第18話  開戦!

 父さんと最前線で遊んでる(?)と、遠くに見えるダンジョンと思われる塔から嫌な気配が漂ってきた。

 どう表現したらいいのだろう……とにかく不快。

 父さんもその雰囲気を察したのか、真剣な顔で塔を睨んでいた。


「来るな……トールヴァルド、本当にやるんだな?」

 父さんからの最終確認だが、答えは当然一択だ。

「もちろん! 僕たちの村は僕たちで守ろう!」

 父さんが男前にニヤッと笑った。

「トールヴァルドは初めてだな……父さんの剣を見せてやる」

 おお! 格好いいぜ父さん! 英雄って言われた剣を見せてもらえるのか!

「楽しみにしてるよ、お父さん。僕とブレンダーの力も初公開だから見ててね」

 父さんも俺を見てほほ笑んだ。

 よーし、漲ってきたー! 愛の〜目覚め〜! ……目覚めてないけど。

 魔物だか魔獣だか知らんが、この俺の大切な物に手を出す気なら遠慮はしない!

「駆逐してやる!! この世から……一匹……残らず!!」

 ふと漏れた俺の言葉に、

「ああ、駆逐するぞ!」

 父さんも応えてくれたが……ごめん、単なるネタなんだよ。


 ザザザ……ボギボギ……ガサガサ……ゾゾゾゾゾゾゾゾゾ……

 やがて森の奥から木々を掻き分けて大量の何かが近づく音が聞こえてきた。

 俺と父さんの緊張MAX!

「お父さん、防壁を出すよ」

「ああ、頼む!」

 短いやり取りだが、父さんは俺を信じてくれてると感じた。

 嬉しかった。

 前世では信じられる事って、あんまり無かったよなあ。

 道場でも仕事でも結婚生活でも……なんか暗くなってきた。

『クーン……』

 そんな俺の心情を感じたんだろうか、ブレンダーが近寄って来た。

 慰めてくれてるのか? ありがとう。

 大丈夫、俺は今ここにいる。

 父さんと母さんにミルシェちゃんにブレンダーに精霊さん、みんな信じてくれてる……はず。

 だからやれるさ! 行くぞ精霊さん!


「残りの全防壁も一斉展開!」

 ズゴゴゴゴゴ!!!

 草原に立ち上がる防壁群が村と森を分断する。

 見える範囲で村を全てカバー出来てる……はず。


 父さんも驚いてはいる様だが、事ここに到ってはもう何も言わない。

 目的のために手段は選んでいられない。

 もちろん目的は村の防衛と敵の殲滅、手段は魔法もチートも英雄の剣技も何でもありって事だ。

 俺と父さんは、防壁を背に森を睨み剣を構えた。

 ブレンダーも大きな体躯をぐっと縮めて、いつでも飛び出せるように構えている。

 

 森から飛び出して来たのは、ファンタジー物でおなじみのゴブリン。

 ゴブリンだよな?

 俺よりちょっと高い身長だが、やたらとでかい手の平と足。

 腰布だけのみすぼらしい格好で、手に持ってるのは棍棒か?

 まさか某勇者最初の装備、伝説のヒノキの棒じゃねーだろーな?

 数は……ん~沢山だなあ。ざっと数百はいるか。


「行くぞ! トールヴァルド!」

「はい、お父さん! ブレンダー行け!」

『グルルルルル……グオォォン!!!』


 僕たちはゴブリンの群れに飛び込んだ。

 俺が右、父さんが左よりの中央で、ブレンダーが左を受け持つ。

 ちゃんとポジションは相談してたんだ。

 なんせ殲滅力で言えば、俺の魔法が一番だろうからな。

 一番広範囲を任せてもらったんだ。

 もちろん無理やりな。

 

 さあ来い! 最初は雑魚ってのが、ファンタジー物の王道で定番なんだよ!

 こいつらに時間なんて掛けてられるか!

 精霊さん準備いいかなー? 行っくぞー!

 ゴブリンの群れの右端から中央まで、見える範囲で一気に焼き払う! 

「ムービング フレイム ウォール!」

 イメージは、敵を取り囲み焼き尽くす動く炎の壁。

 いきなり現れた炎の壁がゴブリンを取り囲み、その輪を徐々に縮めていく。

 慌てて右往左往するゴブリンにもう逃げ場はない。 

 火の精霊さんの数が思ったよりも少なかったので、草原全てを焼くのは無理だったけど、俺の担当範囲のゴブ達は全て囲めたぞ!

 これで2/3は、こんがり焼けただろう。

 しかも炎が消えない限り、追加の敵は出て来れまい。

 今の内に父さんとブレンダーの様子を見てみよう。


 父さんは……ありゃ鬼だな。

 父さんが持ってるのは片手剣と盾だけど……すごいスピードで、剣で切り裂き盾で殴って殺してる。

 すげえ! さすが戦争の英雄だ! 一匹たりとも通してない。

 血と内臓とが飛び散りまくってるよ!完璧スプラッターだが……嫌いじゃない。

 しっかし、チートも無いのになんであんなに動けるんだ?

 あ! こっち見て……ウィンク……だと! 父さん、余裕だな。

 ウ〇ンクしてる everynight~♪ って、これやばいかな……。 

 どうでもいいけど、父さんの能力に比べたら、俺のチート……情けなくね?

 

 ブレンダーは……ああ、見る必要もなかった。

 走り回るだけで、ゴブリンがズタズタになってる。

 そりゃそうだよね。

 あの水晶のような角や刃は、そのものが武器にもなるけど、実は俺のエネルギーが詰まってる電池みたいな物。

 そして精霊さんは、あの水晶のエネルギーを吸うことが出来るんで、張り切って勝手に魔法を連発してくれてる。

 主に風と土と水の精霊さんが協力してるんだ。

 土の精霊さんの土の弾丸と、水の精霊さんの氷の弾丸を、風の精霊さんが撃ち出してゴブリンを駆逐中。

 戦闘力が一番高いの、ブレンダーじゃねえのか?

 

 なんかあっちの精霊さん好き勝手にやって楽しそうだな……。

 え? 火の精霊さんもあっちでやりたい?

 俺に銃を撃たせろ? ……どこでそんなネタを。

 そんなこと言わず、こっち手伝って……火の壁無くなったら、ちと辛い。

 後からいっぱいちゅーちゅーしていいから……ね、ね?

 わかってくれた……? ありがとうね。


 よし、ならばそろそろ俺も剣を使うぞ!

「エネルギー ブレード……」

 ちょっと低めの声で、溜めながら言うのが格好いいんだぜ!

 もうすでに光ってるんだけどね。

 

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