第85話 親子ですね
うちの家は母さんが一番強い。
英雄だった父さんでも逆らう事は即ち死を意味する。
ああ……俺は明日と言う日を迎える事が出来るのだろうか……。
って事で、見事に捕縛された俺は、居間で正座をしている。
誰か説明をして欲しい。何で捕まったのか、何で正座させられているのか……。
母さんを中心に、右にコルネちゃんとサラ、左にメリル王女とミルシェちゃん、そして俺の後ろにメイドさん4人とセリスさん。
つまり俺が逃げ出さない様に、完全に包囲してるって訳だね。
「さあ、トールちゃん。まだお母さんに隠している事があるでしょう?」
何をだよ……サラがナビだって事か?前世が✖1だって事か? ま……まさか、こっそり父さんから貰ったあの本の事か!?
「え、いやあ……隠している事と言われましても……」
「もうお母さんは、メリルちゃんから全部聞いているんですからね?」
殿下、あんた母さんに何を言ったんだよ?
「え~私としましては、身に覚えがある様でない様な、隠し事と言われましても青天の霹靂と申しますか、一体何の事を仰っておられるのやら、とんと記憶にございません。はっ! もしや記憶に何らかの欠落があるのかも! あなたはどなたですか?」
ピキッ! って母さんのこめかみに血管が浮いた気がす……。
「へ~、トールちゃん。あなたお母さんの顔を忘れちゃったの。へ~、ふ~ん、ほ~、そうなのね~」
やばい!なんか背景が不気味な……まるで黒魔術を使う魔女・黒○ミサがエコ○コアザラク エ〇エコザメラクって呪文唱えた時みたいなおどろおどろしい何かが立ち上がっていく……!
『大河さん、よくそんなネタ考えてる余裕ありますね? 死にたいんですか?』
だって何の事だか分からんもん! 隠し事って何の事だよ!
『多分、真アーテリオス神聖国の姫巫女の事だと思いますよ。まだ直接言ってないでしょう?』
んが! そんな事か! あ、いやそんな事では無いな……。
「えっと、母さん冗談だよ冗談。真アーテリオス神聖国の姫巫女の件でしょう?」
サラのヒントに従って、ストレートに言ってみた。
「あらトールちゃん、記憶が戻ったのね。お母さん嬉しいわ。それでその姫巫女という方の事を聞いても良いかしら」
あ、合ってたか……さすがナビだな。たまにはいい仕事する!
授業中にうたた寝してて「はい大河君、続き読んで」って教師に当てられた時に、今みたいなナビが欲しかった。
「ああ、うん。実は僕も父さんも良く知らないんだ。出来れば断りたいんだけど、父さんによると国際問題に発展しそうだから婚約を受けないと駄目とか。両国の良好な交流の保障の為って言ってたから、多分人質みたいな感じなんだと思う」
なぜかミルシェちゃんとメリル王女とコルネちゃんも、母さんと揃ってうんうん頷いている。
「なるほど、背景に込み入った事情があるのは分かりました。それで姫巫女っという方は、どんな方なのですか?」
「見た事も話したことも、一切ございません!」
めっちゃ全員が疑いの眼……って、サラは知ってるだろ!
「トールちゃんは、本当は真アーテリオス神聖国との国境での諍いの時に会ったんじゃないの?」
「いや、全然そんな事無いから! だってあの国のトップが首刎ねられた直後だよ? そんな事ある訳ないじゃん! 陛下とあの国の代表の会談の時の話らしいから!」
なんか出張先で浮気した男みたいな扱いに似てる気がするのは、俺の気のせいじゃないはずだ。
「俺は本当に知らなかったんだって! 父さんに確認して!」
メリル王女とコルネちゃんの目が、全然信じてくれてない気がす……。
馬車の中で問い詰めてくれたら良かったのに、何故に今この危険地帯で?
『そりゃ味方を山盛り付けてから問い詰めた方が効果的だからでしょう』
な……んだと!? これも計算なのか!?
「あらそう? 誰か、ヴァルナルをここに連れて来て」
あ……帰り道の御者をしてくれたメリル王女付のメイド兼護衛騎士さんと父さんお気に入りの巨乳メイドさんの2人が走って行った……。
「それで、トールちゃんの本心は? まさか俺ってモテモテ! ハーレム最高! 酒池肉林! 男のロマンだぜ! とか思ってる?」
母さん、どこでそんな言葉を覚えたの!? さては、サラの仕業だな?
「滅相もございません! そんな度胸も甲斐性もございません!」
「それじゃ何で黙ってたのかしら?」
「これには両国間の高度な政治上の駆け引きが……」
そう俺が言った時、父さんが引きずられてやって来た……あのメイド兼護衛騎士さん、すげえな! 一応、父さんって英雄なんだけど……。
もちろん何も言われなくとも、父さん自ら即座に正座。
「あなた、何で隠れてたのかしら? 隠している事を全部話しなさい」
「隠れたわけでは……仕事が滞っているんじゃないかと。そもそも呼ばれた心当たりが俺としては、身に覚えがある様でない様な、隠している事と言われましても青天の霹靂と言うか、一体何の事を言っておられるのやら、全く記憶に残って無い様な。はっ! もしや記憶に何らかの欠落があるのかも! あなたはどちら様ですか?」
ピキッピキッピキッピキッ! って母さんのこめかみに血管が浮きまくった!
「……父さん、それはもうやった」「……マジか!?」
ぼそぼそと父さんと話してると、
「良い度胸ね、あなた。私を忘れたというのね? では思い出すまで、拳で身体に訊いてみようかしら?」
「あははは。ウルリーカ、冗談だよ冗談……」
「……父さん、それもやった」「……マジか!?」
母さんのオーラがもはや可視化して揺らめき、噴火直前の様な背景も見える!
「「ごめんなさい! もうしません!」」
『誤魔化し方が、完全に親子ですね』
……。
説教は2時間ほど続きました。
何とか説明も聞いてくれて納得してもらえ、浮気男(?)みたいな疑惑はどうにか晴れて解放してもらえた。
いや、言い忘れてただけで死の恐怖とか、洒落にならん。
どこにどんな地雷があるかわからんから、今後は踏まない様に注意しないと。
それにしても、本当に女って怖い……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます