二十三夜  似た者夫婦

「シャチー、また、失敗なの…?この能無し、給料泥棒、楽ニート!!」

聞くに耐えない罵声を浴びせられるシャチーがいた。彼女は職場で仕事の失敗で女性上司がイライラを募らせてぶちまけたのだ。

「申し訳ありません。係長」

「謝罪も言い訳も聞きたくないわ。あんた、毎度毎度いい加減にしなさいよ。何度失敗したら出来るの?入社して試用期間は終わっているのよ。今回の間違いにカーリーさんが気付いてくれたから損失が出なかったからよかったけどもし、最悪の事態を招かなかったからよかったけど、本当になっていたらあんた責任取れていたの?そこを理解しているの?ねえ?」

ものすごい罵詈雑言交じりの説教、周りの同僚や先輩たちはまた無能社員がと呆れ顔になり、冷笑するものがいた。

「次までに成果を出してよね。さっさと仕事に戻りなさい」

デスクを強く叩く上司…小さく会釈して仕事に戻るハスだが、心は壊れかけだ。

(やはり、私…この仕事に向いてないのかな…)

その後、他の社員が定時であがってもハスは席で大量の書類整理をしていた。

見積もり書やら始末書、数えればきりがない。一人暗くなったオフィスでパソコンやファイルとにらめっこして終わらせる。

「八時か…みんな、今頃楽しんでいるかなクラス会」

今日は小学校時代の同窓会だ。お洒落なシャルルの町で有名な高級ホテルですると案内状が送られてきたのだが、友達がいない彼女に取って欠席するつもりだった。

セントラルに来て半年が過ぎたが…仕事に追われる毎日、夢見ていたモデルになるためのレッスンもトレーニングも全く出来ていない。なぜなら、スクールやジムに通うお金すら中々作れない。

(この町で錦を飾るのは…もう、無理なのかな…)

目の前が潤んできた。

「おい、ハス、こっち終わらせたから手伝いに来たぞ」

一人の男性が入ってきた。

「インドラ」

「これは大量だな。あのヒステリー女にプレゼントされたのか、手伝うから出来るやつをしていきな」

「うん」

彼氏のインドラが仕事を終わらせて応援に来てくれた。ハスは瞳を拭いて書類を終わらせた。

「インドラ、ありがとう」

退勤した後、下宿近くのファミレスで遅い夕飯を取る二人。すでに、終電の時間は回っている上に雨が降り出した。

「ハス、今日も辛かったな…見ていても腹が立つし、嫌な気分になる。あの上司、パワハラやいじめでコンプライアンス部に通報するべきだ」

彼氏の優しい言葉にハスは救われる。

「うん…でも、そんなことしたら…貴男の夢が…これまでの努力も駄目になっちゃうよ」

「ハス…」

二人は、生まれた町を捨てたのは、家庭にも学校にも居場所がなかったからだ。

ハスとインドラはある資産家一家の一人っ子として生まれたが、両親たちに愛情はなく、家や会社の忠実な跡取りにし、さらに事業を拡大しようとしていたのだ。

そのため、学校でも習い事でも友達といる時でも気が抜けなかった。常に上位にいても両親や祖父母は、「こんなの落第だ」「これでは、○○君や○○さんには及ばないわ」「これでは、会社や家を継がせられない」と褒めるどころか罵詈雑言やパワハラや虐待紛いの説教や躾ばかりだ。

さらに、同級生や教師にも扱いづらいや人付き合いが悪いなどで孤立していた。

“協調性がない”

それ故に二人でいる時間が多くなった。

「ここまで来るのは遠かったけど、俺はここに居られるのはハスが居てくれたからだ。Webライターになる夢もハスのモデルの夢も叶えたいからだったのに…現実は辛いな」

インドラが拳を握りしめると、彼女はその手に自分の右手を添えると

「インドラ、私は貴男と一緒に来られたのが一番嬉しかったんだよ。他の誰かを誘わず、私をこの町に連れてきてくれて…」

しかし、彼女の言葉が途切れた途端…










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