第278話 ええ人や
結局のところ、この巨大地下洞窟での一通りの生活を見せてもらった後は、ホワイト・オルター号へと戻ることとなった。
だって、あんなカタツムリとか食べたくないし…
いや、この地に住む人々の食文化に対して、悪しざまに言うつもりは毛頭ないよ?
俺が食わず嫌いなだけだから…本当だよ?
まあ、俺がホワイト・オルター号で晩飯を食いたいと言ったら、即座に全員が賛成したけど。
決して皆も悪気が有るわけじゃない…はずだ。
「流石に、あのカタツムリは食べたくないよ…」
ホワイト・オルター号の食堂で、ユズカが開口一番そう言った。
まあ、その意見には同意だ。
「だけど、あの人達の前では絶対に言うなよ? 傷つくと思うぞ」
俺がそう言うと、ちょっと不貞腐れたように頬を膨らませて唇を突き出しながら、
「は~~~~~い」
と、ユズカは返事をした。
周りを見回すと、皆も同じ様な顔をしていたから、まあ…そういう事なんだろうな。
晩飯は、簡単ではあったが、ユズキの手料理。
地球で言えば、安いファミレスぐらいのレベルかな?
この世界に料理評論家が居たら、☆は3個はもらえる気がする。
「急だったので手抜き料理なんですけど…」
皆が料理の腕を褒めると、照れてるのか恐縮しているのか、ユズキはそんなことを言っていたが、これで手抜きなんだったら、きっと王都にある一流の料理店のシェフは地団駄踏むに違いない。
食事の後は、今後の予定。
カパス老によると、この盆地の地下に散らばる集落の全てに連絡が付くまでには、3~4日ほどはかかるらしい。
急ぎ連絡員を散らばせたらしいが、連絡が付いて代表者が集まるまでは暇だ。
カパス老の集落が、この地下都市(?)では最も大きな集落なので、その長老であるカパスさんが、この地下の全ての集落のまとめ役をしているんだそうだ。
言ってみたら地下都市の市長みたいな感じかな。
んで、各集落のまとめ役さんが、区長だな。
つまりは区長さん達が集まってくれないと、話は進まない。
そもそも、この地下に住んでいる人が、総勢で何名かすら不明なんだから。
市長さん、仕事してくれよな…
とりま、個々の人たちを押し付ける予定の、アーテリオスのベダム首長には一報入れとくか。
通信の呪法具を取り出して、通信開始。
『はい、ベダムです』
『もしもし…夜分すみません。トールヴァルドですが、今お時間は大丈夫でしょうか?』
『おお。トールヴァルド殿。恐怖の大王はどうなりましたか?』
うん、そういえば報告忘れてたな。
我が国の国王にも報告してねーや(笑)
『ええ、無事に討伐できましたよ』
『それは重畳!』
喜んでくれてるみたいだが、特に周辺国にも被害も出てないんだから…恐怖の大王が出たとか討伐されたと言われたところで、実感ないだろうなあ。
『それでですね、討伐後にネス様と太陽神様と月神様がお出ましになられまして…』
『なんと! ネス様と太陽神様だけでなく、月神様までもですか!?』
お、驚いてるな。
『ええ…この地の人々は、月神様を信仰しておりますから』
『なるほど…と、いう事は、そこな国の民とお会いに?』
ふむ。なかなか話が早いな。頭の回転の速い人は好きだぞ。
『ええ…地中の洞窟で慎ましやかに生活をしておりました。ただ…』
『ただ?』
『この地では、早晩民が死滅すると、神様たちは仰られまして、太陽神様がアーテリオスへの移住を勧められておりました』
神様の名前を使って申し訳ないけど…
『なるほど。トールヴァルド殿…いえ、使徒殿。万事、このベダムにお任せください。太陽神様が仰ったのであれば、わが国に否を唱える者はおりませぬ。全ての民を受け入れましょう』
無理言ってすまんねえ…ついでにもう一つ言っちゃおう。
『有難うございます。あと、太陽神様と月神様のお話では、アーテリオスに月神様の教会も欲しいと仰せなのですが…』
太陽神を信仰している国のトップにいう事じゃないけれど…
『その程度の事であれば、お任せください! 見知らぬ国へと移住するのです。民たちも、心の寄る辺となる月神様へ、祈りを捧げる教会が無ければ心安らがないでしょう。民が移住した暁には、話を聞いて立派なものを建てましょう!』
この人、ええ人やなあ。
あの戦争の時、クソ教会の生臭坊主共の首切って、正解だったな。
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