遠星 毎日が辛い仲良し家族の不思議な異世界キャンプ

古海 拓人

一夜 大冒険への扉

広大な大草原が遥か彼方まで広がる。

優しい風がその中心に立つ二つ姿があった。

「また、ここに来られたね」

「あぁ、あの大冒険があったから、僕らを作ってくれたんだ…」

それは若い夫婦だった。

二人は宇宙まで続くような青空を眺めて話した。

あの夏のことを…

“ピィー”

空高くホイッスルが鳴り響く。

「ラッシェオ、また、ビリ?何回練習したら、タイム出せるの?」

担任のエマ先生から叱責をもらう。

ゴーグルを上げるラッシェオと呼ばれる少年は辺りを見渡すと、自身以外は全員がプールサイドに上がっている。どうやら、また、ビリのようだ。

「ごめんなさい…」

「まったく、今期も体育赤点よ」

同級生たちは赤点と言われている彼に、だめじゃんなどとクスクス嘲笑したり、呆れる者が多い。

“また、ラッシェオだよ”

“ほんとに、クラスの落第生ね”

“かっこ悪い”

そんな声があちらこちらで聞こえる。彼は悔しいと惨めな気持ちでいっぱいだった。

「すいません。先生」

「もういいわ。上がりなさい」

エマ先生は“じれったい”と言う感じで言う。だが、ラッシェオの後に続いてプールから顔を出したもう一人がいた。

「ルル、あなたもなの?って、もしかして、底を進んでいたの?」

スイムキャップとゴーグルを取ると長い金色の髪と青い瞳をした少女。

彼女の名前はルル、ラッシェオと同じくクラスではある意味一目置かれている生徒だ。

「先生、泳げました」

頑張り泳いだ彼女に待っていたのは労いの言葉でも褒め言葉でもなく…

「何言っているの。誰が潜水ダイブしなさいと言ったの!!!赤点」

怒鳴り声に彼女は萎縮し、びくッとなってしまった。瞳は潤み出していた。

「ラッシェオもルルもわからないのか…?エマ先生だけでなく、周りの皆も二人のダメっぷりにはほとほと呆れているんだ」

学級委員長で勉強もスポーツも出来る秀才くんのヴィッシュが厳しく二人を見下すように言った。

「お前らはクラスの恥なんだよ」

「まったく、これだからイチャつくしか出来ない二人は、よくうちのクラスにいられるな」

取り巻きのシーヴァとブラフも同調して言う。

彼らのクラスは成績優秀な子が揃い、テストは学年平均では高く、コンクールやスポーツの試合では必ず誰かが優勝したり、金賞や銀賞を治めている。

だから、担任も生徒たちもプライドが高いのだ。

そんな中で、いつもビリのラッシェオとルルは好成績を作ることが出来なかった。いつの頃から、二人はクラスでこう呼ばれた。

“Bottoms〜落第カップル〜”と言われていた。

何回反復練習や反復問題をしても結果は作れない。成績はいつもビリだ。

だから、多感な年頃の子供たちの間ではそんな二人はかっこうのいじめや仲間はずれの標的だった。

遠足などの行事ではグループに入れて貰えなかったり、遊びには誘ってもらえないなど十代あるあるだ。

その日は正午までしか授業の日なので、プールが終わった後はそのまま帰宅になった。

だが、ラッシェオとルルの足取りは重かった。

「家帰ったら、母さんが多分カンカンに怒っているよな…夏休みはお小遣いもなし、ゲームや漫画も禁止の辛い宿題地獄だ」

「私も…まあ、夏休み遊ぶ友達もいないしね」

寂しそうにこぼす彼女に、ラッシュオは、

「ルル…もし、休み中にさ…君がよければ、二人でどこか行かないか…二人だけで」

「え…?」

「誰にも見つからない場所…」

二人だけ…それは甘い響きに聞こえた。

なぜなら、これまでは二人で宿題したり、ゲームしたりしていたが、二人だけで遠出なんて…

ルルは顔が紅くなった。だが、それは言ったラッシェオもだった。

なぜなら、まだ、十一年しか生きていない幼い二人には、刺激的だった。

たが、帰宅後にその熱き思いは打ち砕かれる。

「ただいま」

「おかえり、ラッシェオ」

「おお、帰ったか!!」

両親のピースとユリが一人息子が帰宅し、キッチンに行くといつもより一段と豪勢な夕飯が並べられていた。

「わあ、今日はご馳走だ。何かいいことがあったの?」

「これからあるんだよ」

「手を洗ってきたら、食べながらママたちの話を聞いてね」

「うん」

このあと、彼は両親から衝撃のお知らせを受ける。

「ルルの家とキャンプに…?」

「そうだ。俺たちもフーガとティアと話したんだが、丁度二人とも夏休みだし、一週間ぐらいな」

「二人とも、毎日頑張っているから、夏休みの思い出をママたちからプレゼントしてあげるわ」

優しく微笑む両親、ラッシェオは感動した。

〜やった。すぐにルルに伝えよう。父さんと母さんたちがすごいプレゼントをくれる〜

もちろん、彼はすぐにルルに伝えた。

一方、彼女も同じく両親が話していた。

「お父さん、お母さん、それは本当なの?」

すごい笑顔で尋ねる娘に父のフーガと母のティアはピースとユリのように話した。

「そうよ」

「せっかくの夏休みだからな。二大家族の夏旅だ」

やった~と大喜びのルル。

彼女もまた、ラッシェオとは違う形で夏を楽しめるきっかけを作れた。

〜ルルと楽しめる〜

〜愛しい彼と〜 

舞い上がる二人だが、これは、楽しいひと夏の思い出でなくなることはまだ知らない。

キャンプ当日の空は生憎の雨だった。

ラッシェオは雨音で目を覚ました。

「ちぇっ、雨か…遠足の日もこれでみんなから雨男って言われたな」

しかし、目覚まし代わりに耳にしたラジオでは、ちょうど天気予報が流れて来た。

住んでいる町は一日雨だが、目的地のメビウスは到着する昼前には雨は止んで、晴天になる予報だった。

とりあえずは身支度を済まし、両親と朝食を取る。

「母さん、美味いよ」

「ありがとうね。今日は楽しみね。大好きなルルちゃんと居られると言っても、浮かれ過ぎないようにね」

「はーい」

返事するラッシェオだが、両親の注意はどこ吹く風だとすぐにわかった。なぜなら、これまで息子が学園で孤立して辛い思いをしていたが…仕事の関係で家を開けることが多く、中々助けてあげることが出来なかった。だから、今回休暇が取得出来たので、二人が幼稚園の時みたく家族旅行に連れて行こうと両親たちは春先から計画していたのだ。

だが、出発前から荒れ模様は半端ではなかった。

「すごい風雨だね」

ルルは窓の外を見て心配そうに言う。

「うん、だけど、目的地に到着する頃には晴天になる予報だから心配ないよ」

ラッシェオは家を出る前にラジオで聞いた天気予報の事を言って、ルルを安心させる。

「それならよかった」

六人の乗った車は道路を走り、町を出るが空は何かを暗示するかのように雨と風は強くなった。

運転しているフーガは、ピースと何かを話ていたので、ラッシェオは気付いて二人に尋ねた。

「父さん、おじさん、どうしたの…?」

まさか、中止にして引き返すのか、この近くなら屋内アミューズメントパークもあるので、そっちに行くのかと思ったが、

「心配しなくていいのよ」

「そうそう」

ユリとティアは大丈夫だから心配しないようにと促す。

「はい」

彼は少し不安だった…なぜなら、父親たちが少し神妙な面持ちだったからだ。

やがて、対向車も少なくなり、六人の車以外は見なくなった。そして、雲から光が差し出した。

「晴れ間だよ」

その後、雨と風は弱くなり、先ほどまでの悪天候がウソのように穏やかになり、一面の緑がどこまでも広がるメビウスの草原に着いた。

雨上がりなので、足下は濡れていたがじめじめした気持ち悪さは感じない。足を下ろすと夏草の匂いがした。

町中暮らしの彼らは雨上がりのアスファルトが乾く時は蒸し暑い嫌な臭いしかないので、自然の草と土の乾く匂いは彼らには優しかった。

「ルル、池があるよ」

「わぁー綺麗な場所だね。お父さんたちが見つけてくれたんだよね。すごいわ」

「父さん、母さん、ありがとう」

子どもたちは両親たちに年甲斐もなく抱きついてお礼を言う。

「これは私たちからのプレゼントだ」

「心おきなく遊びなさい」

「さあ、準備したら、豪勢な昼飯を食べよう」

「二人とも楽しみましょう」

ピース、ユリ、フーガ、ティアの両親たちは笑顔で子どもたちを抱きしめた。

大草原に優しいせせらぎの小川が流れ、六人以外は誰もいない穴場スポットだ。両親たちはこの日のために見つけておいてくれたのだ。

事実上の貸し切りだ。

「行こう!!」

「オッケー!!」

さあ、大冒険は始まった。

“時はお金以上に無駄に出来ない、楽園に飛び込め!!!”を愛言葉に六人は楽しむことにした。

扉はゆっくりと開いた。




































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