第137話  発進は男のロマン

 完成したホワイト・オルター号を、夜の内にこっそり街や祭壇から一番遠い湖に沈めて置く。シールドを張っているので、防水は完璧だ!

 でも、水中を長時間潜航するのは、ちとつらい。シールド内の酸素を何とかしないと、難しいだろうな。

 確か地球でも、国際宇宙ステーション内の空気は循環浄化してても、徐々に減っていくから、補充が必要だったはず。

 まあ、水中や真空中で活動する事は、まず無いだろうからそこは気にしなくてもいいか。長時間戦闘時には、シールドを解放して換気の必要性はあるけど、それはまた考えよう。

 

 しかーし! これで発進時は、水面を割って浮上するシーンが拝めるぞ!

 ブル〇ノア~俺達の使命は重い~♪ うんうん、いいね~! ロマンだ!

『またマニアックな作品を…』

 いいじゃん、発進シーン格好いいんだよ!

『宇宙にでも行く気ですか? 反重力エンジンでも搭載して。反陽子砲で敵を殲滅とか?』

 行かねーし、しねーよ!

『そもそも、強制終了させられたようなアニメなんて、誰も覚えてませんよ』

 強制終了いうなし!

『さっきの主題歌なんて、 川〇麻世ですよ? 歌手だったなんて、誰も知りませんって!』

 いや、アルバムだって出てたし…

『カ〇ヤとの泥沼離婚裁判の方が有名ですよ。お昼のワイドショーの常連です!』

 う、うん…それは確かに…

『主題歌 宇宙空母・ブルー〇ア ー大いなる海へー 。宇宙なのか海なのかはっきりしろと言いたい!』

 あ~、うん…そだね…

『まあ、所詮はヤ〇トのパチモンですから』

 パチモン言うなし! オマージュだから!

『目クソ鼻クソ…ぷっ』

 くっそー!


 まだ日の出まで時間もある事だし、さっさと戻ってちょっとでも寝よう。

 おやすみーご…


「トール様、起きてください」

 ん、誰だ? メリルか…まだ眠い…

「…あと6時間…」

「何を馬鹿な事を言ってるんですか! 今日は、ミレーラとユズキとユズカに、保護区を見せるんじゃなかったんですか?」

 そんな約束したっけかなあ…

「記憶にございません…おやすみ…」

「お義父様の屋敷からの帰り道で、言ってたじゃないですか! 3人とも楽しみに食堂でまってますよ!」

 ありゃ、そんなこと言ってたんだ…

「さあさあ、お着換えをお手伝いしますから、起きてください」

 仕方ねえなあ…でも瞼が重くて開かない…

「さあ、取りあえず上着からですよ。はい、ベッドに座って…ばんざ~い!」

「…ばんざ~い…」

 すぽって、上着が脱げた気がする…

「それじゃ、シャツも脱ぎましょうね~。はい、ばんざ~い!」

 ばんざ…い…ちょっと待て。

 クソ重い瞼を気力で開くと、目の前にフンスフンスと鼻息荒く、真っ赤に染まったメリルの顔があった。

「自分で着替えるから…先に食堂行ってて」

 うわ! めっちゃ残念そうな顔になった! 

「そうですか? それではお待ちしておりますね…」

 滅茶苦茶がっかりした顔で、部屋から出て行ったよ!


 何? メリルってもしかして、むっつりなの?

『そりゃ、行為が正当化されれば、あの年頃の少女なら、男の身体を見て触ったりしたいでしょうよ』

 マジ? 

『大河さんだって、メリルの服を正当な理由があって脱がせることが出来るなら、やるでしょう?』

 …うん。美少女だし…

『メリルは、思春期真っただ中ですからね。大河さんは枯れかかってますが』

 枯れてねーよ! まだ色々と元気だよ! 俺だって思春期だよ!

『肉体的にはですよね? 精神的には…前世を足せば、60手前ですから。これが最後の一枚ね…ってぐらい枯れてますよ』

 足すなよ! しかもそれ、オー・ヘンリーの最後の一葉だろ! 小学校の国語でやったわ! 懐かしすぎるわ!

 大体だな、その最後の一枚は壁に描いた絵だから、散らないんだよ!

『ってことは、大河さんもギリギリで枯れてない様に見えて、すでに枯れてたって事ですね』

 だから枯れてねーよ! 俺は蔦の葉っぱじゃねーって!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る