第170話  何だっけ?

 何とか一晩寝たら熱も下がって、動ける様になりました。

 いや~、皆さんにはご心配をおかけしました。

 なんせ一晩中必ず誰かが枕元で見守ってくれて…有り難いけど、めちゃくちゃ寝辛かった。

 じ~~~~っと、見守られてるとすごく視線が気になってさ。

 夜中に何度か喉が渇いて目が覚めたんだけど、暗闇の中で俺を見つめる見守り隊と目があった時の恐怖ったら…

 まあ心配してくれて付き添ってくれてるのに、怖いから出て行けとも言えないもんね。


 ってなわけで、ほぼ復活したんだけど、まだ安静にしろって婚約者~ずが煩いので、ベッドで横になってます。病人って退屈だよね。

 そう言えば、前世では何度か入院したっけなあ。

 まあ入院した原因は、ほぼ空手の練習や試合での怪我が主だったけどさ。

 肋骨ぐらいの骨折や脳震盪で入院なんて、一日もすれば動ける様になるのに、なかなか医者が退院させてくれないんだよ。

 元々体力が有り余ってたから、夜中とか暇すぎて真っ暗な病院のロビーをウロウロしてて、看護師さんにめっちゃ怒られた思い出がある。


 あれ? 何か重要な事を忘れてる気がするんだけど…何だっけ??

 そうだ! 新しい概念っていうか法則っていうの創ったんだ!

 あの時、もの凄い量の情報が流れ込んできて、頭が割れるぐらい痛くなって吐いたりしたけど、おかげで何を創ったのかちゃんと理解出来た…っていうか、脳に知識が焼き付けられた感じだ。


 この世界には魔法は有る。だが、すでに魔法って術理は廃れつつある。

 現在では、魔法が使える人は千人に一人とか言われてるぐらいだし。

 例外的に魔族が多様な魔法を使えるのだが、それはもはや種族的な特異技能と言っても過言では無い。

 なぜ魔法って術理が廃れつつあるのかと言うと、どうやら現代の人には魔法の第一段階である魔素を感じる事が出来なくなってきているからだと思われる。

 この星の魂のエネルギーが減るに従い、魔素もその総量が減っているのではないかと、俺は考えたのだ。

 何でそう考えたかと言うと、俺の周囲の精霊さんの行動から導き出してみた。

 周囲をふよふよ漂っている魔素は、最初は俺が数えれる程度しかなかった事、俺の魂のエネルギーを、ちゅーちゅー吸いに来る事、エネルギーを吸った魔素は活性化して進化した事。

 そしてサラが、「それにですね、魔素にエネルギーを与えても星にとっては無意味! いーえ、むしろマイナスです! そんな事したら、人類が滅んでも魔素だけが残るという歪な星となります。はっきりいえば、魔素にエネルギーやるぐらいなら、ケツの穴からダラダラ垂れ流しやがれこのクサレビ〇チ! って感じです」って言った事。

 つまり魔素ってのはこの星の魂のエネルギーと密接な関係性が有り、この星の魂のエネルギーの損耗と比例してその数が減った、もしくは力が無くなったのではないかと思うんだ。まあ俺は学者先生でも研究者でも無いんで、魔素や精霊さんが一体何なのか詳しく調べる気も無いんだが、つまりは魔素が減ったか弱ったために、魔法って術理が廃れてしまったんだと考えたんだよ。

 エネルギーの溢れてる地球に魔法が無いのが何でかは分かんないけど…


 んで、今回俺が考えたのは、日本で言う所の呪術的な物。でも呪いじゃないよ?

 ある一定のエネルギーを持った物へ言霊を刻みこむ事により、効果が発揮される仕組みで、魔法の様に自らが魔素を感じて魔素の力で術を発動するのではなく、万人が使える様な仕組みを構築してみたんだ。

 また、現在の魔道具と違う点は、(主にダンジョン産の)エレメンタル属性の魔石のエネルギーを利用して、その属性の現象を引き起こすのと違い、魔石の属性は無視して、そのエネルギーそのものを純粋に利用し効果を発動させようって事なんだ。

 つまり、刻んだ言霊とエネルギーの収支が釣り合えば、どんな魔石だって属性を無視して言霊で刻んだ術が発動するって言う、魔法や魔道具と似ているのだがちょっと違う理なのだ。

 ま、具体的に言えば、火の属性の魔石と水の属性の魔石に、相互通信の言霊を刻みこめば、同じ効果を発揮する通信の道具になるって事だね。


 んで、ここからが今回の最大のミソなんだが、言霊は日本の漢字を使用する。


 どうでもいい事なんだけど、昔の日本では公式文書は漢文だったんだ。

 普段は日本語を話しているのに、なぜか文章は漢文って時代があったんだよ。

 でも当時、ちゃんと日本人は日本語を話してたんだ。

『はあ?お前は何言ってんだ?』って言われそうな意味不明な文章になってるんだけど、本当のなんだよ。昔の人は、会話は日本語、文書は漢文って具合に、何故か二種類の言葉を用いていたんだよ。

 でも、普段のメモとかでちょっと何か書き記そうと思っても、いちいち日本語を漢文に訳して書いてたら使い勝手が悪すぎるって事で、漢字を日本語の音に当てて万葉仮名を造り、それがやがて平仮名・片仮名になったってわけなんだ。

(この辺は諸説ありますので、間違ってても大目に見てね)

 そうやって進化した日本語だけど、最終的には漢字は表語文字として残り、平仮名・片仮名は表音文字となって、現代日本の文章は漢字仮名交じりの文章になったわけで、その表意文字に言霊が宿る事をこの世界の法則としたってわけなんだ。

 ちなみに平仮名・片仮名に対して漢字を真名って呼んでたんだぜ。

 決して真名を知られたら支配されるっていう、厨二病的な物でも魔術や呪術的な物でもありません…ぷっ。


 まあそもそも漢字がベースなら、元日本人にしか正確な意味は理解できないだろうし、陣そのものを解析されたって、漢字を正しく理解できなければ、元日本人の創り出した物を模倣するしかない。

 つまり俺達が造らない限り、新たに危険な道具が造られたり、世に広まったりする事も無いってわけです。


 そしてこの新たな理を、魔素を利用した魔法に対して、呪法と名付けます!


『誰に向かって、うんちく垂れてるんですか?』

 脳内のリスナーさん…

『妄想乙! しかも説明だらだら長すぎ!』

 …すまん…文系なもんで語り始めると止まらなかった…

『まあいいです。さっさと治して呪法具を造りましょう!』

 了解だ。まあユズカとユズキにも手伝ってもらうから、声かけといて。

『ほいほい』

 サラに頼むのは、めっちゃ不安だけど…まあ今回は信じてみよう…

天井をふよふよ飛んでる精霊さんを愛でながら、これからどんな呪法具を造って広めようか考えてるうちに、また瞼が重くなってきた。

 真面目な事を考えると眠くなるなあ…まあ、元気になったら転移者のユズ&ユズと相談すっかね。

 

 んじゃ、おやすみ~。

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