四十八夜  涙雨の再会

「ここは?」

「ラッシェオくんたちも兄様たちもいないわ」

「私たちだけね」

クレア、ミズキ、アマ、フィナ、トモエの五人の戦士たちは森のような所に飛ばされた。そこは石畳がしかれ、赤い鳥居が立つどこか懐かしさを感じる夏の風景…夕暮れ時なのか日は西に沈もうとし、蜩たちの鳴き声が辺りに木霊していた。

「ちょ、私たちの恰好が」

フィナは自分たちが夏祭りに行く浴衣姿になっているのに気付いた。

クレアは優しいメロンみたいな薄緑の生地に大輪の華で遊ぶ蝶の刺繍がされた浴衣、フィナは水色の生地、ニ匹の金魚が楽しく泳ぎ、、アマは緑色の生地に白い百合の華、ミズキは紫生地に朝顔が咲き乱れていた。

トモエは赤い生地に優雅な桜と下の方にかわいいらしい毬が刺繍された浴衣に身を包んでいた。

「なんで、私たちがこの姿に…?」

「お兄様やお姉様方がおっしゃていた異世界現象?」

「私たちまでなるなんて、この場所は誰も知らないから一度戻れるように念じてみる」

だが、何も起こらなかった。

さらに摩訶不思議なことに気が付く。

夏のように暑く、蜩が鳴く夕暮れ時から突然辺りが暗くなったのだ。

「え?なんで、こうなるの?」

「嘘、何が起こるの?」

すると、夜の闇に支配された周りが石燈籠やぼんぼりに灯が灯され、不思議な物の正体が現れた。

「ちょっ、夏なのに…」

「なんで…桜が咲いているの?」

五人の周りの木々に枝垂れ桜が満開に咲き乱れていた。

その根本には…

「彼岸花だわ」

秋に咲くはずの花が、この場所は時間がおかしいのか、色々な季節が切り取られた場所なのか…?

「うぅ、何かが来るわ」

「え?」

トモエが何かが接近していることに気付いた。

全員が身構えた。武器や防具はないが普段のバトルモードになった。

やがて、現れたのは、

“キーキー”“キ、キー”とたくさんのコウモリたちが現れた。

「キャア」

「私、コウモリ嫌い」

「吸血コウモリじゃないの?」 

「皆、落ち着いて…」

コウモリたちを追い払うと五人の前に黒いマントを羽織り、シルクハットを被り、仮面で目を隠して、黒い短髪を逆立てた男が立ていた。

しかし、瞳は血のように赤く青白い肌をし、口元からは白い牙が出ていた。そお、伝説の怪物「ドラキュラ伯爵」を思わせるヴァンパイアが五人を狙っている。

「怖い」

「おっかないわ」

「この化け物、私たちを舐めないでよね」

クレアたちより身長は低いが、怪物は「ガァ!!」と漆黒のマントを広げるとコウモリたちの洗礼を受けた。

「キャアー」

「イヤーン」

「コウモリ嫌い」

しかし、無情にもコウモリたちは襲い来る。

ヴァンパイアは、牙を光らせて飛びかかる。

クレアは、近くに落ちていた木の枝を握り構える。トモエやミズキも同じく木の枝などで戦う姿勢を見せる。

そうだ。自分たちは少女戦士、戦う訓練や修行はしてきている。

「いつもの武器や防具はないけど、王国に忠誠を近い、市民を守る戦士団の一員よ」

アマとフィナも格闘術の構えをする。

五人で一斉に取りかかるが、ヴァンパイアは何か強力な電磁波のようなもので、五人の身体は弾き返された。

「きゃああ」

「結界?強すぎるわ」

ヴァンパイアは強力な圧力も出した。

まるで、大岩か重りがのしかかるような気持ちを感じた。

「ぎゃあ」

「いや、重い」

「ちょっ…あんた…仮にも紳士らしい恰好しているなら、レディーに乱暴な事…するなんてはずかしいと…思わないの?」

クレアがヴァンパイアに行いを非難する。しかし、相手は人語もわからない怪物、自分たちの気持ちなど伝わるはずがないと思った矢先、

「うぅ、うぅらー」

ヴァンパイアはこの世のものとは思えない雄叫びを轟かせた。

(今だわ)

トモエとミズキが、木の枝をひるんでいるヴァンパイアに投げつけた。「ガァー」

倒れ込んだ時に皆でたたみこもうとすると…

「あっ」

クレアは、棒を落とし身体が硬直した。いや、何かに気付いてしまったのだ。

やがて、桜吹雪が吹き荒れ、夜桜と涙雨が…

「…トルギス」







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