第一章:それなりに多忙な日曜日
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東京都港区赤坂、日枝神社から外堀通りを渡って反対側に一本入った裏通り。
ハイソサエティなビジネス街であるこのあたりは、同時に、高級料亭が居並ぶ商業地域でもある。
その裏通りに、目立たぬように路駐している一台の乗用車。一見、全くもって特徴のないトヨタ・アリオンだが、その筋のマニアによると、グレードバッジの貼り付け位置が違ったり、そこに監視カメラが隠されていたりするという。
街に溶け込むその車は、警視庁赤坂警察署の捜査車両、所謂覆面パトカーだった。
流石にアンパンに牛乳、などというアナクロな食事ではなく、コンビニのサンドイッチをプライベートブランドのカフェラテで流し込みながらも、運転席と助手席の赤坂署刑事課員は、前方の高級料亭の入口付近から目を離さない。
大晦日まであと二週間程、年の瀬の赤坂、午後八時過ぎ。高級そうな服に身を包み、気もそぞろに街を散策する男女の多い中、その料亭の入口には、人目を避けるように門扉に隠れて、強面でガタイのいい男が二人、佇んでいる。
この料亭で今夜、S会系の末端に属する反社会集団と、外国系組織の末端の所謂半グレ集団との何らかの会合があるとの情報を得たのはつい最近の事だった。資料によれば、どちらも最近成り上がってきた組織であり、末端組織同士のシノギの奪い合い、暴力沙汰には事欠いていない様子。となれば、今夜のこれも、どこかから鉄砲玉が飛んできても不思議は無い。そう考えた赤坂署の刑事課課長は、とにかく監視だけでもと課員を配したわけだが……
それらしい人相の集団が料亭に入ってから既に一時間、今のところ、何の動きも無い。経験上、この手の会合は長くても普通せいぜいあと一時間か二時間、何事も無く終わってくれれば……
助手席の操作員がそう思った、その途端の事だった。
黒いワンボックス、トヨタ・ノアが一方通行二車線の車道に路駐する覆面アリオンを後ろから抜き、料亭の前に急停車した。
そのノアの、ナンバープレートがガムテープで隠されている事を確認した助手席の捜査員は、お手玉しながら警察無線のスピーカマイクを取り、大慌てでプレストークスイッチを押した。
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