二十ニ夜   再会

「父さん、母さん、ルル、おじさん、おばさん、どこだよ。おーい」

気が付いた時、ラッシェオは近くの畑が広がる田園地帯の古いお稲荷さんの前で倒れていた。

しかし、行けども人の姿がない…

畑には新鮮な野菜が実っているのに、収穫している人もいない。ここはどこなのか…?

“グギュルルル”

何も口にしていないため、空腹が酷く喉も渇いた。彼の心の悪魔が囁く

“誰もいないんだ。ひとつくらい”

だが、

“だめだ。農家の方が心を込めて作っているんだ。子供や孫みたいに大切に育てているのに、誘拐犯になりたいのか!!”

天使に喝を入れられて、顔を震わせたラッシェオは、

「よし、我慢しよう。お百姓さんとお野菜の家族の絆を奪いたくない。母さんにもそう言われているだろう。ラッシェオ・シュバルツ」

空腹と渇きを我慢して、両親やルルを探す。

すると、前から男女が歩いてくるのに気が付いた。

「人だ。カップルか親子かわからないがここがどこか教えて貰おう」

声をかけようとすると、髪を整えた二十代前半の男性と花柄のワンピースを着たショートヘアーの女性が歩いてきた。

“あれ、あのお兄さんとお姉さんは…”

服装が違うが、ラッシェオは覚えていた。

「あの草原にいたカップルだ。お兄さんが町を出たいて…お姉さんが泣いていた。あの二人だ」

あの二人の世界に迷い込んだのか…

“よし、勇気を出して”

「すいません。ここがどこか教えて下さい」

声をかけるラッシェオ。

「ラッシェオくん、ラッシェオくんなの?」

男性がラッシェオの名前を呼ぶ、しかし、俳優やモデルのようなかっこいい男性だが、声は女性みたいだ。

まさか、男装した歌劇団のアイドルさん?と思った時に、彼は思い出した。

「ハスお姉ちゃん、お姉ちゃんなの?」

「そうよ。ハス=シャチーよ」

「私は、こっちの中にいるよ」

敦子の心から彼に問いかける。

ラッシェオとハス、ルルは再会の抱擁をした。

その後、ここがどこか互いに教えあった。

ルルの憑依している敦子は、石橋敦子と言うここ、池田町に暮らす二十四歳の会社員、ハスの憑依する男性岡田尚樹とは同い年で、高校からのクラスメート、今は同じ町の特産品を製造している鯉城食品りじょうしょくひんの工場に勤めているが、尚樹には大都会でICTプログラマになる夢があり、両親や周りの友人たちに反対されても諦めたくないので、大都会に出たいと言うこと…

だけど、愛する敦子と一緒に行きたいというのだ。

「私、尚樹さんの気持ちがわかるの…インドラと二人でセントラルシティーの都心に住むのが夢だったから…虐められたり馬鹿にされても、それだけが支えだったから…」

「お姉ちゃん…」

「僕とルルもわかるよ。今がそんな現状だもん」

ルルは口を噤んだ。

ここから、ハスがどんな人生を歩んだのか…紹介しよう。



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