第63話  ネス様のお出まし

 って事で、魔族の皆さんと無事にお会いする事が出来ました。

 いや~よかったよかった。

 それにしても……彼らの後ろに居る家畜すげえ数だな! 一面、馬、牛、羊だぞ!


「え~魔族のみなさん、改めてアルテアン領にようこそ。皆さまの事は、水と生命の女神ネス様より天啓を拝しておりましたので、誠に勝手ながら定住の地をご用意させて頂きました。今からご案内いたしましょう」

 女神から天啓を直接受けたってのに驚いてるみたいだな。

 めっちゃ、ざわついてる。

『水と生命の女神さまある? ネス様とよべばいいある? あなーた使徒様あるか?』

「いえいえ。そうではありませんが女神様より、この地を任された者です。ささ、ご案内しますので、私について来て下さい」

 あんまり話すとボロが出そうなんで、さっさと案内しちゃおう。

 ざわざわが収まらないけど、大人しく後について来てくれるようだ。

 何だろうなあ、この世界の人って警戒心薄いんだよねえ。

 詐欺とかにすぐ引っかかりそう。

 まあ、俺もすでに天啓とか言って騙してるわけだけど……嘘も方便って事で許してね。


 ぞろぞろと特盛の家畜を引き連れて、昨日完成した放牧地まで到着した。

 サッカーグラウンド2面ぐらいの大きさにしたのに、牛・豚・羊がハンパ無い数いるな。

 小さい様なら広げたらいいんだけど、勾配あっても大丈夫かな?

 あんまり街の予定地近くまでは広げたくないなあ。

 

『領主さん領主さん、ちょとこち来るあるね!』

 ん、呼んだ?

『ここ、全部わたーし達でつかていいあるか?』

「ええ、まだ家も畜舎も柵すらもありませんが、使って下さい。ご自分たちで建てる事が出来る様でしたら、あちらの資材は自由に使っていただいて結構ですから」

 山になった木材を指さしながら言うと、魔族の長は恐縮したように、

『あいやー! あんなに木材用意してくれたあるか! 申し訳ないある』

「気にしないでください。女神様からの天啓に従い、この一帯を開拓した時に出た物です。お好きに使ってください。それと皆さんさえ良ければ、女神様の元までご案内したいのですが」

 魔族さんがごにょごにょ車座で相談をすると、代表として魔王様が俺に、

『女神様に目通りする5人行くある。是非、お願いするあるね』

 まあ家畜の面倒も見なきゃいけないもんな。

 代表者の5人を連れて、俺の邸宅近くまで連れていくことにした。

 これで領地の案内の全てが1回で終わるんだから簡単だし、彼らも放牧地と住居が出来上がれば何時でも女神像を見に来ることが出来るんだから、ひとまず代表者だけでも十分か。


 俺の領主邸近くの湖畔まで彼らを案内すると、その邸宅の美しさに感動しているようだ。

 5人とも口から魂を抜かれたような顔をしていた。

 ここに来た目的はそれじゃ無いだろうと思いつつ、メインイベントであるネスを呼びだす。

 もちろん心の中で命ずるだけで、ネスには伝わるのだ! 超便利!

「みなさん、跪いてください。ネス様がお出ましになられます」

 そう言って俺も湖に向けて跪くと、あたふたと5人が同じように跪いた。

 やがて、ごごごごごごご……と湖面が盛り上がり、ネスの上半身が姿を現した。

『魔族の者達よ、よくこの地に参った。そこなトールヴァルドは我が眷属なり。彼に従い、この地で生きてゆくが良い。さすればその方達にも我が加護を授けよう』

 昨日の内に、ネスに記憶させた言葉を言わせただけなんだけど、効果絶大!

『『『『『ははー!』』』』』 

 魔族の言葉を聞いたタイミングで、ネスには湖底にお戻りいただく。

 ずずずずずずず……湖に戻ってゆくネスを静かに見送った魔族は、感動して全員涙を流していた。

 完全に信じたね。ちとやりすぎたかな?

『領主さん、私たち出来る事なんでもいて欲しいある! あなたに忠誠誓うある!』

 魔王様が涙ながらに訴えてきた……うん、やっぱやりすぎたかも。


 今まで彼らは独自の神様を信仰してきたらしい。

 だが神に直接言葉をかけて貰った事など無く、ネスの言葉に甚く感動したらしい。

 元々崇めていたのは、たまたまこの星の本当の神様だったけど、宗旨替えしそうな勢いだったのでそれは止めた。

「あなた達が崇め奉っていた神様がこの地に導いてくれたのです。その神様を蔑ろにする事は許しません。今まで通り大切にしてください。そして新たにネスも崇敬するのです」と、説いてみた。

 俺はネスの使徒であり、俺の言葉はネスの言葉であると、素直に従ってくれた。

 この星の神様(転生局職員)に恨まれたくなかったから、ほっとしたよ。


 放牧地に戻った興奮冷めやらぬ魔王様達は、留守番していた魔族たちにネスの言葉を一言一句漏らさず伝えると、みんなの俺を見る目が変わっちゃった。

 すると、なぜか全員ターバンを外してゆく。

 皆の髪色は違うけど、なぜか頭の横……ちょうど耳の上あたりに、小さな羊っぽい巻き角がある。

 家族や親しい相手、そして忠誠を誓った相手にしか角を見せないんだそうだ。

 いや家族や親しい相手ならいいが、忠誠まではいりません。

 皆は僕の庇護すべき領民となるのだから、他の領民とも仲良くしてくれるだけでいいから、必要以上に畏まらないで欲しいと伝えた。

 その言葉にまた感動しちゃって収拾がつかなくなりそうだったので、資材を用いてまずは住居や畜舎など必要な物を作って欲しいと告げると、めっちゃやる気になっていた。

 もしも狭かったら、もっと広げる事も出来るからと伝える事も忘れない。

 俺は用事があるから少しこの地を離れるが、また様子を見に来るからと伝えて、家族の元に帰宅することにした。

 ちょっとやりすぎたかもしれん……これじゃ洗脳だよ。 

 あんまり長居するとボロが出ちゃうから、トンネル工事の現場の様子を見に行こうっと。


『とうとう魔王まで配下に……大河さん、大魔王ですね!』

 違うから!

『くしゃみしたら、壺から飛び出してきたり?』

 そりゃ、はくし〇ん大魔王だ!

『まあ……大河さんはどっちかというと、カン〇ゃんですもんね』

 言っとくが、俺はデベソじゃねーからな! 

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