第84話  確保ー!

 結局、父さんとの散策は、俺の婚約の噂話が広がり盛り上がってる所に、酒の肴を噂の本人が提供しに行った様なもんだった。

 もうね、どこに行ってもおめでとうコールが降り注いで居心地が悪すぎる。

 さっさと自分の家に帰ろう……そうしよう。


 あのカオスな父さんの屋敷に帰るのは嫌だけど、戻らないとサラもミルシェちゃんも来ちゃってるからな……あと王女様も。

 3人連れて、とっとと帰る! と心に誓った俺は、父さんの屋敷に足を向けた。

 帰りの道中、父さんから、

「トールヴァルド、ここまで話が広まったら、大々的に婚約お披露目会でもしない事には収まらんと思うぞ?」

 父さんの言いたい事も分かるが、お披露目会ってなんだよ。

 だけど、街に出る度に噂の真相を確認しに来られても困るし……はあ、面倒臭い。

「でも、王都よりも先に発表とか、まずくない? 陛下がするって言ってたじゃん」

 取りあえず、今の所はお披露目会を回避しておこう。

「う~む、確かにそうだな。婚約したとだけ発表するか」

「まあ、その程度なら……」

 妥協点はそんなとこか……面倒事を先送りしただけとも言うが。

「それに、3人目の姫巫女の名前もまだわかってないしな!」

 ああ……忘れたかったよ、姫巫女の話。

「断れないのかなあ……姫巫女」

 出来るものなら断りたいんだけど。

「無理だな。王都では国家間の友好の象徴として発表されると思うぞ。断れば友好関係そのものが民に疑われる可能性もある」

 なるほど、父さんただの脳筋じゃなかったんだな。そんな裏まで読めるとは…意外と出来る脳筋か。

「でもさ、それって人質みたいなもんじゃん。会った事も話した事もない人と婚約とか……」

「お前、そもそも王女様とも話したことは無かっただろ?」

 それはそうだけど。

「一応、王女様は俺の事を見た事あったらしいから、まだいいよ。最近ちょっとヤンデレ気味だけど、ミルシェちゃんは生まれてからずっと一緒だし。でも姫巫女ってお互い全く知らない人だよ? 姫巫女が可哀想じゃん」

 俺はそこまで鬼畜じゃねえ! ハーレム願望だって持ってないんだから!

 大体、そんな人と結婚したって上手くいく気がしない。

 ああ、前世の嫁との離婚を思い出す…。

「まあ、そうだな。離縁など出来るはずも無いし、夫婦仲が悪いと外聞も悪い。下手すると国際問題だからな。で、ヤンデレってどういう意味だ?」

「そこはスルーして……」

 はあ、どうしよ。

「父さん……僕、胃が痛くなってきた……」

「奇遇だな、トール。父さんは頭が痛くなってきたぞ……」


 地雷みたいな女を押し付けるなんて、真アーテリオス神聖国に神罰くだしてやろうかな。

 なんでラノベの主人公はハーレムとか簡単に受け入れられるんだよ……。

 お前らただのスケベだろ! この変態が!

 人質で差し出される女の子に、どんな風に接したらいいってんだよ。

『大河さん大河さん。私も人質みたいなもんです! 私の身体を鬼畜に弄んで欲望のまま貪っても大丈夫ですよ!』

 いや、お笑いネタ係のお前はいらん。

『なんで!?』

 俺は人の下着を味わうような変態は嫌いなんだよ!

『おーぼ-だー! 性癖差別だー! 貧乳にも人権をー!』

 意味わかんね。勝手に言ってろ。


 ▲


 父さんの屋敷に着いた俺達は、取りあえず居間の様子をこっそり窺ってみた。

 あれ? やけに静かだな……落ち着いた?

 そっと居間の扉を開けると、女性陣全員が揃って一斉にこっちを見た。

 それはもう、バッ! って音がするぐらいの勢いで!

 あんたら怖いよ! 今ので寿命確実に縮んだよ! 5年ぐらい!

 そして女性陣は無言で、じ~~~っと俺を見つめ続ける。

 ふと背後に居るはずの父さんに顔を向けると……居なかった。

 逃げやがったな、親父!


「トールちゃん、そんなとこに居ないで中に入ってらっしゃいな」

 母さん笑顔だけど、なんか目が笑ってないんですけど……。

 いや、中の女性陣の目が何か怖いんですけど?

「いや、あの、えっと……みなさんお忙しそうなので、僕は失礼しようかなと……では」

 そっと後退して扉を閉めようとすると、

「総員、確保ー!」

 母さんの鋭い声が響いた!

「「「「わーーーーーーーーー!!!」」」」

 王女様にミルシェちゃん、コルネちゃんにサラにメイドさん達が、一斉に俺に向かって突進してきた! バイ○ハザードでこんなシーンあったぞ!

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 何か知らんが逃げろ! 捕まったらやばい気がする! 色々とやばい気がする!

 俺は廊下を全力でダッシュした! もう前世でも今世でも、記憶にないぐらいの恐怖が追いかけて来る! やばい、何か知らんがやばい!

「ブレちゃん、クイーンちゃん、捕まえて!」

 コルネちゃん、あんた何てモノを召喚するんだ!

 あ、コラ! ブレンダーもクイーンも何で追いかけて来るんだよ! 俺を逃がせよ! ブレンダー! お前、何で前に回り込んだ! え? 女性陣に逆らったら何されるかわからない? 毛を抜かれる? クイーン!お前なら、大丈夫だよな! 俺を逃がせ! え? 私も怖い? 大人しく刺されてください? 嘘だろ! お前達は俺に絶対服従のはずだろ! え? 世紀末の覇者に逆らってはいけない? 痛いのは最初だけ? 意味わかんねーよ! この裏切者ーーー!

 廊下は1本道。前門の狼、後門の蜂……もう逃げれない。

「トールヴァルドさま、もう逃がしません!」

「と……トール様、お願いですから、お義母様の所まで戻りましょう……」

「お兄ちゃん、逃がさないからね!」

 ミルシェちゃん、王女さま、コルネちゃん……一体、俺が何したって言うんだよぉぉぉ!!!

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