第270話  秘技!

『良い事ではありませんか。偉大なるマスターに対して、敬意を持つのは当然です』

 うん、ナディアならそう言うだろうけど、王国や神国の偉いさんが見たら、どう思うだろうか?

『いっその事、王国も神国も、偉大なるマスターが治めればよいのです。マスターの覇道は、この地から始まるのです!』

 ナディア…最近、かなり漢前になったな…考え方が…。

 俺はこんな遠い地なんて管理したくねーよ。俺の領地でのんびり楽しく生きたいんだよ。

『では…この状態の人々を、どうしましょうか…』

 ん~~~?


「皆さん、取りあえずお立ち下さい。先ほども言いましたが、私は神ではありません。そこまで畏まられますと、お話も出来ません」

 そう告げると、渋々といった感じで、この地の纏め役カパスさんが立ち上がった。

 それを見た人達も、徐々に立ち上がり始めた。うん、これで話がしやすくなったな。

「もう一度言いますが、私はグーダイド王国とアーテリオス神国から親書を持って参りました。この地を治めている、主、もしくは王様は居られないのですか?」

「はい…私達の遠い祖先の頃には、王がこの地を治めてたようですが、度重なる戦禍により、この地は主の居ない地へと成り果てました。今では、この老いぼれがこの地の民の纏め役をさせて頂いております」

 カパス老は、少し寂し気に答えた。

「そうですか…では、この親書はカパス様にお渡しします。ナディア…」

 俺の話が終わるかどうかというタイミングで、スッとナディアが親書の入った文箱を差し出して来た。

 それを受け取ると、箱ごとカパス老へと手渡す。

 震える手でそれを恭しく受け取ったカパス老は、隣に立つ男性に箱を渡すと、蓋を開けて親書を取り出して読み始めた。

 どっちの親書を読んでいるのか分からないが、1通目を読み終えると、もう1通に手を伸ばした。

 何度も頷きながらそれを読み終えると、そっと文箱に親書をもどして、ガバッとまた平伏した。

「畏れ乍ら申し上げます! グーダイド王国のトールヴァルド・デ・アルテアン様。我々はこの地の下に村を造り、細々と暮らしてきました。しかし、民の数は年々減る一方。近い将来、この地の民は絶えてしまいます。何卒、その神の使徒たるトールヴァルド様の御力で、我々を御救いいただけないでしょうか」

 カパス老が半ば叫ぶようにそう言うと、また人々が平伏しようと膝を付き始めた。

「待って待って! 立って立って!」

 俺が叫ぶと、戸惑いつつも跪くのを止めてくれた。

「皆さん、少し待ってくれますか? あ、いえ…ほんの少しです。あの空に浮かぶホワイト・オルター号…えっと、飛行船をこちらに呼び寄せます。あそこには私の家族や仲間がいますし、何より聖なる女神様から賜った神具です。あの飛行船であれば、聖なる女神ネス様、太陽神様、月神様へも、私の言葉が届きますので、神々にどのようにしたら良いか、相談してみましょう」

 もう、なる様になれ! 秘技! 行き当たりばったり発動!


「おお…月神様へ声が…」「空を飛ぶ神具!?」「…神様と相談」「神様に言葉を届けられるなんて…」

 微妙にざわついて来たけど、かまやしない。

『サラ、こっちに船を回して~』

『あいあいさー!』

 軽~いノリのサラの返事と共に、ホワイト・オルター号は、ゆっくりと旋回すると高度を徐々に下げつつ近づいてきた。

『着陸したら、皆降りて俺のいる所まで来てね』

『了解♪』

 大体、俺の後方50mぐらいの場所にゆっくりと着陸すると、キャビンから我が家の面々が降りてきた。

 俺の背後にずらっと並ぶ我が家一同を、呆然と見つめる人々。

 うん、俺も一瞬呆然としたよ…何で皆着飾ってんの? まあ、いいけど…


 それじゃ、久々に神様降臨! んでもって大サービス! 月神様も初登場だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る