第193話  お着換え中…

 さて敵地(?)であるアルビーン男爵邸にやってきました我が家の面々は、早速とばかり控室にてお着換えです。

 本当は伯爵家と子爵家でそれぞれ男性用女性用の着換え部屋と控室を別けるらしいんだが、男爵曰く部屋数が足りないため、アルテアン家は2部屋で何とかして欲しいとの事。

 って事で俺と父さんとユズキはささっと着換えて、廊下で待機。

 女性陣は荷物も多いし時間もかかるので、2部屋に別れてお着換えしてもらいます。終わったら声かけてね?


 廊下で不審者が来ない様に、見張りをしながら3人で簡単な打ち合わせをしておきました。

 とは言っても人目に付きやすく話も聞かれる可能性のある廊下での打ち合わせなので、廊下を行き交う人に聞かれても良いお話しです。


 現在、母さん・コルネちゃん・ナディアのお着換えはサラが手伝い、婚約者~ずの5人は天鬼族3人娘とユズカが手伝っている。天鬼族のドレスは互いに手伝い合うらしい。

 ちなみにサラとユズカのお着換えは、ちょっと高級な素材で仕立てたメイド服です…なんと1着日本円にして40万もしました。

 まあ、これは1人で着替えられるので、一番最後らしいです。


「父さん、絶対に母さんを最初に褒めるんだよ。順番間違うと…血を見るからね…」

 おニューのドレスにお着換えが終わった女性陣と対面した時、絶対に忘れてはいけない事の確認だ。

「お…おう。コルネはどうする?」

「まずは母さんをしっかりと見て、【ドレス】じゃ無く【母さん】を綺麗だって褒めるの! その後で、そのドレスも似合ってるよとかセンスがいいとかとにかく褒めまくる! 終わったらコルネちゃんを可愛いとかでいいんで褒める! ナディアは良く似合ってるでいいから、とにかく母さんが一番最初だからね」

 言葉を一つ間違うと、女って怖いんだって事を忘れない様に。

「俺は婚約者達と天鬼族を褒めてから、そっちの部屋に行くからそれまで頑張って」

「わかった…早く来てくれよ…」

「あのね、父さん。俺の方は8人もいるの。父さんは3人なんだから1人で踏ん張ってよ…俺の方が助けて欲しいよ…」

「「はぁ~~~~~~~」」

 俺と父さんがこの先の展開を考え、ため息をついていると、

「お2人共大変ですね~」

 などと他人事の様な感想を宣うユズキ。

「いや、ユズキもしっかりとユズカを褒めなきゃ地獄を見るぞ? なんたってこの日のための特注メイド服なんだからな?」

「え!? 何故にメイド服まで特製?」

「知らん! ドレス新調について行ったユズカに、皆がついでに仕立てちゃえってノリで注文したと聞いている」

 げっ! って顔して驚いたユズキ。

「何で? 僕はいつもの執事服なのに…」

「マジで知らんよ…俺の父さんもいつもの礼服だし…」

「「「はぁ~~~~~~~」」」

 廊下に男3人の寂しいため息が響いた。


 やがて伯爵家の控室の扉がかちゃりと開いて、サラが顔を出した。

「伯爵様。皆様お着換えが終わりましたので、お入りください」

 父さん…生まれたての小鹿の様に足がブルブルしてるぞ…

 涙目で俺に助けを求めてもどうにもならないからね?

「父さん…健闘を祈る!」

 もう、それしか俺には言えないよ。

 だって…

「子爵様~皆さんのお着換えがおわりましたよ~!」

 こっちも開いちゃったもん、部屋の扉が。

「ゴクッ…ユズキ、心の準備はいいな?」

「いえ子爵様…僕はユズカだけなんで、全然平気ですけど?」

「クソッ! 俺に味方は居ないのか…1人で死地に踏み込まねばならないのか…」

「何の話ですか…婚約者を褒めるだけなんですから。何でそんな生死を賭けた戦に行くみたいな顔してるんですか…」

 お前には分かるまい。天鬼族まで含めて8人も俺の感想を待っているのだ。

 しかもその後に待っているのは、あの最強にして最恐の母さんと、絶対に嫌われたくないコルネちゃんまでもが控えてるんだぞ!

 俺のたった一言の失言が、即死に繋がるのだよ!

 

 ええい、迷ってても仕方が無い。待たせるとそれはそれで恐ろしい事になる。

 いざ行かん、決戦の地へ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る