第186話  楽しい披露宴

 披露宴と言っても、別に日本の様なプログラムは無い。

 誰も聞いてないのに、長々ダラダラとした上司や親類の祝辞やなんかは無いし、2人の想い出とかビデオを流したりする訳もないし、何度もお色直しもしないし、祝電披露なんか当然ない。

 もしかしたら通信の法具が広く普及したら、電報とかのサービスを考える奴もいるかもしれないけど。

 ただ、どうしてもやりたかったのは、ケーキ入刀。

 この世界にもケーキは有るのだが、ウェディングケーキの様な高さのあるケーキは無い。これもこれから流行らせる予定の結婚式の、いい目玉となるだろう。

 俺の式の時には、変身してトールちゃんクラッシュで一刀両断とか楽しそうでいいなあ~って思ったりもしたけど、それをやると披露宴の場の惨状が目に浮かぶし、初めての共同作業にならないから、残念だが封印。

 そう言えば俺の時って、5人も花嫁居るんだよな…どうやって初めての共同作業したらいいんだ? ウェディングケーキを5個並べるのか? それはそれで壮観だが、面倒くさいなあ…この1年の内に考えておかねば…


 ユズ&ユズは、この世界にご両親も居ないので、定番の新婦から両親への感謝の涙ながら手紙朗読ってのも今回は無い。

 俺と父さん、ノット夫妻へ、2人からの感謝の言葉だけっていう、無難で簡単な形に留めておいた。


 つまり、披露宴とは言いつつも、簡単な立食パーティーとケーキ入刀のイベントがあるぐらい。

 今回の結婚式や披露宴にかかる費用は、全部俺持ちにしているが、将来的にこれを商売として行うのであれば、トータルでの費用は抑えたい。

 なんってったって、今まで結婚式の為に金を溜めるなんて習慣が無い世界なんだから、まずはこの習慣を根付かせる事を第一にしないと、ビジネスなんかに到底ならないからね。


 披露宴会場は、実はチャペルの地下にある。

 地下室と侮る事なかれ! めっちゃ豪華に造ったのだ! 費用は抑えめだけど。

 一見豪華に見えるシャンデリアは、実はドワーフ職人さんが安価に製作した光の魔道具製。魔道具の数を減らして、ガラスの欠片を周囲にいっぱい吊るしただけなんだが、キラキラと結構綺麗に光ってる。

 床は総フェルト貼りだが、これは魔族さんが飼っている色とりどりの羊さんの毛で作ったフェルト。フェルト工場なんて無いので、ちくちくと針で羊毛をつついてそれぞれのカラーのタイル状にし、それをモザイクの様に並べて貼り付けているのだが、お手製なのでちょっと高級品ではある。

 将来的には魔族さんには、ペルシャ絨毯の様な物を作ってもらいたいと、お願いはしているが、いかんせん時間が掛かりすぎる。

 これは魔族さんが鋭意努力中なので、近いうちに出来上がるかな~。

 壁と天井は全て白く塗り、清潔感のある仕上がりだ。

 この出来を見た我が家の面々が、思わず「「「うゎ~!」」」と、感嘆の声を上げたぐらいだから、問題ないだろう。


 さてさて、そんな会場でのユズ&ユズの2人の披露宴だけど、実に楽しい披露宴になった。

 まずは2人の入場。

 恥ずかしそうなユズキの腕に自分の腕をがっしりと絡ませたユズカが引きずる様にしつつ、みんなに手を振り振り堂々の入場。

 入ってきた瞬間に、花嫁が花婿より強く、誰が見ても花嫁の方に主導権があり、間違いなくユズキが尻に敷かれているのが良くわかる構図だった。


 続けて行われた、ケーキ入刀。

 普通、花嫁は花婿に手を添えるだけが多いのだが、ナイフをガッチリつかんでいるのは、やっぱりユズカ。

 ユズキが恐る恐る手を添えると、「どりゃーーー!」とでも叫びそうな勢いで、気持ちよく3段重ねのケーキを真っ二つにしていた。

 ユズカの微笑を浮かべたままでの衝撃の斬撃と、ユズキの泣きそうな顔が印象的な入刀だった。ケーキ入刀って、こんなだっけ? 下の方の段をちょこっと切るだけだと思ったんだけど…ま、みんな楽しそうだからいっか。


 そして全員がグラスを持っての乾杯なんだけど、音頭は父さんがとった。

「2人の新しい門出を祝し、乾杯!」

 乾杯前の挨拶やスピーチって、やたら長々と喋る奴いるけど、そんなの却下!

 父さんには、滅茶苦茶短い台本を用意して、そのまま喋らせた。

 うん、やっぱ短い方がいいね。


 このあとはキャンドルサービスとかも特にありません…面倒だから…

 食事は立食パーティー方式で、気ままに楽しく食べて飲んでおしゃべり。

 また、空いたスペースではダンスを踊ったり、余興を披露出来る様になっていて、新郎新婦に余興をお願いされたり、自らやりたいと名乗り出た人が披露できるようになっている。


 今回の余興は、特別参加のナディア、天鬼族3人娘、妖精さん達多数による、歌謡ショー的な物で、この世界に身内がいない2人へ、俺からのプレゼントだ。

 俺の記憶の奥底から、ナディアが引っ張りだして来たのは、小田○正の「たしか○こと」だった。

 歌はナディアが、天鬼族の3人娘はこの世界で一般的な弦楽器を弾く。

 地球のオーストリアとかでチターって呼ばれてる弦楽器に似た物だが、演奏はものすごく難しく習得は容易ではないというのに、完璧に弾きこなしている。

 妖精さん達は、歌に合わせてしっとりと周囲を舞い踊る。

 歌詞も2人にぴったりなうえ、ナディアの美しいソプラノもはまりまくっていた…

 もう、うちの婚約者~ずは感動で目に涙を浮かべてたよ。

 いや~、俺も結婚した二人も、自然と涙が出たね…いい歌や。


 俺も余興を頼まれたので、アカペラで歌ってみました…長〇剛さんの乾○…定番だけど…この世界でも通用する歌詞だし。

 なんたって前世でカラオケに行けば絶対に歌った俺の十八番だから、ぱーぺきでした。まだ声変わりしてないので、ちょっと声が高いのが残念かなあ。


 スポットライトとか作っとけば良かったなあ…いや今度ぜひ作ろう!

 

 あまりの余興の完成度の高さに、参加者は驚いていたけど、もしかしてこの世界にフォークソングが流行っちゃう? 流行っちゃうのか?


 結局、2時間ほどだったけど、誰もが笑顔でいられる楽しい披露宴だった。

 ユズ&ユズも喜んでくれたようだったし、いい思い出になればいいなあ。


 さて、新婚の2人には、王都から連れ帰った時に言った様に、1軒家をプレゼント。3DKのこじんまりした物だけど、我が領主邸からそんなに離れていない所に建ててあげた。まあ、裏庭の使用人用のワンルームのアパートだと、色々とねえ…声や音が…わかるでしょ? ロリドワーフメイド達に色々と聞こえると不味いじゃん。

 まあ、若い2人なんですから、ハッスルする事もあるでしょうから…特に2人にとって初めての今夜はね。

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