第23話 密談

オーランド皇国王都サンルシアの王宮。皇帝の執務室には不穏な空気が満ちていた。

薄暗い間接照明の中カルマの前にはウィルの護衛をしている男が経っている。


「やる気になったのは幸いだな」


夕暮れ時、ボルディルは一度報告しに王宮へと戻ってきていた。


「襲撃者について力や出所は、貴公はどう思う?」

「はっ、襲撃者の実力はオーランド剣聖に近い実力者であると推測しております。しかし……」


言葉を濁す騎士に対しカルマは息を漏らす。


「お主も同意見か。他国からの干渉であるのなら痕跡がなさ過ぎるか……モンニカーナの一件の魔物を従える者が存在すると仮定した場合でも規模が小さすぎる」

「ではやはり……確定でありますか?」

「間違いなかろう」


カルマの口調は推測ではなく確定した言い方だった。


「同じタイミングでシルフィーの婚約に対しての意見具申。今回の襲撃者は間違いなく両家による企てだろう」


カルマは机の上の手紙に目を落とす。


「両家でありますか?」


2通の手紙の表面にはそれぞれ別の家紋が描かれている。それをボルディルへと差し出す。

手紙に目を通すと眼を細め見比べるとカルマへと返した。


「なるほど。文章まで同じとはなめられたものですね」

「それほど今回の件は本気なのだろう」


襲撃が失敗するや否や方法を別の方法にすぐに切り替えてくるのはさすが貴族といったところだろう。冬季に催される七魔家の集まりでの騎士との決闘。そこでウィルを消し去る気なのは考えるまでもない。


「しかし……なぜバラデュール家とラルエット家はそこまでしてアースガルド卿を排除したいのでしょうか……」

「七魔家の地位を脅かされるのではないか懸念しておるのじゃろう。まだ若いとはいえ大帝であることには違いない」


オーランドの七魔家は永代制度ではない。派閥争いや力の衰退で交代することもある。現状の力ではバラデュール家とラルエット家は、同じ穏健派のネクロフィア家の傘下の単一貴族にも勢力で並ばれつつある。

そしてその傘下の一員に加わっている怠惰の大帝。それに加えて先日の地龍の一件でオーランド中でウィルを英雄視する動きが出ている。一部では将来王女との婚姻とは別にオーランドを支える七魔家に推す声も聞こえる始末。功績を考えれば騎士の称号の昇進以外に上位の爵位を与えても不思議ではない。だが、カルマの一存で七魔家の不安定な情勢から今回は見送られた。


「ですが陛下!これは明らかに不敬罪ではありませんか!? 七魔家であるのならば怠惰の大帝がどういった存在なのか理解しているはず。闇の最上級の精霊を他国に奪われる危険性をなぜ理解しない……」

「それほどまでに追い込まれているのであろう。先日の報告では七魔家として維持できる領民の規定を恐らく春には下回る指標がでている」


最後に七魔家が交代したのは100年も前のことその時は1つの家のみだったか、今回は2つ同時だ。交代して新たに七魔家になる家は領民の人口や経済規模によって決められる。その制度のおかげでオーランドの貴族は向上心を忘れずに慢心することがあまりない。


「陛下、こちらから何かこれ以上手を打てないのでしょうか?」

「ほぅ。貴公が誰かのために意見を述べるなど珍しいではないか」


カルマは考え込んでいたがぼるでぃるの発言に思わず顔を上げる。


「この数日間アースガルド卿を見てきましたが、大帝の名通りに怠惰で最初は軽蔑しましたが、騎士であり王女の婚約者でありながらアレーネシアの民にも平等に接している姿勢は、今の貴族にない特別なものを感じます」

「オーランド最強の騎士の貴公にそこまで言わせるとはな」

「私など大した人間じゃありません」

「わしが何度覇剣聖を頼んだか。お主が大した人間でないのであればわしも凡人と思っておるのかのう」

「決してそのようなことは!!」

「ふっ冗談じゃよ」


ボルディルの慌てようにカルマは笑みを浮かべる。

カルマが冗談交じりで話していると部屋の扉が開き一人の人物が入ってくる。


「おじいさま、最強の騎士様をあまりからかわないであげてください」

「王女殿下、なぜあなたがここに……」

「わしが呼んだんじゃ」


カルマは咳払いをして口を開く。


「シルフィー、ウィルの魔法に対しての知識はどのくらいじゃ」

「魔法の知識については正直壊滅的ではありますが、魔法の戦闘面については面白い考えを持っているようです」

「おもしろいじゃと?」

「私にもよくわかりませんでしたが、何かやりたくてもうまく魔法が制御できずによく自爆していました」

「ほぅ……怠惰のスキルで魔法は発動できるが魔力の制御ができないということか。ボルディル。剣の腕はどう見ている」

「アースガルド卿の剣の腕は。剣聖の魔道剣士と剣だけであれば並ぶと確信しています」


発言に驚いたのかカルマもシルフィーも表情を隠しきれない。


「ということは魔法での戦闘に関しては魔力武装だけじゃな。数日見てどう感じた。2か月でどの位実力を底上げできるか述べよ」

「2か月という期間の必要性はあまり感じられませんでした」

「そうか……」


カルマは残念そうにうつむくが


「そういう意味ではなく。自分の身が危険になると人はこうも成長するのかと驚きを隠しきれない所でございます。2か月後がどうなるか私自身楽しみであります。」

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