった!
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