第22話 おかしいわ 3

 探偵は黙ってぼくを見ています。鋭く冷たい目。こんな目で見られたことはありませんでした。

「男なんだな? 俊ちゃん」

 それでいて、すっと心に入るような温かな声。

「はい」

「まずいね」と探偵は自分のことのように言います。

「こういう案件は触りたくない。警察に通報すればいいじゃん」

「サツは好きじゃないでしょ、あんたも」とガル坊。

「好き嫌いじゃねえよ。こっちまで疑われちゃうよ。この服装、誰が用意したんだよ」

「知るわけないでしょ」

 グレ太とガル坊が同時に言うものですから、ますます怪しいのですが……。

「最近、誘拐事件があったよな」

「その事件で殺された子のすぐ近くに住んでいたらしいの」

「だが、俊ちゃんは殺されていない」

「まあ、そうね……」

「なぜだ?」

「わかるわけないでしょ」

 探偵はしばらく考えていました。

「暇だから付き合ってやるよ。おれは、金田耕一。探偵と呼ばれることもあるけど、事件を解決したことはない。事件はいつも、なるようになる。ただ、最悪の事態にならないように努力はする」

「はあ」

 ぼくは気の抜けた声しか出ませんでした。耕一は探偵じゃないかもしれない。探偵みたいだけど、ただの悪党かもしれないのです。

「こんち、は」と疲れ果てた声がしてドアが開くと、よれよれの白衣を来たおばさんが入ってきました。医者が来ると言っていたので、続いて誰かがやってくるのかと思ったのですが、彼女一人でした。

「佳苗ちゃん、たびたび悪いわね」とガル坊が駆け寄ります。

「あん、触らないでよ」

 すぐベタベタと触ろうとするグレ太とガル坊ですが、彼女はそれが嫌いらしいのです。ぼくはホッとしました。嫌ってもいいんだ。

「よかったじゃない。意識が戻って」

 彼女が医者なのです。黒く大きなバッグ。開いて聴診器を出すと、ぼくをざっと診察しました。

「もっとましな服、ないの?」

「あったあった、あったわよ、着替えなさい」

 グレ太が、二階から服を持ってきてくれました。診察のためにどうせ上半身は見せるので、ついでに女物のドレスを脱ぎ捨てることができました。ホッとしました。

「うん、男の子ね」

 女医は確認し、喉を「あーん」させたり、目を見たり。それから全身をくまなく確認していきます。

「なにしてるの?」とグレ太。

「わかるでしょ。殴られたり蹴られたりしていないか。注射の跡。ここにあるし」

 肩や、首筋に、ぼくは何本も注射を打たれていたようでした。

「健康ね。なにを注射されたかにもよるけど、五日も眠っていたら薬は抜けていると思う。とにかく生き延びた。えらいわ」

 バシッと背中を叩かれました。

「栄養が少し足りないから、栄養剤を置いていく。しばらく毎日飲んで」と錠剤が半分ほど入ったラベルのない瓶をくれました。

「じゃね、忙しいから」

 女医はあっと言う間に出て行ってしまいました。しばらくして、外で「なんでよ! まったくもー、こんちくしょう」と声がして、彼女が戻ってきました。

「金田君。悪いけど、バイクのエンジン、かけてくれない? 調子が悪くて」

「はいはい」と彼は女医と外に行き、しばらくするとバタバタと軽いエンジン音が聞こえてきました。

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