第107話 男の顔
ナディアとその美しい羽根に皆が見惚れている間に、こっそり作っておいた生命の樹の種を裏庭に撒いて来た。
何故かガチャ玉(光り弱)で創った種は4個だったが、サラの説明ではこれで1セットなんだとか。
なので、一か所に全て纏めて埋めたのだが・・すぐには出てこないのかな?
ま、そのうち出てくるだろう。今は、皆の所に戻ろうかな。
家の庭では、まだナディアとコルネちゃんを中心に、女性陣がわいわい楽しそうに歓談していた。
あ、父さんも復活して会話の輪に加わってる……よくあの後で、あそこに入れるよな。
そのハートの強さだけは流石英雄様だよ。
さてと……。
「父さん、母さん。家の裏庭で儀式を執り行ったんで、そのうち生命の樹が生えてくると思うから、大事にしてね」
父さんは話に付いてこれない様だけど、そんなの無視!
「トールちゃん、さっき言ってたネス様の樹? 大事な樹なんでしょ。分ったわ。でもどんな樹なの?」
実は俺も知らないんだが……まあ、サラ曰くすぐに分かるそうだ。
「きっとすぐに見てわかるはずだから、当分の間誰も裏庭に入れないで。樹の芽が踏みつぶされちゃったら大変だからね」
そんなにヤワじゃ無いとは思うけど、一応用心のためにね。
「そうれもそうね。あなた、聞いてたわよね? 裏庭には誰も入れちゃ駄目よ」
父さん、コクコク頷く……もしや不用意な一言を発しない様に黙ってる気か?
「その樹の世話は、基本的にナディアが全て行うんで、難しく考えなくていいからね。もちろんネス様の巫女であるコルネリアも一緒にお世話をしなきゃ駄目だよ」
「うん! 一生懸命おせわする! ナディア様、おせわの仕方を教えてくださいね!」
ふっふっふ……完璧なコルネちゃんは嫁にやらんぞ計画がここに成った!
ネスの生命の樹に祈りを奉げ世話をするって仕事を、コルネちゃんに与える事が出来た。
そう、つまりコルネちゃん一生のお仕事になる……嫁に行く事など出来ないよ?
『いや、大河さんそれはどうなんですか? このまま行かず後家にする気ですか?』
『マスター……それはさすがに可哀そうではないかと……』
いいんだよ! 天使なコルネちゃんは誰にも渡さない!
もし嫁に欲しいってやつがいたら、全力全開の俺と勝負して屍を乗り越えて行け!
『『勝てるわけ無いでしょう!』』
ならばコルネちゃんは諦めるのだな……ふはははは! コルネちゃんを求める者など、この世から消し去ってくれる!
『『大河さん(マスター)が恐怖の大王になった!?』」
ちがうわ!
『では大河さん、どっかの国の王族がコルネリアを嫁によこせと言って来たら?』
そんな愚かな王族は、地獄の劫火で国土ごと全てを塵一つ残さぬ様に焼き尽くしてくれるわ!
『マスター……恐怖の大王になりますから、絶対にやめてください』
どうせ清純で天使で可愛いコルネちゃんを、脂ぎった中年のロリ王族がベッドに連れ込んで手籠めにする気なんだ! そんな事が許されるわけがないだろうが!
『『脂ぎった中年のロリ王族限定!?』』
例えさわやかイケメンでも許さん! そうだ、コルネちゃんに近寄る害虫は全て駆除しなければ! 早速、調査開始だ! 半径5m以内には近づけさせんぞぉぉぉ!
『『普通に恋愛させてあげて!』』
……今はヤダ!
『『こいつ面倒くさ!』』
……。
庭でのコルネちゃん専用装備とナディアの披露と紹介も終わり、俺達は居間に戻って来た。
やっと落ち着いて話が出来る。
婚約者と俺の家族の親睦をはかる為にも、今日は泊まって行きなさいと言う母さんの言葉に甘えた。
なぜか婚約者と母さんとコルネちゃんとナディア含めた女性陣全員が、居間を片付けてパジャマパーティーをすると言いだしたので、俺と父さんは寂しく二人で父さんの執務室で顔を突き合わせていた。
「それでトールヴァルド。なぜネス様は急にコルネリアに神具を下賜され、ナディア様を遣わしたんだ。理由があるだろう?」
父さん、こんな事は鋭いのに……いや、もう言うまい。
「実はね……まだ時期ははっきりしないけど、この世界を揺るがす大事件が起きるらしい。ほっとけば何万人も死ぬかもしれないって。その為にもコルネリアには悪いけど、ネス様の巫女を急ぎ決める必要があったんだ」
大事件の下りで、もう父さんの眉間に深いしわが刻まれていた。
「巫女になるとコルネリアはどうなるんだ?」
「特に何も。まあ母さんたちを護れる程度の力を身に付けたってぐらいかな。コルネリアに戦に出てもらう気はないよ。そんな殺伐とした事はさせたくない」
コルネちゃんには、いつまでもほんわか笑っていてもらいたいからね。
「そうか。それで結局の所、その大事件に対抗できるのは、ネス様の眷属であるお前だけという事なのか?」
鋭いね、父さん。その勘の良さを、是非とも他の方面にも活用して欲しい。
「そうなんだ。ネス様に対抗できるのは俺だけだと言われた。俺は……俺は、例えこの命尽きようとも、この世界を守るよ」
静かにはっきりと、しかし力強く言葉を紡いだ。
「父さんでは力になれないのか?」
「うん、ごめんね。その時が来たら、父さんはアルテアンの民と家族を守って欲しい。多分、神々とその存在を脅かす敵との人知を超えた戦いになるはずだから」
父さんは黙って首を縦に振った。
「トールヴァルドもいつの間にか、俺って言うようになったんだな。男の顔になったぞ」
よせやい! 照れるじゃねーかよ!
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