第166話  問題は通信機器だよな

 父さんの領地に、蒸気自動車の組み立て工場が完成した。

 本当は、部品製造から組み立てまでを完全に父さんの領地で行いたかったのだが、ブラックボックス扱いとした魔石式ボイラーの部品一式だけは、俺の領地のドワーフ職人さん達が製造する事になった。

 車体や各部品は父さんの領地にて、何か所かの工房が製造し、組み立て工場に納入する。そして最終組み立てを行った後、各地へと出荷を行う予定だ。

 同時に組み立て工場のすぐ近くに、蒸気自動車運転教習所を開校。

 ここで運転技術とマナーを学んで、各地でそれを広めるインストラクター的な人員の育成を行う。

 結局、道路交通法の整備や免許制度を広める事は、現在の文化・文明ではかなり難しいので断念した。

 なので、蒸気自動車を購入したい領地から人員を派遣してもらい、運転指導員的な人員を育成して戻す事で妥協したってわけだ。

 無論、この運転指導員的教育は無償で行う事としている。

 こんな費用、ちょっと蒸気自動車の販売価格に上乗せすれば、すぐに元は取れる。

 国王陛下より、内密に装甲の付いた蒸気自動車の発注も来たのだが、現状の魔石式ボイラーの出力、サスの性能、車輪の強度、ブレーキ性能など諸々の観点から、装甲の重量が加わった車体を満足な速度で走らせる事が出来ないので、保留にさせてもらっている。

 実は装甲戦闘車両も造るのは可能なのだが、隣国と戦争をしている訳でもないのに、無用な軍備増強をして、周辺各国を刺激したくないからなのだが。

 ただ弓矢を防ぐための簡易な脱着式の装甲は、オプションで用意した。貴族や要人が乗る事を考えると必要だからね。  

 この先、バリスタを搭載し無限軌道を備えた戦車や、多連装式のボウガンを装備した装輪装甲車なんてものなら、すぐに製造出来る様に準備だけはしたいと思う。

 今はやらない。理由は、面倒くさいから。


 さてと…次は通信手段なんだけど…滅茶苦茶頓挫している。

 有線式の固定電話だと、どうやって電話線を広域に敷設出来るかという段階で断念。携帯電話や無線機の様な物も考えたのだが、電波ってどうやって出して、どうやって受信するの?

 小学校の頃に、鉱石ラジオのキットを買ってもらって作ったことはあるけど、原理や仕組みはさっぱりだ。なので断念せざるを得ない。

 ふむ…どうすべかな、サラえもん。

『誰がネズミに耳を齧られて青くなった未来から来たネコ型ロボットですか! 前にも言いましたが、新型のエネルギー変換玉であれば、この世界の法則を変える事も出来るんです。電波とか有線とかにこだわる事もありません。つまりは新たな通信手段の基礎を勝手に創っちゃえばいいんですよ』

 ほえ? つまりは、どういった原理で動くのかを創っちゃって良いって事?

『ええ。もちろん管理局の許可が下りればの話ですけれども』

 なるほど。まあ、この世界の国々に有線式の固定電話を普及させるのは、どだい無理な話だから、電波式で考えればいいかな? こう…魔法とか不思議パワーで声を届ける的な。

『そもそも、すでに大河さんはネスの映像投影装置で遠隔操作や画像転送したり、太陽神の投影装置と思念派でやり取りできますよね? 飛行船の操縦なんて、ラジコンでしょう? 私や妖精達とも念話出来てますので、それを一般的に利用できる法則を創り上げればいいだけです』

 確かに、言われてみればそうかも。

 でも、ラジコン言うなし!

『さすがに念話とかをこの世界の法則に組み込んでしまうと、色々と混乱も起きるでしょうから、電波の代わりの何かを創ってしまえばいいのです。そしてそれを普及させるための道具をこの世界の何かで作れば、それでOKです』

 なるへそ。うむ…なんか見えて来た。


 ちょっとイメージしてみようか。

 警備員ならお馴染のトランシーバーが一番イメージしやすいな。チャンネルと枝番を付ければ、かなりのグループトークが可能だし、雑音も混線もカットできるよなよな。電池の代わりに魔石っと…いやまてよ? 

 あちこちと通信出来るのは利点だが、盗聴や傍受の可能性もあるな。

 それならいっそ、チャンネルを固定した一対の機器でしか通信が出来なくすればいいんじゃね?

 何か所とも話すのには、それなりに多数の機器が必要だけど、そんなに緊急通信が必要な場所って少ないよね?

 各国のホットラインと、うちの国の王城と俺ぐらいがメインのはず。

 お? この世界の法則を変えてしまう…っていうか、新たな法則を創るか…

 なんかイメージ湧いて来たぞ。ちょっと創っちゃおうかな~!


 よし。サラ、今夜いつもの所で…2人っきりで…

『大河さんから密会のお誘いが! お風呂で隅々まで洗わなければ!』

 違うわ! ガチャ玉使うんだよ! 

『うっうっう…私の心が弄ばれました…』

 はいはい、紛らわしい言い方してすんませんな。

『扱いが雑すぐる気がする…』

 そもそも大切に扱った事なんて一度も無いけどな。

『がーーーーーーーーーーーーーーーん!』

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