第33話 顔合わせの成果

師弟との顔合わせの翌日の放課後、ウィル達の部屋の机の上には先日と同じように紙の束がもう一つ置いてある。

昨日の件で師弟関係を希望していた者の、師弟関係の解除の申請書だった。

彼は紙の束をニヤニヤしながら眺めていた。


「あんた、なに嬉しそうにしているのよ。新入生の間で昨日あんたが、師弟希望者を叩きのめしたって噂になっているみたいだけど」

「叩きのめす……? 学院長にも言ったけどそんなことしてないよ」


彼は当初は、会って見てどういった子が自分と師弟関係を希望しているか、確認して終わろうと考えていたが。

最終的な結果を見れば、彼が師弟希望者を叩きのめして、ふるいにかけるという結果であった。

昨日の件は、昼のうちに新入生全体に伝わり、ウィルは新入生に恐れられる存在と化していた。

その噂は新入生のみではなく、高等部にも師弟制度のつながりで広まっていた。

そしてそれはセレジアの耳にも入り、授業が終わるや否や呼び出され注意を受けていた。


「まぁー我を忘れてしまったのは誤算だけど、これで俺を希望する子はいなくなるかな」

「でもなんか希望書と比べて枚数少なくありませんか?」

「え!」


シルフィーに指摘され、紙の束を2つ見比べるが同じ枚数に見る。

彼は急ぎ解除の申請書の枚数を数える。


「33枚……」

「ルミエールの一行を除いてたしか昨日は36人いたわね。」

「くぁーおしい。あともう一押しだったか。どうせなら最初からあのやり方で進めればよかったかな。希望者を精神的に追い込んで自ら希望を取り下げさせる方法があったか……」

「あんたね……」


手を頭の後ろに組み嘆きながら出るウィルの本音の発言にアリスは軽蔑した視線を送る。

注意を受けた今からやるわけにもいかず心から後悔する。


「さて、まぁこれだけ減ればいいか」


そんな中、彼は残った人物を出すため、希望書と解除の申請書を見比べ希望書から省いていく。

希望書が7枚になると机に並べておく


「この7人か」


7枚枚の中の6枚は七魔家の関係者であるのは確定している。気になるのはそのほかの一枚だ。


「へぇーこの子が残ったんだ」


7枚の希望書の中の1枚はエリーからのものだった。

それもある程度は想定内。昨日の一戦の中でまともにウィルとやりあえたのは3人しかいない。


「よかったじゃない」

「なにが?」


アリスがウィルにささやきかける中、ウィルの背中に殺気に近い視線が突き刺さる。

視線を感じウィルが冷や汗びっしょりになりかけているさなか、希望書を見ていたアリスがあることに気がつく。


「この3人チームメイトみたいね。」

「え!ほんとだ」


希望書には組んでいるチームメイトの名簿も載っており3人の希望書は、他の2枚の希望書の名前が書いてあった。


「へぇ~七魔家でも平民と組むんだね。従者としか組まないか、ぼっちになるかと思ってたよ」

「なぜこちらを見るのかしら?」


既にアリスの手のひらには魔法陣が浮かび上がり、光がほとばしっている。


「いや……なんでもないです……」


ウィルの向かいには考え込むシルフィーの姿がある。


「シルフィーさん……?」

「なんですか?」

「早まらないよね……?」

「手を打てるならもう打っていますよ?」


満面の笑みで見つめられると余計に恐怖を感じる。


「ひとまず個人的な感情は置いておくとしてルミエールの4人は少々ウィルさんにとっては手間がかかるお相手だと思いますよ」

「なんで?」

「オーランド建国以来、ルミエール家だけは一度も七魔家の座を降りていませんから。貴族の仕来たりに疎いウィルさんでも最低限の礼儀は必要な相手です」


現在の七魔家当主は寛容な人物が多い。だがそれは当主であって、その家柄とは異なる。貴族の家では仕来たりを重んじるのが当たり前だ。領地も領民も持たない形式上だけ爵位であっても礼式を求められる。


「うぇ……」

「ウィルさんにとってはいい勉強になるでしょうね」


心底嫌そうな顔で4枚の紙に目を通す。魔法の階梯も貴族の家のご令嬢としては一般的。そしてあの身分が低い者への高圧的な態度だ。関わらないのが一番だが、七魔家の心象を悪くしたくもない。


「3人は百歩譲って受け入れるとして。問題は残りの4人の方かな。なんとかして断れないかな……ルミエール候か」


彼は腕を組み少し考える。

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