第101話  久々にカオス

 じゃあ、羽を隠してくれるかな、ナディア。

 ちょっと今後の事について、もう少し詳しく話をしたい。

 あ、ソファーに座って羽は大丈夫? 背中の中に収納する事も出来るの?

 そんな便利な機能付けた覚えはないけど……ああ、そう言えば光学迷彩で隠しても邪魔になるなあって、確かに考えたな。俺のイメージだったか。


 じゃ、早速今後の段取りについてなんだが……その時突然、バーーーーン! と俺の寝室の扉が開け放たれた。何だ何だ?

 そこには腰に手を当て、口元は笑っているのに目が全然笑ってないメリルが立っていた……何で怒ってるの? 怖いから止めようよ。 


「トール様、その女性は……?」

 しまった!妖精女王を創ったはいいが、誰にも言ってなかった!

 なのに、妖精女王と二人っきりで話している姿をメリルに見つかってしまった!

「あ……その……えっと……どう説明したらいいのか……」

 何て説明しようか。

「何でトール様の寝室に彼女は居るんですか?」

 え~っと……まさかガチャ玉で創りました~! とは言えないし……。

 俺がどう説明をしたらいいか考えて言い淀んでいると、

「ミルシェ! ミレーラ! みなさん! 緊急事態です! すぐに来てください!」

 メリルが屋敷中に響き渡る声で、ミルシェとミレーラを召喚しちゃった!

 

 ドタバタと大きな足音が響いたかと思うと、俺の部屋の扉がバーーーン! と開け放たれた。

「メリルさん、どうしましたか!?」「メリル、何があったのでしょうか?」「メリル様、曲者ですか?」「メリル様……」「……」「……」「……」「……」

 うぉーい! 何で屋敷の女性陣が勢ぞろいしてんだよ!

 部屋の中のナディアを見た瞬間、ミルシェちゃんのあの恐ろしく冷たい目が……ブルル……背筋が凍る。

「トールさま、まさか私達3人に手を付ける前に浮気ですか?」

「ち、違うから!」

 ミルシェちゃんから漏れ出る絶対0度の冷気が辺りを……あ、違った!

 俺だけを凍り付かせてる……。

「トールヴァルド様。私、まだお会いして間がありませんが……悲しいです」

 ミレーラが、半泣き!

「トールヴァルド殿……まさか年上の女性がお好きだとは……」

「領主様が年上好きという事は、まだ私にもチャンスが……」

 イネスさんも、マチルダさんも、何言っちゃってんの!?

「ご主人様、そんなに女性がお好きなら、メイドに手を出してもらってもいいのですよ?」

 こら! ちみっこいドワーフメイドも何言ってんだよ!

「全然そんなんじゃ無いってば! 違うから! 誤解だから!」

 両手を顔の前で大きく左右に振って、必死に違いますアピールをしてみた。

 無論、無駄だった。


「トール様、座ってください」

「はい……」

 めっちゃメリルが怖い……素直に座りました。

「誰がソファーに座れといいましたか? 正座です! せ・い・ざ!」

 第一夫人(候補)メリルの低く抑えた声って、ものすごい迫力あると思うの……。

「はいぃぃぃ!」

 冷たい床に正座しました……ええ、それはもう光の速さで。

「では彼女の事をじっくり詳しくねっとりと委細漏らさず話して頂きましょうか」

 俺の婚約者3人……怖いよ。鬼だよ。ダンジョンボスの黒竜より怖いかも。

「トールさま、今……何か不穏な事を考えてましたね?」

 ミルシェちゃん、その謎能力は封印してもらえませんか?

「また何か考えてましたね?」

 だから、謎能力!!

「メリルさま、ミルシェさま……私……悲しいです……うわぁぁぁぁん!」

 とうとうミレーラが、大泣き!

 イネスさんもマチルダさんもドワーフ娘衆も何やらこっちをチラチラ見ながらヒソヒソ話してるし……。

 久々にカオスだ……。

「だから、落ち着いて俺の話を聞いてよーーーー!!!」


「何で、ネス様の遣いの方だと言わないのですか? ご無礼をしてしまったではありませんか!」

 ええ、ネスの遣いって事にして何とか説明したんだけど……まだ怒られてます。

 もちろん正座のままです。

「言おうと思ったら、メリルが大声で叫んでみんなを呼んだんだろ!」

「いつまでも、あーだのうーだの口の中でモゴモゴ言ってるトール様が悪いのです!」

 へいへい……どうせ悪いのはいつも俺なんだよ……悪うござんしたっと。

「反省してないみたいですよ、メリル」

 ミルシェちゃん、謎能力で心を読むのはちょっと止めようか!

「そんな事ありません! もちろん反省してます!」

「トールヴァルド様が、黙って浮気してなくて良かったです」

 ちょいと、ミレーラさん。浮気って黙ってするものだからね?

「そうですよね、ミレーラ。女性に手を出すなら、ちゃんと言って欲しいですよね」

「「はいっ!」」

 何故にミルシェちゃんまで声を揃えて返事した!? 

「トールさま、何で私まで返事した? って顔してますね」

 もうこの娘、絶対に心を読むスキル持ってると思う……。

「そんな事、天地神明にかけて思ってません!」

 第一夫人(予定)メリルが代表して、俺に告げた。

「いいですか、トール様。まず私達3人に手を出してください。無論、私が最初です。ミルシェ、ミレーラの順は守ってください。これは、婚約者3人合意の上での決定事項です。その後に気になる女性がいれば、私達に必ずその旨を伝えてください。その女性の背後関係をきちんと調査し、問題が無ければ許可を出します。側室となるのか妾や愛人となるのかは、その時に相談しましょう。ただ、黙って浮気はいけません。どんなハニートラップがあるか分かりませんからね。勿論、私達を十分に愛してくれるのが条件です。それもきちんと平等に。その上で、私達がお相手に納得が出来る浮気であるなら何も言いません。分かりましたか?」

 何だろう、この認識のずれは。浮気は公認なら構わないらしい……しないけど。

「出来れば屋敷の中の者から手を出してくださいね。全員OKですから」

 そうかあ……OKなのかあ……全員かあ……。

「お・へ・ん・じ・は?」

「あ、はい。了解しました」

 

「それでネス様の遣いであるという彼女は……?」

 さすが姫巫女ミレーラ。神の遣いってとこが気になるらしい。

「彼女は妖精女王のナディア。ナディア、羽を見せてあげて」

 そうだった忘れてた! みんな、ナディアが羽を隠してたから人間の女性と思ったんだな。

「はい、マスター」

 その瞬間、七色の美しい揚羽蝶の羽が姿を現した。

「皆様、初めまして。ナディアと申します。よろしくお願いいたします」

 ペコっと頭を下げた白い妖精の姿に、みんな口をぽか~んと開けて見入っていた。


  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る