第113話  領主のお仕事

 俺の執務室で、ちょっと豪華な執務机の上に積まれた書類を眺めていた。高さは約10cm×2束。漫画やアニメの様に、堆く積み上げられ崩れそうな書類なんて程ではないが、10cmの紙の束って結構な量だぞ。

 500枚入りのコピー用紙だってせいぜい5cmあるかなって程度。

 まあ、あれは新品の紙の束だから比較対象としては微妙だけど、それでも単純計算でも1,000枚×2倍。

 漫画みたいに積み重ねた書類って、何万枚なんだろうなあ……。


「ご領主様、現実逃避してないで、裁可とサインをお願いします」

 そんな俺に、斜め前に置かれている机から、冷たい声でマチルダさんが言った。

「結婚の準備や鍛錬も大事でしょう。もちろんネス様からのお言葉は最優先でありますが、それと同じぐらい領の政務も熟していただかないと、色々と滞ってしまいます。すでに私のチェックを経て裁可を下すだけの書類と、サインをして頂くだけの書類とに分けてありますので、すぐにでも取り掛かれるはずです。私は昼夜休日問わず日々仕事に邁進し、おしゃれをして街に出かけてショッピングする時間もないというのに……目の前でキャッキャウフフしている恋人達を毎日眺めているだけとか許せると思いますか? いいえ、許せるはずがありません! 私もとっくに適齢期だというのに、恋人どころか遊びに出かける男友達すらいないというのに! そんな私の前で散々誰かさんは見せつけるのですよ! そもそもこの屋敷の男女比率がおかしすぎるのです! もしも仕事が忙しすぎて行き遅れなどと言う事になったら、どうするのですか! ご領主様が責任をとってもらってくれるのですか? あら、従姉とはいえ結婚は法的にも可能でしたわね。それならば問題ありません。どうぞごゆっくり存分にキャッキャウフフしてください。近いうちにそこに入れて頂けるのであれば」

 や・ば・い! マチルダさん、色々とかなり溜まってる!

「す、すぐに取り掛かります!」

「そうそう。イネスも適齢期ですよねえ~……ふっふっふ……」

 うっわ! めっさ怖!

「さ、さあ! 早く終わらせて、今日は皆でドワーフのレストランでランチでもしようじゃないか! もちろん俺のおごりだから!」

「あら、良いですわね。では張り切ってお仕事しませんと。2人っきりじゃないのが残念ですが、そこは我慢しましょう」

「皆で食べた方が美味しいジャマイカ。楽しみだなぁ~! 張り切って仕事しなきゃ! ガンバロウ~!」

「では、誰か予約に行かせます。時間までに終わらせてくださいね」

 あは、あは、あははははははは……イケメンの有能な執事を雇おう。

 滅茶苦茶万能な、あくまで執事ですから! って人居ないかなあ……。

 はあ。部下のご機嫌取りと婿探しも領主の大事なお仕事ってか?


 頑張ったよ! もうね、手がプルプルしてるよ! 腱鞘炎どころか炎上しちゃったよ! 肩も痛くて右手が上がらないよ! 14歳で50肩とか洒落になんねーよ! 前世を思い出しちゃったよ! 単なる肩こりだろうけどさ……肩こりだよね?


 て事で、メリル、ミルシェ、ミレーラの婚約者~ずと、サラ、マチルダ、イネスさん、アーフェン、アーデ、アームの護衛三人娘を引き連れて、ドワーフのレストランにやって来ました。

 つまりは女性陣(主にマチルダ、イネス)のご機嫌取りだったりするのだが。

 この店の経営は、なんとドワーフ村の村長さんの奥様で、人魚さんの朝獲れ直送海鮮を使った和食が大人気。

 俺を含め10人で押かけちゃったけど、ちゃんと予約してあるので別室で豪華なランチを頂きます。

 ここの目玉は何と言っても新鮮な魚の刺身!

 以前、俺以外の人間は(天鬼族3人は除く)は、生魚を食べると聞いてしり込みしていたのだが、俺が美味そうに食べるのを見て勇気を振り絞って口にしたら、あらびっくり! その美味しさに一撃で虜になりました。

 実は、ドワーフの村にはお酢もあったので、何となく酢飯を作ってお寿司を再現したら、ドワーフの料理人が甚く感動して作り方を聞かれたので教えたところ、しっかりと握り方をマスターしたので、お寿司も頼めます。

 でも、日本の古き良き寿司屋って感じじゃなく、なんだか‟すしBAR”みたいになっちゃってるのが残念だけど、この星の人はそんな事は分かんないから仕方ない。

 そう言う訳で本日のランチは、豪華に5種の海鮮刺身の船盛りとお寿司。

 その他、海鮮たっぷり味噌汁、茶わん蒸しに焼き&煮魚と、海の幸尽くし。

 マチルダ、イネスの成人組にはお酒も許可しました。

 彼女らの最近のお気に入りは、米酒(日本酒)らしい。

 そりゃ和食に合うよなあ……早く俺も飲みたい。

 

 散々飲み食いしたが、お会計は日本円にして約5万円。

 10人であの豪華な料理を腹いっぱい食べてこの価格なら、流行るのもわかるなあ。

「今度は、魔族の人の焼肉レストランも行きたいです!」

 うん、マチルダさんも良い具合のほろ酔い加減でご機嫌も良くなった感じだな。

 それぐらい、お安い御用です。次はディナーで行こうね。

 もちろん、皆で一緒に。2人っきりは遠慮いたします。

 だから、俺の愛人の座は狙わないでください……3人で十分です。


『はあ~食った食った! あ、大河さん、婚約者達が許可してるので、愛人や側室はまだまだ増えますよ』

 ああ……屋敷の中は全員OKとか言ってたな。

『文字通りハーレムですよ、あの屋敷は!』

 だから、ハーレム嫌なんだってば。嫁は1人で十分だったんだよー! 3人も望んでないよー!

『何言ってんです! 婚約者3人ってだけで、十分にハーレムです!』

 3人で打ち止めにして下さい! ホント、マジ勘弁してください! 

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