青炎龍
初めの半分以下の大きさにまでなった青炎龍にヒエイが飲み込まれるのを、キビキは地上から見ていた。
「ヒエイ! ヒエイ!」
キビキは叫ぶが、青炎龍はつるりと飲み込んでしまった。
「おい、コドラ! 何やってんだ!」
キビキは地上に残っているコドラの半身に詰め寄る。しかしその体はもうキビキの手の平ほどしかない。
コドラは、雹を降らせるたびに体が小さくなっていったのだ。
「コガネ城の城主が巫女の元に向かった。ヒエイは護衛だ」
「俺も行く!」
「いかん。地上を守らねばならんだろう。お前の力なしには押されてしまうぞ」
コドラに諭され、キビキはグッと拳を握る。
今、酔いどれ森には二百人近いドワーフたちが来ている。
戻って来たサツマが周辺の武人たちを率いて青炎龍の動きを押さえている。
モロコが呼んだエルフたちは強く、翼を持つ魔物たちを彼女たちの乗るサラマンダーと共に討ち落としてくれている。
だからキビキは、暴れる魔物たちが少しでも水壁を越えないように戦わなければいけないのだと分かっている。
分かっていても気持ちだけはままならない。ままならなくとも戦うしかない。
キビキは全力で戦う。魔物にやられそうな人間がいれば庇ったし、力を合わせる事もした。
ヨネジを知るサン国の兵たちには頭を下げられ、アワタの言葉を信じる人たちは武器を手にどんどんと酔いどれ森の中へ入ってくる。
そのうちに青炎龍は小さな家ほどの大きさになり、コドラの方はキビキと変わらないくらいまで小さくなっていた。
「コドラ、もう止めろ! 体がなくなっちまうぞ!」
キビキが言うと、コドラはフッと笑う。
「私は雲だからな。すぐにモクモクと大きくなるさ」
地面は魔具となり、光り輝いている雹で埋め尽くされている。
すると青炎龍が耳をつんざくような咆哮を上げる。
あまりの声に耳を塞ぐと、青炎龍はそのままバサッと空へ飛びあがる。
その時にポーンと青炎龍の体から何かがはじき出された。キビキがそれを追って行くと、地面に叩きつけられていたのはヒエイと見知らぬ子供だった。
「おい、ヒエイ! 大丈夫か⁉」
キビキが慌てて抱きかかえると、ヒエイはそれどころではないと言う。
「急いで巫女様を追って! 彼女、死ぬつもりなのよ!」
それを聞いたキビキは慌ててシラハナを呼び、空高く上っていく青炎龍を追いかける。
青炎龍はある程度の高さまで来ると、まるで花火のように爆発を起こした。
「シラハナは戻れ! 俺が一人で行く」
「いいえ。僕が飛びます。つかまっていて下さいよ!」
シラハナはそう答えると、火花の合間を縫って近づいて行く。その先に青炎龍ではなく巫女の姿を見た時、青炎龍の体を作っていた魔素はまた爆発をした。
キビキは爆風でシラハナの背から振り落とされてしまう。けれど、そこに人の姿を取り戻した巫女も飛ばされてきた。
ぐったりとして空っぽで、それでも巫女は目を開けてキビキを見た。そして言う。
「……放してよ。死にたいの」
「お前を死なせない」
キビキは強い口調で答える。
「私……たくさん殺したのよ。疲れたの。もう死なせてよ……」
落ちていく空の中、巫女は涙を流す。
「疲れ切って、後悔しながら死を選ぶなんて絶対にダメだ! コドラが言ってたんだ。生きた意味をつかみ取れって。俺もお前も、まだ何もつかんでないだろう。これから一緒にそれを探そう。美味い飯だって食って、一緒に笑って、それからだっていいだろう!」
「でも……」
巫女はボロボロと泣いていた。その涙が空へとのぼっていく。
「下を見てみろよ。みんな待ってんだ」
地上ではヒエイたちが、戦場の誰も彼もが武器を置いて落ちてくる二人を見上げていた。いつの間にか魔物たちはぐったりと倒れている。
「私、こんな事したのに……笑っていてもいいのかな?」
「いいんだよ。お前のせいじゃねぇんだ」
そんな風に話しながら、キビキと巫女は迎えに来てくれた天馬たちの背に乗って地上に降りた。
たくさんの傷跡を残し、たくさんの絆を繋ぎ、大災害は終わりを告げた。
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