第17話 アレク、エルフの里を知る
大きなテーブルには、いつも通りに夕食が並んでいた。
野鳥のハーブ焼き。庭の薬草を混ぜたサラダ。森の獣肉やキノコを入れたシチュー。ミーアママからのお裾分けであるパンに、ポムの実を使ったジュース等。食後にはケーキか果物のデザートも付いてくる。
今日の夕食は満足らしく、リリーさんは目を細めながら、美味しそうに食事を取っていた。爺ちゃんはそんなリリーさんに軽く質問を投げかける。
「お主がやって来て、そろそろ三ヶ月という所かのう。稽古を付けてるようじゃが、アレク達の様子はどうじゃね?」
「ミーアとギリーは普通の子……。だけど、アレクがおかしいから、成長速度は普通じゃない……」
「いや、おかしいって……」
ボクのささやかな抗議に対して、リリーさんは呆れた表情で返す。
やれやれという風に、若干イラっとくるポーズを取る。
「先月はストーン・ゴーレムを倒された……。今日に至っては、ドライアドも倒された……。それも、全員無傷で完全勝利……。はっきり言って、戦い方がベテランの域にある……」
「ほっほっほ、流石はアレクじゃのう!」
爺ちゃんは豪快に笑い飛ばしてくれた。ボクは内心ヒヤヒヤしていたが、爺ちゃんの懐の広さに感謝するばかりである。
リリーはジト目を爺ちゃんに向ける。
「アレクはやはりゲイルの孫……。普通に育ったら、こんな規格外には育たない……」
「あはは……」
褒められているか、貶されているか微妙なラインである。
とはいえ、ボクとしては笑って誤魔化すしかない。もう少し周囲の目を気にする必要がある様だ。
成長は遅らせたくないので、自重する気は無いが。
「それで、お主はまだ一緒にいて構わんのか? ワシとしては、もうしばらくアレクの面倒を頼みたいのじゃが」
「構わない……。十年以内に里に戻れば良いから、数年いても問題はない……」
自分の修行は良いのだろうか? まあ、ボクとしては助かってるから何も言わないけど。
「ほっほっほ、それは助かるのう。この調子で行けば、来年にはアレクは賢者になっておるかのう?」
「え……?」
その言葉に、ボクは驚いて爺ちゃんを見た。爺ちゃんは優しそうな顔でボクを見つめている。
しかし、リリーさんはそんな様子に呆れて息を吐く。
「実際、今のペースなら可能……ただし、七歳で上級職は異常すぎる……人の世で暮らすなら、もう少し自重すべき……」
賢者のジョブは黒魔術師のLv30と、白魔術師のLv30が転職条件である。今のボクは黒魔術師がLv15で、白魔術師がLv13である。
確かにこのペースなら一年以内に転職条件は満たせる。
しかし、爺ちゃんはボクに賢者のジョブを習得して欲しいのだろうか?
「なに、いずれはアレクも世界を見て回る日が来るじゃろう。その時の為に、出来る限りの事はしておいてあげたいのじゃよ。……それに、アレクが村を出るは15歳頃じゃろうから、その年齢の賢者は世の中にも多少はおるじゃろ?」
「15歳のアレクとは恐ろしい……。賢者としてベテランクラスなのは間違い無い……。そんな存在は史上初のはず……」
「ほっほっほ、そうかもしれんのう!」
爺ちゃんは爆笑しているが、それは笑い事なのだろうか?
それに、ボクとしては
「所でリリーさんの戻る里ってどういう所なの?」
「エルフの里の事か……。そうか、アレクは知らないのか……」
何故かリリーさんは嬉しそうに胸を張る。どうやら、ボクに知識を披露出来るのが嬉しい様だ。
「森の奥にある静かな場所……。全てのエルフの故郷……。そして、世界樹のすぐ側にある……。我々エルフは、世界樹を守る存在……。世界樹の安全こそが全てに優先される……。エルフの里とはそういう場所……」
「世界樹……」
ボクのプレイしていた『ディスガルド戦記』内では、世界樹は存在していなかった。正確にはボクの死ぬ少し前に、今後のアップデート情報には存在していたが未実装だった。
その為、その詳細情報までは、世の中に公表されていなかったのだ。
「そこってボクでも行けるのかな?」
「アレクがエルフの里に……?」
この世界は『ディスガルド戦記』と良く似た世界だ。
だからこそ、ボクが死ぬ前にプレイ出来なかったコンテンツには少なからず未練がある。
可能であれば、この世界で一目見ておきたいと思ってしまう。
しかし、リリーさんは渋い顔をしていた。
「エルフの里はエルフ以外は入れない……。世界樹の安全の為に、アレクが必要なら話しは別だけど……」
「そっか、それは残念……」
多少の未練はあるけど、無理をしてまで見たい物でもない。
この世界では死んだらやり直しも利かないし、何よりも安全が最重要である。全てのエルフを敵に回す選択等、取れるはずも無い。
しかし、ボクが諦めかけたその時に、リリーさんは躊躇う様に口を開いた。
「ただ……可能性がもう一つある……」
「え……?」
辛そうな表情であるが、リリーさんは話を続ける。爺ちゃんは事情を知っているのか、難しい表情で話を聞いていた。
「10年後に次世代の女王の修行と選定が行われる……。そこで私が選ばれれば、人間を里に招ける様になる……。ただ、修行と選定は10年掛かるから、どちらにしても20年程先の話になる……」
「そっか、20年後なら可能性があるのか」
ボクはわざと明るい口調で返した。ボクの今の年齢が7歳なので、20年後は27歳である。
年齢的にもまだまだ旅に耐えれる年齢だというのもある。
しかし、それ以上にリリーさんの態度から、深く突っ込めない話なのだろうと感じた為である。
恐らくはリリーさん自身が女王になりたく無いのか、なれる可能性が低いかのどちらかだと思う。
少しは理由が気になる所だが、リリーさんに辛い思いはさせられない。
「20年後にそうなっていたら、その時はお願いしますね」
「わかった……」
リリーさんは小さく頷く。表情は少し和らいだが、それでもまだ陰が残っている。
この件については、聞ける様なら、爺ちゃんにでも聞いてみる事にしよう。
そして、ボク達は話題を変えて、団らんの一時を過ごした。
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