第58話  魔族軍?

 魔族と魔王……それは人間や神に敵対する悪意と強大な武力を持つ邪悪にして恐怖の象徴。

 だがこの王国では有史以来その存在は、全くどこにも欠片も確認されていない。

 ってか、歴史書にも載ってなかった。

 そんな魔族軍と魔王が俺の領地に向かってるだと!?

 まさか……あの女神像を創ったからか?

 それとも俺が神の使途とか勇者と思われて討ち取りに来たのか?

 人類に……いやこの俺に喧嘩売るとは、良い度胸してるじゃねーか!


 サラ、魔族軍の数は!?

『軍? え~60名ほどです』

 あれ? 思ったよりも少ないな。

 って事は魔物を引き連れてるとか?

『ええ、かなりの数ですね。全部合わせると約500匹ぐらいでしょうか』

 くっ……その数はあのダンジョンからのスタンピードの時よりちょっと多いぐらいか。

 あの時は草原だったから炎の魔法で焼けたが、今度は森の中……下手に炎を使うと森林火災になる。

『彼らを焼く気ですか?』

 いや、別の方法で殲滅するぞ! 風・土・水の精霊さんにお願いして……。

『本当に彼らを殲滅する気ですか?』

 当たり前だろ! 人類の敵に情けは無用!

 まぶし〇空を、輝く海を、渡せ〇もんか悪魔の手には!

 皆の願い身体に受けて、さあ甦れライデ〇ーン、ライ〇ィーン!

『え~御一人で盛り上がっている所、誠に恐縮ですが……』

 なんだよ! いいとこなんだよ!

『彼らは悪魔ではありませんよ?』

 知ってるよ! 魔族と魔王なんだろ!?

『ええ、そうですが……率いている魔物は、牛と豚と羊と馬と鶏などですよ?』

 凶悪な魔物なんだろ!?

『主に牛はお乳とお肉、豚もお肉、羊は羊毛もとれますね。馬は移動の足としてでしょうか。あと卵と鶏肉少々と。凶悪かどうかは知りませんが、美味しいのは確かです』

 ん?

『え~彼らは罪もない移動型遊牧民族ですけど、本当に殲滅するんですか?』

 まてまてまて、魔族と魔王なんだろ?

『ええ、この星の一部では魔法を使う民族を魔族と呼びます。その一族の長を魔族の王、略して魔王と』

 は? 邪悪な存在は?

『いませんよ、そんなの。この星の神からこの湖の畔を彼らの定住先として斡旋してもいいかと相談されたので許可したのです。だいたい邪悪な存在が来るなら、ぴんぽんぱんぽ~ん! なんて悠長にしてません。アホですか?』

 え……だって、ラノベの定番……チート無双……転生者の使命……。

『だから転生の時に使命は無いって言われませんでしたか? もし使命と言えるものがあるのでしたら、エネルギーの垂れ流しだけです! 魔族と大河さんが戦ったら、彼ら瞬殺です。罪もない彼らをジェノサイドしたいのですか?』

 まさか! 滅相もございません!

『この湖の畔に彼らのために放牧地を造って手厚く保護してあげれば、領民として定着します。彼らの元いた土地は水源が枯れてしまったそうなので。それに治癒魔法の使い手を探してたんじゃないんですか? 彼らの中に数名いますよ?』

 なんと! それは貴重な!

『この星の神から打診を受けた時に、これはこの領地の利になると思って許可したのに、いきなり殲滅とか私の顔に泥を塗る気ですか!』

 この領地の利……確かに。

『神と相談した結果、神が彼らの占星術に干渉してこの地へ来るように仕向けたのです』

 うっわー! マジでごめんなさい。

『言葉だけでは許しません! 具体的な謝罪は身体で払ってもらいます!』

 それだけは断固拒否する!

『チッ!』

 そっかあ、ちゃんとこの領地の事を考えてくれてるんだな。

 悪かったなサラ。ありがとう。

『言葉だけでは足りません! 具体的な感謝は身体で払ってもらいます!』

 うん、断固拒否ね。

『チッ!』

 

 そうか、それなら明日にでも父さんと相談して放牧地を造るとしますかね。

 一気に領民が60人も増えるなんて、幸先いいな。

『私の功績ですけどね!』

 ああ、感謝してるよ。

 だから一番広い部屋をサラのために提供しよう!

『3階のあの部屋……「地下シェルターね」……いやーーーーー!!!!』

 まあ、それは嘘だけどさ。

 こりゃ明日も忙しくなるみたいだから、今日はもう寝よう。

 本当にありがとう。サラ、感謝してるよ、おやすみ。

『大河さんがデレた!』

 デレてねーよ、駄メイド!

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