第9話 校外学習(中編)
赤い。中華街にやってきた僕が初めに抱いた感想だ。
何て語彙力がないのだろうと自分が情けなくなるが、隣で佐藤も「あっけぇ」と呟いている辺りこれが普通だと思いたい。
ポカンと口を開けて間抜け面を晒す横でひと際明るい声が聞こえてきた。
「......暁さんっ。いこ!」
見れば目を輝かせた立花さんが暁さんの袖を引っ張ていた。
平均的な身長に比べればかなり低い方の二人を見ているとまるで姉妹の様にも思えてくる。暁さんが姉で、立花さんが妹。
普段は物静かな立花さんがここまで盛り上がっているのだ。本当に中華街が好きなんだろう。
「ってあれ?」
さっきまで横にいたはずがいなくなっていることに気が付き辺りを見渡すと、さっそく売店に並んでいる二人を見つけた。
並んでいるお店は小籠包の写真が大々的に張られたお店だ。
僕達も立花さんを追って列に並んだ。
少し待つとすぐに僕たちの順番が回ってきた。
一つ四個入の小籠包を僕たちは二つ購入する。空いている席に腰を下ろし蓋を開けると湯気が立ち上ぼり、あふれ出た匂いが僕のお腹をグーと鳴らした。
「「「「いただきまーす」」」」
小籠包を食べたことは無いが中は滅茶苦茶熱いと聞いたことがある。
暁さん達を見ると半分に割ろうとしているので僕もそれに続くのだが、ここに一人。無知か、はたまた恐れを知らないのか、一人の男が無謀にも熱々の小籠包を口に放り込んだ。
「あ、ちょっ」
その瞬間、机がガタンと揺れた。
犯人は言うまでもない。隣で水を流し込んでいる佐藤だ。
「おい大丈夫か?」
「らいりょうぶりゃない(大丈夫じゃない)」
「佐藤君大丈夫!? 喉やけどしたんじゃない?」
「ふぁもしれない(かもしれない)」
「......小籠包。熱冷ますの、大切」
「ふぃもにめいふぃておきまふ(肝に銘じておきます)」
水を飲んで少し落ち着いたのか今度はちゃんと二つに割って念入りに冷ましてから食べていた。
それから僕たちは次なる中華料理を求めて中華街をフラフラと彷徨い見つけた。
「なぁ佐藤。あれ食べない?」
「あれって。.....あぁいいな。あれは食べなきゃならんよな」
女子二人を連れて僕たちが買ったのは『角煮まん』。
たれがしみ込んだトロットロの角煮を白いパンで挟んでおり、まず見た目からいい。
食べると角煮の濃い味をパンが丁度いいくらいに和らいでくれて、気が付いた時には男二人そろって二つ目を購入していた。
お陰で財布は寂しくなってしまったが仕方がない。
女子二人は二人で一つを買い。お互いに一口一口食べあっていた。
傍から見ればただの姉妹だ。
パシャリとシャッター音がなった。
思わず音の鳴る方に反応すると、その根源は佐藤のてにあるカメラによるものだった。
「人目もはばからず盗撮。佐藤諦めて自首しような」
「まてまて。生憎と俺は係として仕事を全うしたまでだ」
「係?」
僕の疑問にこたえるかのように誰かが佐藤の名を呼んだ。
「こっちも撮ってくれないか?」
「おおいいぜ。はい三二一ポンと。こんな感じでいいか?」
彼らは満足したのか佐藤に礼をいって去っていく。
「というわけさ」
「佐藤君はクラスの写真係を担当してもらってるんだけど、先週のホームルーム梨彗君話聞いてた?」
先週と言えばいろいろな悩みを抱えていた時期だ。
授業中も結構考え込んでしまっていて本当にあの一週間は酷いものだった。
それにしてもこいつにカメラ持たすのは駄目だろ。
一枚撮った後に手慣れた動きでズームしてもう一枚撮るような輩だぞ。現にさっきのメンツに恐らく彼氏持ちはおらず、佐藤はやっていた。
確認していたのが男子のあたり、帰宅後に彼らは怪しい取引を行うに違いない。
「先週は、あぁ色々あってそれどころじゃなくって」
「色々ってもしかして私のせい?」
「あー違わないんだけど違うような」
不安と申し訳なさが混ざった様な表情で彼女は僕を見た。
もう、ぶっちゃけてしまいたい。
実はあれは勘違いで、告白したかったのだと。
写真のことをバラスつもりはなく、ただ返事が聞きたいだけなのだとそう言いたい。
「ちょっと妹と喧嘩しちゃっててね」
話を濁すために思わず妹のことを話してしまった。
嘘はいっていないが、家族間での事情を言い訳として用いたことに後ろめたさだけが残る。
「梨彗君には妹がいるの?」
何故だか知らないが暁さんの声のトーンが僅かに上がった気がした。
「あぁ弥美っていうんだけど、距離感の近い妹にどう接すればいいか分からなくて言い争いに......」
「......へ、へぇ。弥美ちゃんっていうんだ。私一人っ子だから妹とかいたら滅茶苦茶甘やかしちゃうけどなー」
キラキラと輝いていた目が何故だか俯きがちに逸らされた。
「二人とも何話してるんだ? タピオカ飲みたそうにしてる立花さんがここにいるぞー」
「ふぇっ!? ちょ佐藤君!」
「わ、私も喉か湧いてきたし一緒に買いにいこっか」
恥ずかしかる立花さんの手を引き彼女はお店の列に並んでいった。
仲良くなれそうな気がしたが、まだ壁が高すぎるのかな。
弱気になった考えをバチンと顔を叩いて振り払った。
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