第144話  みんな、楽しい? 

 空から眺めたこの世界は、緑豊かでとても美しかった。


 前世でも、飛行機に乗った事はある。

 その時見た眺望は、ほとんどが灰色や黒で染まった都市部だったせいか、美しいと感じた事は、ほとんど無かった気がする。

 唯一、空からの眺めが美しいと感じたのは、新婚旅行で行ったグアムに着陸する前ぐらいだったかな。

 青い海の中に、ぽつんと浮かぶ緑の島が見えた時は、嫁と綺麗だと小窓に張付いてた。

 まあ、その嫁とも最終的には離婚したわけだが…

 着陸前だから、さっさとベルトを締めろとCAさんに怒られたけど、良い思い出だったな。

 あとは、祖母の急死で最終便の飛行機で羽田に着陸する時の誘導灯の明かりかな…

 人工的な明かりなのに、何故か美しく見えた。

 何か、上空からの眺めって、悲しい事を思い出させるなあ…俺の前世って、良い思い出があんまり無かったんだな。


 さて、気を取り直して。

 操縦席は、船体にぶら下がっているガレオン船の船首近くの船底にある。

 外観的には、透明なドームが船底から突き出してる様に見えるだろう。

 その半透明のドーム内には、操縦者用のシートがアームで支えられて突き出しており、見た感じは某モビ〇スーツの全天周囲モニターとリニアシートみたいな感じだ。

 もちろん船体で確認出来ない上を見るために、ドームの反対側にあたる天井もドーム状の造りになっており、それこそ全天周囲モニターの様に、外の様子が映し出される仕組みだ。

 後ろは、車のバックモニターよろしく、ちゃんと映像で確認出来る様になっている。

 つまりこの操縦者用シートに座ると、空に座っている様な感じになる。

 まあ、振りかえると普通に船内だけど…。

 俺自身も初めてこのシートに座って空に浮かんだのだが…最初は、キュッって縮まったよ…どこがかは、内緒。

 実際には、操縦性に座らなくとも思念派による操縦が出来るのだが、いくら並列思考が出来るとはいえ、ちょっと疲れる。

 だから、出来るだけ外を目視しながら操船したいと思う。

 ニュ〇タイプの人って、本当にすげえ…思念波でビッ〇を操りながら、モ〇ルスーツを操縦って神業だよ。


 さあ、皆のこの操縦席を見た感想だが…思った通りの言葉を発したのは2人。

「「人がゴミのようだ!」」

 ええ、言っちゃいました。ラ〇ュタの影響って、マジすげえのね。

 でも君達、あの滅びの呪文は言っちゃだめだからね。別に滅びないけど…

「子爵様! 兵器は無いんですか? ラピ〇タの雷!」

 ああ…うん、ユズカは、そっち行ったか…近い物は有るんだけど…

「それじゃ、見せてあげよう! このホワイト・オルターの雷を! って、出来ますね!」

 ユズカ…それは悪役のセリフだが、それでいいのか?

「柚夏は、大佐が結構好きなんですよ…良く、夜に車のヘッドライトの明かりを見て、目がぁ…目がぁ〜〜〜!! って、やってましたから…ホント、ハズカシイ…」

 あ~ユズキ君も、苦労してるのね。

 まあ、それはどうでもいいや。


 婚約者~ずはっと…おお、マチルダさんとイネスさんと並んで窓に張付いてるな。

 電車のシートに正座して車窓にへばりつく子供みたい。ちょっと面白い。

 まだ、俺の領地の中をぐるぐる周ってるだけなんだが、楽しそうだな。


「みんな、楽しい?」

 そう言った瞬間、我が家の女性陣が一斉に、バッ!って振り向いて、口々に賞賛の言葉を雨あられと降らせた。

「それじゃ、今度は食料とかいっぱい積んで、王都まで行こうか?」

 あ、すっげえ喜んでる。

「トール様、お父様にもこのホワイト・オルター号を見せるのですか?」

 メリルが眉毛をハの字にして聞いて来たけど…そりゃ見せるよ?

「あのお父様でしたら大丈夫でしょうが、軍の関係者は、何とか取り込もうとするかもしれませんよ?」

 なるほど、それが心配だと。うむ、メリルがそう思うのは、至極当然。

 だが、安心して欲しい。この船は、俺と俺が許可した人間以外は操縦できない仕組みになっている。

 今のところは、俺だけしか動かせないんだ。

 しかもグーダイド王国や周辺諸国が保有する兵器では、かすり傷も付ける事は出来ない。

 その上、係留時には、シールドが自動で張られるので、侵入すら出来ない。

 ま、二重三重に安全性は確保されてるから、大丈夫だよ。

 この船は、あくまでもこの世界に仇なす存在と戦うための船なんだから、王国の戦力にはしないし出来ないよ。

 俺の説明に、やっと安心したのか、また窓から外を見ていた。


 飛行船は、ゆっくりと俺の領の最南端の海まで行ってUターン。

 試乗した皆には、とても好評であったとだけ、ここに記しておこう。

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