第十三章 世界樹防衛戦編
第184話 アレク、危機を知らされる
ボクが団長となり、既に半年が過ぎていた。周囲のサポートもあり、ボクの取り組みは順調に進んでいる。
そして、今のボクは執務室で仕事中。報告書の山を前に、ギルと打ち合わせの真っ最中である。
「ワイバーンの産卵に成功したの? 施設が出来たのって、先月だったよね?」
「ええ、タイミングが良かったみたいですね。代わりに、二組のワイバーンが巣に籠っています。その為、実働可能なワイバーンは六体に減っております……」
飛竜王国から譲り受けたワイバーンは十体。その内、二組が番となり、産卵に漕ぎつけた訳だ。
何せ、ワイバーンの数を増やす手段が限られている。
「まあ、それは仕方が無い事だね。ゴーシュ小隊長と相談して、乗り手の騎士は……」
途中まで言いかけ、ボクは言葉を止める。何となく、外が騒がしい気がした為だ。
ここはペンドラゴン城の三階。用の無い人間が近寄れる場所では無い。
にも拘わらず、足音と叫び声が聞こえるという事は……。
「アレク……。ルージュ達だ……。入れて良いか……?」
扉の方に視線を向ける。すると、僅かに開いた隙間から、ギリーの覗く姿が見える。彼は護衛として、部屋の外で警備役を担っているのだ。
ボクは頷いて見せ、ギリーに返事を返す。
「うん、彼等なら問題無いよ。でも、慌てた様子で、どうしたんだろうね?」
ボクとギルが顔を見合わせ、揃って首を傾ける。すると、間もなく扉が開き、ルージュ達が雪崩れ込んできた。
「ア、アレク殿……! 大変です……!」
「どうしたの……? って、リリアナさんまで……?」
執務室へ雪崩れ込んだメンバーは、ルージュ、ハティ、リリアナさんの三人。リリアナさんは、クラン『精霊の守り人』のリーダーであり、リリーさんの妹でもある。
ルージュ達ならともかく、リリアナさんが城まで来るのは珍しいな……。
「お久しぶりです、アレクさ……いえ、ホワイト伯爵」
「はははっ。人目が無い所では、今まで通りでお願いします」
頭を下げるリリアナさんに、ボクは苦笑で返す。彼女に頭を下げられるのは、流石にむずかゆい物がある。
……何せ、彼女は師匠の妹でもある訳だしね。
リリアナさんは頭を上げる。そして、ボクに対して微笑みを向ける。しかし、それも一瞬の事で、彼女はすぐに真剣な表情でボクへと告げる。
「突然の訪問、申し訳ありません……。しかし、現在はエルフの里が、危機に陥っている状況です。どうか、お力を貸して頂けないでしょうか?」
「エルフの里が……?」
唐突な話に理解が追い付かない……。エルフの里が、危機に陥っているだって……?
基本的な説明になるが、エルフの里は王国の南西部に存在する。正確には迷いの森と呼ばれる広大な土地。その中心に世界樹が生え、更にその麓に村が存在しているらしい。
そして、ペンドラゴン王国は、エルフ達と不可侵条約を結んでいる。迷いの森の自治権を認め、王国側からは決して侵略しないという条約である。
条約を結んだ理由は、エルフの里が強固過ぎる為。エルフ達は森の中で、圧倒的なアドバンテージを持つ。数の暴力で王国側から攻めても、手痛い被害を受けて防衛されてしまうからである。
それならばと、お互いに不可侵条約を結び、エルフ達と交流を持つ事にした。彼等だけが生み出せる、いくつかのマジック・アイテムを入手する事が出来るしね。
……そんな訳で、エルフの里が危機に陥る理由がわからない。強大な魔獣が出現したって、エルフの戦士なら撃退出来るはず。
それとも、戦闘関連では無く、病気とか食糧難とかだろうか……?
ボクが首を捻っていると、リリアナさんはボクの疑問を察してくれる。そして、その疑問に対する答えをくれる。
「現在のエルフの里は、カーズ帝国から侵略を受けています……。いかなる手段か、森の魔力が乱れており、エルフの戦士も十分に能力を発揮出来ていないそうで……」
「何だって……?」
カーズ帝国がエルフの森を……? ヴォルクスを攻め落とせないから、侵攻ルートをエルフの里に変えたのか……?
しかし、それだって容易に攻め落とせる場所では無い。マルコ副隊長の話では、王国が勢力を結集したとしても、攻め落とせるか疑問だと話していた位なのだから……。
だが、リリアナさんは、森の魔力が乱れていると言った。それが、攻略の糸口になっているのだろうか……?
「……これは、ここだけの話としてください」
「ん……?」
腕を組んで悩むボクに、リリアナさんは小さく呟く。周囲の様子を伺いながら、ボクの元へと一歩近寄る。
「世界樹の役割は、この世界にマナを満たす事……。どうやら、この機能に何らかの介入が行われています……」
「世界にマナを満たす……」
ボクは目を剥き、リリアナさんをじっと見つめる。彼女は小さく頷き、ボクの驚きを肯定した。
それはつまり、この世界で魔法が使えるのは、世界樹の存在によるという事だ。世界樹が存在しなくなれば、この世界では魔法を使う事が出来なくなる。
それというのも、マナとは魔力の源である。人々も魔物も、精神力を消費して、このマナを魔力へと変換して使用する。
しかし、マナが消えてしまうと、魔力へと変換する素材が無い。どれだけ精神力を消費しても、魔法は使えなくなるという事だ。
そして、この世界では生活基盤に、マジック・アイテムが浸透している。魔法が使えなくなるというのは、生前のボクの世界なら、世界から電気が消えるのにも等しい状況である……。
ちなみに、スキル系は使えるかもしれない。『ディスガルド戦記』でも、魔法使用不可というフィールドやボススキルが存在した。恐らくは、似たような状況になるとは思うのだが……。
「いや、それはどうでも良いか……」
世界樹の機能は、エルフ達の秘匿された情報のはず。リリアナさんの瞳を見れば、それを相当の覚悟で話したとわかる。
ボクは室内にいる、ギル、ルージュ、ハティに視線を送る。彼等は全員、頷いて黙秘を了承する。
続いてボクは、部屋の外のギリーに声を掛ける。
「ギリー、今の話を聞いていた人は?」
「いや、この付近に気配は感じない……」
ならば、話を聞かれていたという事も無いだろう。ギリーの索敵能力は、格段に向上している。今なら、
一応、リリアナさんも索敵スキルは使用していただろう。その上で、ボク達を信用して話してくれたのだ。
……ならば、その想いには応えなければならないな。
「ルージュとハティは、ロレーヌに声を掛けて出発の準備を。ギルはアンナとマルコ副隊長に、二個小隊を準備する様に伝えて来て。ボクはエドに報告して、救援の許可を貰って来る」
声を掛けた一同は、ボクの言葉に頷いて見せる。そして、部屋から駆け出して行った。
リリアナさんは、ボクの事を不安そうに見つめていた。なのでボクは、彼女に向かって質問を投げる。
「少数精鋭で、最短時間……。恐らくは、一日で最初の救助隊が到着する。それまでは、エルフの里は持つよね?」
「ええ、エルフの里には、リリーお姉様も居ます。一日程度は問題無いでしょう」
リリアナさんは、ほっとした表情で頷く。ボクは彼女に、二っと笑って見せる。
「エルフの里は必ず助けます。だから、もう安心して良いですよ?」
「あ、ありがとう……! この恩は、いずれ必ず……!」
しかし、ボクはそれを手で遮る。何故なら、恩を返すのはボクの方なのだから。
――リリー師匠に育てて貰った恩を、今こそ返す時なのだ。
ボクはギリーとリリアナさんを引き連れ、エドの元へと向かう。頭の中では、想定される帝国兵の能力と、その対策を考えながら……。
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