第140話  変えたいんだ!

『…今日は、やけに熱いですね…何かありましたか?』

 いや、まあ…ユズキに転移して来た後の話を色々と聞いてな。


 俺は、一応とはいえ、貴族家に生まれたわけだ。

『そうですね』

 確かに、贅沢は敵って感じで節約生活ではあったよ、子供の頃。

 でも特に食べる物に困った事は無いし、生活環境だってきちんと整えられてた。

 だが、ユズキは街の食堂で働いて居た時に、ゴミを漁る生活をしている人を何人も見たらしい。その中には、まだ小さな子供も居たそうだ。

『あ~王都の城壁の外に、バラックの立ち並ぶスラムっぽい場所があります』

 炊き出しとか配給なんてものは無かったらしい。王都なのにだぞ?

『無いですね~』

 仕事も住む所も着る物も食べる物も、何も…何も無い人達が、数え切れないほど居たらしい。

 でもサラだって居たんだから、王城を見たろ? 煌びやかな晩餐会や舞踏会。

 一口でも手を付けた皿は、残せば全部廃棄。しかも最高級品の食材を、最高のシェフが調理してる料理なのに、廃棄だぞ?

 貴族の間では、食品ロスは当たり前なんだろう。だがその金で、食べ物で、どれだけの人が救わると思う!?

『毎日、王城の生ゴミはものすごい量出てましたよ』

 忘れてたよ…平和なこの世界で暮らして来て、地球であった事を。

 地球だって、衛生的で安全な飲み水すら手に入れられない人たちが何億人もいたんだぞ? 注射一本で治る病気でも、その注射をうって貰う金すら無い人達が…毎日何千人も死んでいってたんだ。たかが麻疹で何万人もの子供が死んでいってたんだ。日本だと、予防接種でほとんど死なないのにな。

 俺は、そんな世界は嫌なんだよ! この世界にそうなって欲しくないんだ!

 でも現状そうなんだよ!

 俺は…そんな現状を、ずっと見て見ぬふりをしてきたのかもしれないと思ってさ…


 ユズカ達は、この世界でそんな底辺を見て来たそうだ。

 自分達は、親切な食堂の夫婦に助けられて、幸福だったってさ。

 でも、飢える子供達を助けたいと思ったって。

 2人は、まだ15歳の何の力も持たない子供だぞ? 

 俺は前世入れれば、もう60が目の前だ。

 いい大人が、そんな事に考えが及ばないなんて…自分が情けない。


『大河さん…それで、この世界を変えたいんですか?』

 ああ、この世の全ての国や制度を変えるなんて、全ての飢える人を救うなんて、大きなことは言えないけど、せめてこの国だけでも、少しでもいいから変えたいんだ!

『でもこの国が…王制が変わらない限り、そんなに大きな変化はないような気もしますが?』

 分かってる。だからメリルにもミルシェにもミレーラにも話したよ。もしもの場合は、国をひっくり返すかもってね。

『王女に言っちゃたんですか? 王城に報告されたら国家転覆を疑われますよ?』

 確かにそうだよ。だが、飢える人を減らすために、それが必要ならする覚悟は有るって、言った。

『無茶しますね…メリルは、何と言いましたか? 仮にも国王の娘ですよ? 相手は、ほぼ階級社会のてっぺんですよ?』

 メリルは、「私はあなたについて行くだけです。それが例え父に仇なす事になろうとも」だって。

『お…女の鑑です! 男前な王女です!』

 ミルシェとミレーラは、「あなたの好きな様になさってください。私達はあなたの妻になるのですから、全力であなたの夢を支えます」って、言ってくれた。

『古き良き日本の肝っ玉母ちゃん! 武将の妻ですか!?』

 一旦、この世界に混乱と混沌が起きるかもしれない。カズムに付け入る隙を作っちゃうかもしれない。もしかしたら、俺自身がカズムなのかもしれないな。


 衣食足りて礼節を知るって言うだろ? 目指すは法と秩序のある、飢える事の無い世界! 

 社会主義では駄目だ! 資本主義では貧富の差が広がる。

 だから、思い切ってイスラムの様な、政教一致、教会国家型を目指してもいいかもしれない。

 但し、仕組みには手を加える必要があるけどな。

 すでにネス教は、この国では絶大な支持を受けているから手を付けやすい。

 国王よりも高位に、教義と宗教関係者を据える事が重要だ。

 だが宗教関係者に権力を持たせない。現在の貴族院と庶民院は残しても構わないが、最終決定はネスに決めさせよう。

 うん、ネスの改良が必要だ…いや、思い切って新たに自立行動出来るネスを創っても良いな。

 でも完全な計算機ではいけない。ロボットの反乱の様な事態は避けたいから、ファジーな部分も必要だ。

 ナディアや天鬼族の3人や妖精達の様な、人格を持ったAIを搭載した神託専用のネス。まさかイスラム世界もキリスト世界も、実際に神が降臨して政策に口を挟む事は無いだろう。

 

 これならいけるかもしれない…まあでも、今は計画だけ。

 この社会を変えずとも、俺の産業革命で飢える人が無くなれば、それも良し。

 もちろん働きたく無い奴の事までは知らん! そんな大人は、逝ってよし! 

 だが子供達は助ける。罪もない子供達が飢えて死ぬ社会は、ぜってーに潰す!

『燃えてる…大河さんが、破〇魔定光ぐらい熱い! 男の道〇喧嘩道!』

 背中〇刻む覚悟 命の限〇生きる♪ って、歌っちゃったよ!

『後ろには下がれ〇い覚悟しろ~♪』

 これは流石にマイナーなアニメすぎて、ドン引きされるか…

『いえ、かなりの人が曲は知ってるはずです! なんたって、珍獣ハ〇ターイ〇トのテーマ曲なんですから!』

 そうだけど…多分、イモ〇の為の曲だと思ってるはずだぞ?

『がーーーーん!』

 

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