第一章 転生しました

第2話  俺、誕生!

 扉に吸い込まれてからどれぐらい時間が経ったんだろう。

 確か神様が他の星に転生って言ってたけど……ここどこ?

 すごく狭くて息苦しい……って息してないぞ!

 でも苦しく……ないな。あったかいしすごく落ち着く。

 手足を伸ばすと柔らかく弾力のある壁が押し返す。

 ああ……愛に包まれてるって実感が……。


 俺って勘が良い方なんだよな。

 これ知ってるぞ! 俺は胎児に転生したんだ!

 って、神様! 赤ん坊が自我持ってる状況って、どうなんだよ!

 別に転生はいいよ。

 嫌じゃないさ。

 でも生まれたら羞恥プレイだぞ!?

 おっぱい吸って、おむつして、赤ちゃんプレイかよ!

 俺、死んだ時42歳だったんだぞ!

 そりゃ童貞じゃなかったし風俗だって行った事だってある。

 けどそんな特殊プレイを頼んだ事は一回もないぞ!

 俺はノーマルなプレイが好みだ!

 まあ……出来れば胸は手の平からちょっと余るぐらいが好みだ。

 具体的にはCカップ以上Dカップ未満がいい。

 って……何を力説してんだ、俺!

 そうじゃない! 神様、赤ちゃんプレイだけは何とかしてください!

 お願いします! 神様!


 ええ……ささやかな俺のお願いなんて、もちろん聞いてもらえませんでした。


 ▲


 母親の子宮ってのは良いもんだな。

 暖かくて何とも言えない優しい空間。

 母さん(と呼ぶことにした)の心臓の鼓動が、やけに安心感を与えてくれる。

 そういえば泣いてる赤ちゃんに心臓の鼓動を聞かせると泣き止むとかなんとか……わかる気がする。

 寝て起きてまた寝て……どれぐらいの時が経ったのか分からない。

 でももうちょっとこのままでも良いかな。


 と思った時期もありました。


 痛い痛い痛い! 頭が締め付けられる!

 頭蓋骨が割れるーー!! 息も苦しい!!

 いきなり何が起きたんだ!

 俺がどんな悪い事したって言うんだー!

 そりゃエスカレーターですごく短いスカートのJKの後ろについてむふふとか思った事はあるけど、見てないからなー! 盗撮もしてないぞー!

 一万円拾ってネコババしたけど…それだけでこんな痛い思いしなきゃならないのかー!?

 だ、誰か……神様たすけてー! もうしません!

 もうムチムチの太もものJK見つけても後ろ追っかけません!

 今度お金拾ったら交番に届けますからー!

 

 ガフッ!

 あの万力で締め付けられるような苦痛からいきなり解放された後、なんか口からいっぱい吐いた。

 喉? 肺? が自由になった瞬間、叫びたくなった。

「んぉぎゃー! んぎゃー! んぎゃー!」

 

 ▲


 出産に立ち会ったのは、村で魔法を使える経験豊富な産婆と、まだ年若い魔法使いの女性だ。

「元気な男の子だよ。さあさあ産湯で綺麗にしてあげようね。」

 母体も赤ちゃんも無事だった。

 助手が赤ん坊に付いた血や諸々を産湯で綺麗に洗う。

 産婆は母体に産後の処置を施し、ケアの為の魔法を掛ける。

 これで産後の出血や諸々の感染症の問題も大丈夫だろう。

 出産で切れてしまった会陰の傷も綺麗に治るはずだ。

「さあ、赤ちゃんを抱いてあげて」

 助手が綺麗にした赤ちゃんを白い布で包んで、母親の胸の上に置いた。

「ああ…かわいい坊や。早くあの人に見せてあげたいわ。」

 母親は赤ん坊をそっと抱きしめると、今は仕事で外に出ている愛する夫の顔を思い出していた。


 ▲


 ……ふう……すっきりした。

 どうやら俺は無事に生まれたらしい。

 ここから俺の新たな人生が始まるんだ!

 もうこうなったら、赤ちゃんプレイでも母乳プレイでも何でも来い!

 まだ視界がぼやけて顔はよく見えないが、声からすると母親はずいぶん若い様だ。

 へっへっへ! 若い女のおっぱいをチューチューしてやんよ!

 下の世話までさせてやるぜ!


 …………わぁーーーん!! どんな羞恥プレイだよーー!! 


 もう死にたい……いや、すでに一回死んでるんだが……。


 ▲


 羞恥プレイ……意外と良いかもしれない。

 

 明るくなったり暗くなったりで、なんとなく一日が分かった。

 生まれてすぐは気が付かなかったが、数え始めてから7回目だから、地球と一緒ならこれで一週間は経ったのかな?

 

 この間、母さんからおっぱいを何回ももらった。

 結構、甘くて美味しい。

 お腹が満たされれば、出るものが出る。

 自分で言うのもなんだが、たぶんかなり臭いはず。

 でも母さんは楽しそうに(雰囲気で)お世話をしてくれる。

 綺麗になったら眠くなる……このローテーション。

 

 変わった事と言えば、どうやら父さん(こう呼ぶ事に決めた)が帰ってきたらしい。

 母さんが嬉しそうに、俺を父さんに渡した。

 父さんは母さんと違って硬くて抱き方が下手だったが、すごく優しい感じがした。


 俺……ここで生きよう。

 父さんと母さんの元で生きよう。

 ここで親孝行しよう。


 やっと実感がわいてきた。

 前世では両親にお別れも言えなかったなあ……。

 さようなら……地球の父さん、母さん。

 俺、この世界で生きていくよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る