白のネクロマンサー ~死霊王への道~
秀文
第一章 ケトル村の日々編
第1話 プロローグ
ボクは遠くに聳え立つ、真っ白な王城に視線を送る。
そこには、ボクの敵が存在している。人類にとって害悪と言える、神の使徒達が……。
「アレク、準備が整ったぞ……」
声を掛けられ振り返る。そこには一人の青年が立っていた。
彼はボクの兄弟であるギリーだ。今は漆黒の弓を手にし、ボクの反応を待っていた。
ボクは小さく頷き、ギリーの背後に視線を移す。彼の背後には、ボクの仲間達も集まっていた。
漆黒の盾を持つ守護者。漆黒の手甲を持つ拳聖。漆黒のマントに身を包む暗殺者。
そして、白いローブ姿の賢者である。
今の彼等は『ディスガルド戦記』の上級プレイヤーにも匹敵――いや、凌駕するだろう。
彼等はゲームに存在しなかった、闇の加護を得ているのだから。
「みんな、強くなったね……」
ボクの声が聞こえたのだろうか。彼等の顔に、微かな笑みが浮かぶ。
ただし、今は決戦前の為、いつもの様な軽口は聞こえて来なかった。
更にボクは、彼等の後方にも視線を向ける。そこには、ボクの配下である不死の軍団が控えていた。
総数五千人のデュラハン。彼等は生前に、剣を得意とした戦士達だ。その剣技を生かす為、デュラハンの姿を与えている。
総数三千人のリッチ。彼等は生前に、魔法を得意とした術者達だ。その魔力を生かす為、リッチの姿を与えている。
総勢二千人のヴァンパイア。彼等は生前に、弓や短剣を得意とした者達だ。その器用さを生かす為、ヴァンパイアの姿を与えている。
『『『…………』』』
彼等は膝をつき、頭を垂れて待機している。視線こそ地面を向いているが、その意識はボクへと向けられている。
彼等はボクからの指示を待っているのだ。その為、ボクは彼等に向けて言葉を掛ける。
「ボク達の敵が、すぐ近くにいる。ボク達から大切な物を奪おうとする、許せない奴等が……」
その言葉に反応し、彼等からの感情が流れ込んで来る。怒り、悲しみ、後悔、憎しみ……。
その感情は様々だったが、一つの共通点が存在した。それは、あの敵を決して、許せないという感情である。
「奴等は強い。神の加護を受けているからね……」
ボク達の敵は神の使徒だ。神から力を与えられ、人を遥かに凌駕する能力を持っている。
本来、只の人間が、立ち向かえる相手では無いのである。
「しかし、君達もまた強い。ボクが戦う力を授けたからね……」
その言葉に、再び感情が流れ込む。
――その感情は歓喜。
復讐の機会と力を得た事で、彼等は歓喜に満たされていた。ボクに対する彼等の忠誠が、本物であると実感出来る。
ボクはその反応に満足する。彼等の戦意は非常に高い。神の使徒が相手でも、決して怯む事は無いだろう。彼等なら必ず、ボクの敵を討ち滅ぼしてくれるはずだ。
彼等の気持ちは確かめられた。ならば、多くを語る必要は無いだろう。
「ボクの望みは唯一つ。敵を殺せ、世界を奴等に奪わせるな! その為に、ボク達は戻って来たのだから……!」
不死の軍団が高揚する。高まる戦意が抑えきれず、その身を皆が震えさせていた。
ボクもそれに釣られる様に、言葉に熱が入って行く。
「神の使徒を好きにさせるな! 全ての天使を殺せ……!」
ボクは身を翻し、王城へと向き直る。そして、手にした杖を城へと向ける。
――神器『死霊王の杖』を。
「死霊王の名において命じる! 全ての敵を、冥府へ送り届けろ!!」
『『『オオオォォォ……!!!』』』
不死の軍団が動き出す。一人でも多くの敵を殺そうと、王城に向けて駆け出して行く。総数一万人にもなる彼等は、一人たりとも敵を逃す事は無いだろう。
彼等の背中を見送った後、ボクは仲間達に視線を向ける。彼等もまた、ボクの言葉を待っていた。
「使徒を殺せるのはボク達だけだ。ボク達も城に向かうよ」
「ああ、任せておけ……」
ボクの言葉にギリーが答える。そして、後ろの仲間達も力強く頷いていた。
彼等もまた、高い戦意を漲らせていた。
「じゃあ、行こう。この世界を取り戻す為に……」
ボクは仲間を引き連れ、不死の軍団を追う。
露払いは彼らが行ってくれる。ボク達の相手は、親玉だけとなるはずだ。
「待っているが良い。もうすぐ、終わりにしてやる……」
ボク達は全てを終わらせる為に、敵の待つ城へと向かう。神の描いた、最悪な物語を終らせる為に。
そう、ボク達はその為に戻って来た。敵を殺す力を手に、戻って来たのだ。
――この戦いは、ボク達が神の使徒と戦い、世界を取り戻す物語である。
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