第88話  秘密の観光ツアーに出発!

 さて、本日はトールヴァルド地区の関係者しか行けない視察と言う名の秘密の観光ツアー。


 皆を馬車に乗せてリゾート地区と住宅街を説明をしながら軽く回った。

 リゾートの画期的な仕組みに驚き、温泉に入りたいと言われたが、まあそれは次の機会に。

 領民なら誰でも格安で治療が受けられる総合病院に、王女とイネスさんはびっくりしてた。

 魔法での治療は王都でもかなり高額なんだそうだ。

 街中の上下水道のインフラの仕組みにも感心していた。下水の行先は秘密だけどね……だってネスの足元だし。

 ネス湖では遊泳地区も見て周ったが、ここはそのうち遊びに来ればいいか。

 遠くでライフセイバーやってる人魚さんが、元気に跳ねてた。


 さて、街の視察と言う名の観光を終えた俺達は、ネス湖の中に立つ鳥居へと向かった。

 鳥居の先には湖の中には、ネス像が静かに佇んでいた。

 水中でほほ笑む神秘的な女神の姿に、王女もイネスさんも言葉が出ないようだった。

 皆に目で促すと、黙ったまま跪き祈りを奉げた。 


 次いで、魔族さんの放牧地で牛や羊と戯れる。

 王城では触れ合う事が出来ない牛や羊、山羊に馬といった動物に、メリル王女は大興奮。

 特に元から父さんの領地で飼っていた、7色の羊さんや恐竜にしか見えないのに大人しいトリケーラは大人気!

 イネスさんも真面目な顔で護衛してる様に見えるが、時折近づく動物をなでなでもふもふしてふにゃっとした顔になってた。

 うむ、女子供は人懐こい動物に弱いよな。まあ偶に苦手な人もいるけど。

 魔族さんの放牧地や家畜の説明を、王女やイネスさんはふんふんと真面目に聞いていた。

 まあ、領地の視察も兼ねてるからね。

 何か不便はないかと聞いて見たが、魔王さんは特に不満はないという。

 その上、妊娠した若い夫婦が居ると聞いて、ちょっと嬉しかった。

 子供なんて安心安定した暮らしが出来なきゃ、そうそう作りたくないもんな。

 

 さてさて、ここまでは一般人でも気軽に観光できる場所。

 ぽくぽくがたごと馬車を走らせ湖を周り込んで森の入り口につくと、木組みの門だけががぽつんと建っていた。

 門の前に馬車を進めて顔を出すと、門番をしている2人のエルフさんがにっこり笑い問を開けてくれる。

 この門から先は、関係者以外立ち入り禁止となる保護地区だ。

 事前に説明をしておいたのだが、シールドに関しては実際見るまで信じられないだろうから、門を通って馬車を止めて、全員でシールドを触りに行った。

 一見すると門だけがぽつんと立ってるように見えるが、見えない壁がずっと続いているのを触って確認した王女は驚き目を見開き、イネスさんは「これがあれば王都も防衛も……」と呟いていた。

 もちろんこのシールドはネスの加護であり、この地にしか無いという事は説明しておいた。国のためにあちこちにシールド創って周るなんて、絶対に嫌だからな。

 そんなこんなで馬車を降りて森を進むと、規格化されたアパートや住宅が整然と並ぶエリアに出る。

 これは、リゾート地区で働く人のための独身寮や社宅だ。

 お仕事が休みの人が俺を見つけると、手を振って挨拶してくれる。

 もちろん俺だって手を振り返す。領民に愛される領主を目指してるから当然だぜ。

 にこやかに談笑をしながら住宅街の中程まで歩くと、バス停が見えてくる。

 俺とサラを除く3人は、この不思議な立て札に首を捻っていたが、やがて走って来た巨大な虎に腰をぬかした! イネスさん、虎を敵と思ったか剣を抜いちゃったよ!

「これはネス様の使いの虎ですから、心配いりませんよ」

 落ち着かせるのに結構苦労した。サプライズ失敗だった……。

 虎の側面がうにゅ~んと開くと、中からエルフ、ドワーフ、人魚さんがおりて来て、積んであった魚介類やその他の物資を手分けして降ろしていく。

 3台連なる連結式荷馬車もやってきてそれらを積みこんだら、街に向かって搬送される。街に行く人はこの時に一緒に乗って行く。

 メリル王女は、慣れた手さばきでてきぱきと働く異種族を、特に真剣な目つきで見つめていた。

「さあ、虎バスに乗ろうか!」

 俺が先頭に立って虎バスに乗り込むと、おっかなびっくり皆は後に続いた。

 ふかふかの毛並みの内装にちょっと嬉しそうな女性陣。

 この虎バスは行先は常に一定、エルフの村~ドワーフの村~海~街のコースをぐるぐる周ってる。

 次は~エルフの村~エルフの村~!

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