第23話  実演!

 なんかね、謁見の間に集まった方々から物言いがついたよ。

 あんな子供が魔法を使うなどと信じられないってさ。

 スタンピードを防いだなどという報告は出鱈目だ! とかさ。

 なので実演して見せろと……はいはい。


 謁見の間に居た方々は、全員練兵場に移動した。

 全員って……あんたら暇人だねえ。

 まあ、みんな観覧席っつーの? 席に着いて邪魔しなけりゃいいよ。

 んでこのクソ広い練兵場で何見せりゃいいんだ?

 サッカーコートが3~4個は取れるぞ?

 ここ城の中だよな……?

 あ、城の横にあるんですね、失礼しました。

 おぉ! あの真ん中の豪華な席に座ってるのが国王様?

 王冠や豪華なマントで良くわからないけど……父さんと同級か?

 お前、何小よ? あぁ!? とかは、この世界無いんだろうな。

 う~ん遠くて良く見えないけど、髭も無いから威厳もないなあ。

 金髪は分かるんだが……父さんの方が男前な気がする(身びいき)。 

 

 ぼ~っと観覧席を見てたら、兵士さん? が来た。

 何々……魔物を倒した力が見たいから、模擬試合する?

 父さんも一緒にやるの? あ、父さんは陛下に解説する係ね。

 はいはい、了解っと。

 んで相手はどなたですか~? あれが相手? ゴリラじゃね? 2m以上あるぞ!

 オークなのか!? ……ほう、近衛騎士団の副団長様でしたか、失礼。

 めっちゃごついフルプレートアーマーにデカい盾と長い槍持ってるな。

 俺、5歳なんだけど!! 何で本気装備なんだよ!!

 お前、俺を殺す(やる)気まんまんだろ!!

 ハイ、質問質問! 国王陛下! 魔法は使っていいですか?

 構わない? 殺さなきゃ何でもあり? でも武技が見たいから最初は剣を使えと。

 魔法の鎧と武器がなけりゃ戦えませんが? え……それはOK?

 へ~へ~、了解しましたよ。

 あ……審判みたいなおっさん出てきた。

 準備は良いかって? 良いわけないだろ!

 俺は素手だぞ! 素手であんな本気フル装備のゴリラに子供が勝てるか!


 ちょっと待て……準備する。

「メタルガード……へ・ん・し・ん……トゥ!」

 メタルガードの変身プロセスは、わずか0.05秒間で完了する。

 ふっ……俺の脳内ナレーションは今日も絶好調だぜ!

 そして俺の夢が詰まった武器だ!

「エネルギー……ブレード」

 青く輝くこの剣を見よ!

 さあいつでもいいぞ、審判合図しろ!


 あ、観覧席がめっちゃざわついてる……。


 鎧ゴリラと向かい合った俺は、軽く礼をすると開始線で合図を待った。

 審判役が手を上げ開始の合図をした。

「始め!」

 

 開始早々、ゴリラが猛ダッシュしてきた。

 ふむ、ダッシュ力はあるが、その重い鎧で左手に超重量級の盾を構え右手に槍持ってって、そりゃ走りにくいだろうな。

 足運びがめっちゃドタバタしてるぞ。

 お前には運歩法という、足運びの基礎を教えてやらにゃいかんな。

 父さんはフルプレート着てダッシュしてても、きちんと出来てたぞ。

 それじゃ重心がブレブレで、体重がどっちの足に乗ってるか丸分かりだぞ。

 俺は一瞬身をかがめると、盾を目指して突進。

 盾が目の前に迫ったら、素早く右にステップしてゴリラの後ろに回り込む。

 ゴリラが目標(俺)を見失ったみたいでキョロキョロ棒立ちになってる所に、必殺の膝カックン! 回し蹴りの要領だぜ!

 ちなみに膝カックンは、実はかなり危険。

 体重の乗った足の膝裏をカックンするから、勢いついて全体重  + 重力 + 加速した膝が舗装なんかに当たるとマジで骨折するから、良い子は絶対にマネしちゃだめだぞ。

 あ……ゴリラ土下座みたいになった。

 しかも膝おさえてるよ……ありゃ膝やっちゃったな。

 うっわー! フルフェイスのヘルムだけどめちゃ怒ってるっぽ。ぷっ!

 今度はすり足でにじり寄ってきた。

 足運びを学んだんじゃなく、単に膝が痛くて足をあげれないんだろ。ぷっ!

 ならば正攻法&必殺技で行くまでよ。

 突き出して来た槍を紙一重でかわし、槍を引き戻す時に一緒にゴリラの懐まで一瞬で近づき、

「メタルガード・クラッシュ(ちょい斜めバージョン)!」

 盾と槍を両方とも一刀両断にしてやった……あ! 勢い余ってゴリラの腕と胴の鎧も切れちゃった!

 あああああああ血が噴き出た! めっちゃ出てる出てる!!

 誰か誰か! 救急車呼んで! 早く早く!!


 審判がめっちゃ慌てて救護班呼んできた。

 あ、治療の魔法あるのね。それって何属性の魔法ですか?

 え……忙しいから後にしろって?

 はい、ごめんなさい。後で教えてね。

 ゴリラの出血はすぐに止まった。

 ふらついてはいるけど、もう歩いてるよ……魔法ってすげえ!

 あらゴリラさんがこっちに来る。

 

 ヘルムとった顔は意外と……やっぱりゴリラでした……カイゼル髭付きの。

「正直に言えば、こんな子供が魔物の大軍を退治したなど法螺だと思っていた。だが我身でそれが真実であったと理解した。これからは互いに国のためにその力を振るおうじゃないか!」

 なんかヒゲゴリラってば、良い人かも。

 ニカッって笑ってグローブみたいな手で握手求められちゃったよ。

 俺も手を出して互いの健闘をたたえ合う……って、力入れすぎだろ!

 お前、俺の手を握り潰すつもりだな?

 やっぱ怒ってるだろ!?

 そっちがその気なら遠慮はせんぞ! 強化された握力を思いしれ!

 俺の小さな手の中で、ミシッ!ゴキョ! って嫌な音がした瞬間に、また崩れ落ちたヒゲゴリラ。

 馬鹿め! 自業自得だ!

 

 んで、治療の魔法って何属性なの?


 しかしゴリラあっけなかったなあ。

 父さんの方が、多分……かなり……天と地ほどの差で強いと思うぞ?

 レベルとラベルぐらいは違うはず。

 ん……陛下が呼んでるって? ハイハイ行きます。


「見事だトールヴァルドよ。その鎧と剣も魔法なのだな?」

「はい。陛下のおっしゃる通り、この鎧と剣は魔法で出来ております」

「うむ……では次に、魔物を焼いたという魔法を見せてもらえるか?」

「御意に」

 

 え~危ないんで兵士や騎士の皆さん下がってください。

 もちょっと……もうちょい……はい、その辺で結構です。 


 んでは、王城にいる精霊さ~ん! ご飯ですよ~!

 ほっほ~! これまたいっぱいいますなあ。

 出来れば火の精霊さんには、ちょいと力を貸して欲しいんですけど。

 あ、精霊さんネットワークで聞いてるのね。

 うん……あの炎の壁を派手にやりたいんだけど、大丈夫?

 OKなのね……んじゃ任せます。

 いきますよ~!

「ムービング フレイム ウォール!」

 うぉ! びびった!スタンピードの時よりデカい炎の壁だな!

 え? 負けたくない? 誰に? あ……うちの村の精霊さんにね。


 ま、まあ……良いです。

 やりすぎでも無問題。

 俺に手を出せばどうなるかって、貴族連中が思い知ればそれでいい。

 俺は田舎でのんびり幸せな家庭を築くんだ!

 まあ、こうなっちまったら、いくらか王都で奉公しなきゃならんだろうがな。


 良い感じの炎の壁ですよ~精霊さん。

 さあ! んじゃだんだん動いて中央辺りに集まってね。

 ハイ、1・2、1・2、みんな足並みそろえて~!1・2、1・2……

 なんか運動会の先生みたいだな、俺。

 背後で観覧席がめっちゃどよめいてるけど、今からがフィナーレだぜ!

 中央に集まった炎の壁は、渦巻いて空高くまで伸びていった。

 そして竜巻となった炎の壁は、フッっと瞬時に消え去る。

 この一瞬にして元に戻るのって、気持ちいい!

 

 これで陛下も満足できたかな?

 振りかえって観覧席を見ると、全員が口を開けて固まってた。

 いや……小学校の歯科検診じゃないんだから……口は閉じなさいよ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る