13話 マスクの素顔
「すいませんっ」
諏訪門天高校ベンチに響く声で、小宮が監督に頭を下げる。
「いや、いい試みだった」
小宮が顔を上げると、監督はグラウンドを見つめていた。グラウンドでは選手が集まっている。
「あのキャッチャー知り合いなのか」
「はいっ、真田はリトルの時、同じチームで正捕手でした」
「そうか・・・」
監督は真田を観察する。
「真田は左利きなんです」
「そうか、たいしたもんだ。あんなに良い音させて。だから、セーフティーバントか」
「はい」
「彼は凄いな」
「まぁ」
監督は横目で小宮を見る。小宮は自分が褒められたかのようにちょっとだけ嬉しそうな顔をしていた。
「彼は投げた瞬間、グローブを投げ捨ててたぞ」
「えっ」
小宮は驚く。
「審判もピッチャーも驚いてたし、私も驚いた。彼はお前が必ずバントをするのを確信してたのだろうし、必ず当てて前に転がし、しかも自分が取って利き腕で投げないと間に合わない場所に転がすと確信していたのだろうな」
小宮は唖然とする。
「馬鹿かお前は」
「馬鹿ではないです」
郷田がマスクを取った真田の頭上を拳でぐりぐりする。
「あんな危険なことすんじゃねぇよ」
「小宮の表情と性格、技術を考えて判断しました」
真田の当然のことをしたまでだという顔に郷田はキョトンとする。
「そーれーにー、俺様のキャッチャーを投げ捨てやがってーっ。こいつめー」
「あっ、はい、すいませんーっ!!」
再び強めにぐりぐりする。
「真田君だっけ?君は陸上部期待の星なんだろう?ここでそんな危険なことをやって何になるんだ?なんなら、僕たちのチームが負けた方が君にとって・・・」
橋田キャプテンが声をかける。
「別にこのズレてるチームのために頑張る気も、我儘なピッチャーのために頑張る気も全くないです」
「なんだとぉ!?」
郷田がまた叫ぶ。
恋はボールを自分のグローブに投げて顔を上げない。真田はマスクを被る。
「でも・・・僕は、マスクを被ればキャッチャーです。チームがどうでもいいのは同じなんですが・・・被った僕は、夢を追うピッチャーの一番の味方です。そのピッチャーに・・・黒星は付けさせない」
恋に指差しながら、ホームへ戻ろうとする。
パンッ
恋はグローブにボールを投げていい音をさせる。
「ねぇ」
恋が真田の背中に声を掛ける。真田は振り向く。
「サイン決めてないけど、そのままでいいの?」
「遠慮のない恋の球なら諏訪門天は打てないし・・・思いっきり投げたいでしょ?」
「うん!」
「その笑顔、大好き。だから、どんと投げなよ。最高の160キロ」
「りょーかい」
恋はくすぐったいような顔をして返事をする。
「さぁ、楽しくいきましょう!」
真田は両手を上げて大声を上げた。
「おー!!」
「おっ、おー」
恋は元気よく、内外野は困惑しながら返事をする。
「さぁ、こっからだ」
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