第234話 自己言及のパラドクス
昭和26年、発掘中の古代遺跡から発掘された蓮の花が、約2000年の時を超えて発芽し、翌年の夏に美しいピンク色の大輪の花を咲かせた。
今では世界各国に根分けされ、世界各地でその美しい花を見る事が出来るという…
『何ですか、そのナレーションは?』
いや、植物の生命力っていうか生命の神秘っていうか、時を超えたロマンっていうか…
『それと恐怖の大王に何の関係が?』
あ~、恐怖の大王…いやカズムは、この世界の次元の壁を越えて転生するのにエネルギーを使い果たして休眠状態になったんだろ?
『そうですね』
それが最近復活したと。
『そうですね』
つまりは、古代蓮と一緒じゃないのかなと。
『おお?』
永い眠りから覚めたカズムが、今まさに芽吹いた。
『なんと!』
そして世界を恐怖と混乱に陥れようとしている。
『キタコレ!』
…お前、真面目に聞いて無いだろ?
『当たり前です。そんな事はどうでもよろしい。要は如何にしてカズム倒すかです』
まあ、そうなんだけど。
『それで、ずっと前に言ってたあの方法で行くんですか?』
そのつもりだ。まだ完全体っていうの? フルスペックのカズムじゃ無い気がするから、やるなら今かなあ~って。
もしもカズムが植物なら、あの方法でも問題ない気がするし。
『そうですねえ…そもそも元神ですけど、今はこの世界の生物に転生してるわけなんですから、それに準じた仕様のはずです』
おかしな事だよな。混乱と混沌を好むくせに、自らの存在はその世界のルールに縛られてるって。
『確かにその通りですが、それこそが混沌なのではないですか?』
なるほど…自己言及のパラドクスというやつか。
『あ~確かに似てますね。カズムは、自ら世界のルールを否定しているにもかかわらず、自身は世界のルールの範疇でしか存在できません。真に全てのルールが無い世界を好み、それを実現しようとすれば、≪自らもの存在≫をも渾沌としなければなりません。しかし≪渾沌というルールに従う≫と言う事は、渾沌ではありません。つまり、カズムは≪自分以外の全てを渾沌にしようとしているが、自らはそのルールに反して自己を確立している≫状態を望んでいるのです。ですが、それではルールという制約に反しているという、一見カズム的には正しいように見える状態も、≪渾沌というルールに従わない≫という、新たなルールを生み出している訳ですから、これも混沌とは矛盾してしまいます』
うん、ややこしくなってきた…。結局は、自己矛盾のループを繰り返してるわけだ。
『そうです。そうして繰り返すループが、輪廻転生システムに悪影響を及ぼすのです。何せ元神だけあって、いちいち使うエネルギーが莫大ですからね』
ふむふむ…転生システム、お久しぶりだな。
『大河さんの恐怖の大王植物転生仮説ですが、私もそれが正しいように思えて来てます』
ほ~、何でだ?
『いえ、ここの所、エネルギー変換玉を結構な頻度で使用していますよね』
そう言えば、大分使ったよな。
『10歳以前と比較すると、使ったエネルギーは莫大です』
まぁ…うん。
『エネルギー変換玉使用時に、輪廻転生システムに送られるエネルギーの余波を、休眠中の種子が溜めこんで発芽したんじゃないかと思うんですよ』
余波って?
『電気を動かせば磁気が生まれます。転生システムが欲しいのは電気だと思ってください。つまり磁気は使われていないという事です。ですが、磁気から電気を生み出す事も出来るのです』
つまり、システムが使ってなかったエネルギーの副産物というか、余波をカズムがリサイクルしてエネルギーに変換・吸収していたという事か。
『これは輪廻転生局でも予想出来なかった事ですから、気にする必要はありません』
それは暗に気にしろって事か?
『いえ、全く。これも世界の…というか、魂のエネルギーのルール上の事であって、まさかそれを利用するとは思ってもみませんでしたので』
あ~ここでもパラドクスか…とことん自己矛盾してるな、カズムは。
『それこそがカズムの本質かもしれませんけどもね。つまり、カズム発生に関して、どう予防しようと対策をしようと無駄だって事ですよ。ま、気にせずバンバン使っちゃってください。もう復活しかかってるんですから、今更です』
ふむ…では、例のアレを創る時が来たって事だな?
『ええ、その通りです! 私との赤ちゃんを!』
んなわけあるかーーーーーーーー!!
恐怖の大王対策の、例の物だよ!
『つまらない男…』
微妙に傷つくから、その言い方は止めて!
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