第261話  恐怖の大王戦(別視点・その3)

白須柚希視点


「柚夏! あんまり離れないでよ~! まだゾンビの処理終わってないんだから~!」

 本当に困ったもんだよ。柚夏ってば常に猪突猛進なんだから…もうちょっとだけ、女の子らしくしても良いと思う。

「は~い!」

 でもゲームのバイオ○ザード好きだったから、リアルで出来て嬉しすぎるんだろうなあ…

 どう見ても女の子が手にするには武骨に過ぎる巨大なランスを振りまわして、その先からビームみたいにエネルギー・ブレッド(柚夏命名)を撃って、ゾンビの頭をふっ飛ばしまくってる。

 すごくグロいんだけど、柚夏はゲームで慣れてるから平気なのかな? 僕はちょっと吐きそうです。


 今回の僕は天馬ケンタウロスモードで、馬の背に油の樽をいっぱい括り付けて、柄杓で油をゾンビに撒いては燃やす係。

 油撒いて松明で火を点けて、もう完全に放火魔だよね。

 でも、そうやってきちんと処理しないと、駄目だってネス様の使徒である子爵様が言ってるんだから、ちゃんとやりましょう。

 僕の神具は、名前を【灼熱の闘士 プロキシマ】って言うらしいんだけど、僕の希望もあって本来は近接格闘戦が本分。

 以前に行ったダンジョンや、人間の兵士相手になら良いんだけど、ゾンビは殴りたくないよなぁ…ぐちょ! ってしそうだし。

 だから、今回は柚夏に戦闘は任せます。

 僕に遠距離攻撃の手段が無い訳じゃ無いんだけど、それでも柚夏の遠距離の方が射程が長いから。

 

「あ・な・た~~~こっちも処理お願~~~い」

「ちょっと、先に行きすぎ! 燃やすの時間かかるんだから、ちょっと待って!」

「は~~い!」

 うん、僕達結婚したんだよなあ…まさかこの年齢で結婚するとは思わなかったよ…

 日本では、小さな時からずっと一緒だったから特に意識した事は無かったんだけど、中学2年ぐらいからかなあ…柚夏を女の子として意識し始めたのは。

 でも、柚夏の気持ちが今一つ分かんなかったんだよね。

 嫌われてはいないと思ってたけど、言葉にした事も聞いた事も無かったから。

 幼馴染から彼氏彼女の関係への変化って、切っ掛けが中々難しいって思う。

 まさか、その切っ掛けが異世界転移だとは、日本に居た時には思いもしなかったよ。

「ねえ、私すっごく汗かいちゃったかも」

 そんなはずは無いと思うんだけど…この神具は、いくら動いても体温を自動的に調節してくれてるから、汗なんてかかない…

「これ終わったら、一緒にシャワーあびない? この戦いに向けて、ずっとご無沙汰だったし…だめ?」

「…駄目じゃないです…」

 こうしてたまに甘えてくるのは、反則だと思う。すごく可愛い!


「あの~いちゃつくのは、時と場所を考えて頂けないでしょうか?」

 どきっ! 見られちゃった…というか、聞かれちゃった!?

 振り返ると、アーフェンさんが呆れを隠しもせずに立ってました。

 手には…ダ○ソン? の掃除機を持って。

「ねぇねぇ、アーフェンちゃん…その掃除機って何?」

 柚夏が超ストレートに訊いた! 僕も気になってたけど…あれって、多分ネス様の神具なんじゃないかと思うけど…

「これは、マスターより貸与された神具です。灰になった敵を、塵も残さず処理できる優れものだそうです。マスターが自慢してました。ほら、あそこでアームが吸い取ってますよ。あっちではナディア様が吸い取ってますし、マスターは恐怖の大王を吸い取ってました」

 そう言いながらアーフェンさんが指さした方を見ると、確かにガンガン吸い取ってるのが見えた。

 いや、もの凄い絵面なんだけど! ドラ〇もんの四次元○ケットに、どこで〇ドアーが吸い込まれる時みたいに吸い込まれてる! すっごい違和感があるけど…さすが神様の道具だ…

「アーフェンちゃん、すっごいね~その掃除機! 四次元ポ〇ットみたい!」

 柚夏…本当にストレートだよね…色々と。


「よ~し! それじゃ私がガンガン倒しちゃうから、柚希もガンガン燃やしちゃってね。アーフェンちゃん、ダイ〇ン君で残らず吸い取っちゃって!」

 どうした柚夏…急に仕切り始めて?

「おう!」「はい」

 この波に乗らなきゃダメなのかな?

「そんで、全部終わったら、ゆっくりいちゃいちゃしよ~ね~柚希~!」

「ぉ…ぉぅ? おま、何言ってんだよ、こんなとこで!」 

 恥ずかしいだろー!

「良いのよ~! だって夫婦なんだもん! 今夜は寝かせないぜ、べいべー!」

 そのセリフは、普通男が言うものだと思う…我が家では逆転してるけど…

「よ~し! そうと決まったら、ハッスルするぞー!」

「いや、待て待て! 何をハッスルするつもりなんだよ? この戦いを頑張るって意味だよね、そうだよね?」

 まさか、夜の夫婦生活のことじゃないよね…

「それは、お愉しみって事で~。そんじゃいっくよ~!」

 

 楽しそうに巨大な槍を振りまわしながら走って行く柚夏の後姿を見ながら、僕はやれやれ…と思いつつ、馬の下半身を操作して後を追いかけた。

 こんな猪突猛進な柚夏だけど…嫌いになんてなれないよね…惚れちゃったんだから。

「勝手に進まない! 僕に歩調を合わせて!」

 うん、色んな意味で歩調を合わせて欲しい。

 戦闘も異世界生活も…そして夫婦生活も。

「柚希~! だ~い好き!」

 うん。僕も大好きだよ、柚夏。

「恥ずかしい事、大きい声で言わない! ほら、右前の敵に集中!」

「は~い!」

 ますます呆れ顔のアーフェンさんと、柚夏の倒した敵を焼いて回収しつつ、僕達は柚夏の後ろを追いかけた。

 

 僕が追いかけられるスピードで走ってね。背中を見失いたくないから。

 この異世界に一緒に来たのが、柚夏で本当に良かった…愛してるよ、柚夏。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る