第121話  国王様とのお話

 国王様に報告すべき重要な案件は、もちろん蒸気自動車などでは無い。

 この案件は、手紙などでは情報漏えいとか認識の齟齬があっては大変なので、直接話したかった。

 もちろん恐怖の大王の事、そして俺の事。

 まあ、俺の事とは言っても、転生だの輪廻システムだの言う訳にはいかないんだけどね。


「陛下、実はネス様より神託を賜っております」

 冷静に真面目な顔と声で、話を切り出す俺。うん、普通だよな。ちゃんと話せてるから、大丈夫。

「ほう、ネス様からのご神託とな? して、どの様な内容なのじゃ」

 陛下も、先程までの笑顔とはうって変わり、姿勢を正して真剣な面持ちで俺の話を聞こうとしている。

「まだ時期は不明ですが、数万の人々の命を脅かす恐怖の大王が、この世界に現れるとの事です」

 もうゴチャゴチャとした前置きなんかはすっ飛ばして、本題をズバッと切り出すのが吉だろう。

「恐怖の大王……とな? 時期が不明なのか。して、その大王とやらをどうにかせんと、数万の人が死ぬかもしれないという事じゃな?」

 うん、飲み込み早くて助かるよ。

「ええ、その通りです。父とも話しましたが、恐怖の大王の相手は私がいたします。というよりも、私にしか相手は出来ません。ですので、情報が欲しいのです」

 ん~~上手く説明できないなあ。

「ふむ、なるほど。その大王は強大な力を持っていると。そしてそれと戦う事が出来るのは、ネス様の使徒である卿だけであるという事じゃな。そして恐怖の大王に関する情報をいち早く届けて欲しいと、そういう認識でよいか?」

 あらま! さすが一国の王様。俺が言いたかった事を、ちゃんと理解してくれてる!

「ええ。恐怖の大王を放置しておくわけにはいきません。かといって、私が常に国内を巡る訳にも参りません。ネス様の傍でお声を聞かなくてはなりませんし、そうそう領地を離れる事もできません。ですので、恐怖の大王の出現の兆候や何らかの異常事態を察知された場合には、連絡を頂きたいのです。それも出来るだけ早く」

「あい分かった。しかし出来るだけ早くとは言っても、王都からそなたの屋敷までは、早馬でも10日は掛かる。まして情報がこの王都に届くまで、幾日かかるかも分からんぞ?」

 うん、やっぱり王様もそこに気付いたか。血筋だけやお飾りの王様って訳じゃ無いのは良い事だ。

「ええ、その為の交通手段として蒸気自動車を開発しているのです。そしてもう一つ開発中のものが、新たな通信手段です。まだ構想を練っている最中ではありますが、出来れば他国とも瞬時に連絡が取れる方法を考えております。完成の暁には、一番に報告させて頂きますので、各地の貴族家や他国と協力体制をとって頂きたいと存じます」

 まあ、通信手段は最終的には携帯電話か無線機っぽいのになるだろうなあ。

「ふむ……委細承知した。そなたの思った様に進めるが良い。資材や費用は国で全て負担する。国難…いや、この世界の危機に際して、言いがかりや難癖、文句や不満など言う者などおるまい。我が国にその様な者がおれば、相応にわしが対処しよう。じゃが、いくらその蒸気自動車というのが馬よりも早いと言うても、国を跨ぐとなれば、それ相応の時が必要となるが」

 そだね。国王様ってば、やっぱ頭いいね!

「それは大丈夫です、陛下。ダンジョン・マスターより、危難に際しては空を飛ぶ魔獣の貸し出しを確約頂いております。それであれば、隣国まで1日もあれば行く事も可能。恐怖の大王対策で最も大事なのは、情報の精査と通信手段です」

 ダンジョンからの魔獣の貸し出しは実は嘘。今後、ガチャ玉で創るつもりだ。何を創るかは考え中だけどね。

「なるほどのう。あの第9番ダンジョンのマスターがのう。我が国はダンジョン・マスターに頭が上がらぬな。物資や財政にしても、こういった危難に際しても、我が国はダンジョン・マスターに借りを作るばかりじゃ。いつか纏めて返す事が出来ればよいが」

 真面目だな~王様。そんな風に考えちゃうのか。

「いえ、陛下。ダンジョン・マスターのモフリーナにも、神託があったそうです。グーダイド王国、ひいてはネス様の眷属たる私トールヴァルドに協力せよと。世界の危機であると。ですから、その様なご懸念は不要にございます。ただ一言、礼を伝えればよいのです。彼のマスターは、ダンジョンを司る神の使徒といっても過言ではありません。ダンジョンの存在を守る為、ネス様に力添えをするのですから」

 よし! 頑張った俺! 王都への道中考えてたストーリーで何とか説得できそうだ。


「うむ、トールヴァルド卿……いや、ネス様の使徒様、どうかこの世界の危難にお力をお貸しください」

 やっぱ国王様、懐がでかい! 非公式な場ではあるが、俺に頭を深々と下げちゃったよ。

「どうぞ頭を御上げになってください、陛下。私はネス様の使徒ではありますが、それと同時に、この国の…いえこの世界に生きる人間です。危難に際して傍観など出来ようはずもございませぬ。たとえこの身が尽きようとも、この世界の平和は私が守ってみせましょう!」

 格好いい、俺! 

「いや、死んでもらっては困るぞ? メリルが泣くでな。必ず勝って生きて戻ってくれ。わしも卿に死なれるのは辛い」

 あ、ちょっと泣きそう…俺が。

「はい!」 

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